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上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
「すみだクラシックへの扉」 #26
“ モーツァルトは完璧すぎて手が出せない ”
こんな言葉を、コンサート冒頭のモーツァルト:交響曲第39番変ホ長調を聴きながら思い出していました。
当日のプログラム
2024年10月26日(土)
14:00@すみだトリフォニーホール
モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調 K. 543
モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K. 550
(休憩)
モーツァルト:交響曲第41番ハ長調 K. 551「ジュピター」
上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
何色にも染まらない第39番
“ モーツァルトは完璧すぎて手が出せない ”
イタリアの巨匠アルトゥーロ・トスカニーニ(Arturo Toscanini, 1867-1957)が語ったという言葉です。
モーツァルトを演奏することの難しさを、実に的確に指摘している言葉だと思います。
「交響曲第39番」をコンサートで耳にするたび、よく、この言葉を思い返します。
本当に難曲だと感じます。
この作品を“ 聴かせる ”ことができるということは、その人が並はずれた指揮者であることを証明しているようなものだと感じるくらいです。
第39番に比べたら、まだ第40番ト短調のほうが、指揮者たちのいろいろな解釈を許容してくれているのかもしれません。
交響曲第39番は、モーツァルト晩年の“ 透明感 ”が特にきわだっているように感じられ、それゆえに、何色にも染まらないし、何もかもが透けてみえてしまう作品だとも感じています。
個性派指揮者である上岡敏之さんは、この曲の随所で、いろいろな創意工夫を行っていました。
そして、そのほとんどを、作品が受け付けていないように私には聴こえました。
ただ、これは、なにも上岡さんに限ったことではなくて、例えば、いつだったか、サイモン・ラトルが手練手管を駆使してベルリン・フィルとモーツァルトの後期三大交響曲を演奏したときにも、まったく同じようなことが起こっていました。
もっと自然に演奏すればいいのに、とも思ってしまいますが、多くの現代の音楽家にとって、モーツァルトを“ 自然に ”演奏することがどれほど難しいことであるかは、コンサートに行っても、新しく出る録音を聴いても、日々、痛感させられるところです。
ひと昔前の、たとえばイングリット・ヘブラー(Ingrid Haebler、1929-2023)のようなピアニストを、いつの間にか、現代の私たちは失ってしまいました。
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聖と俗
この日は、つづく40番でも41番「ジュピター」でも、やはり、同じようにモーツァルトの難しさを感じさせられました。
また、いろいろな創意工夫が凝らされ過ぎていたせいなのか、モーツァルトの音楽が「世俗的」に聴こえてきたのも、私は気になりました。
モーツァルトの音楽は、それも後期三大交響曲ともなれば、もっともっと高いところにあるものだと、私は感じています。
本来は神棚にあるべきものを、下に降ろしてきてしまったような違和感がありました。
それゆえに、耳が興味を失ってしまうというか、これほどの傑作に接しているのに、退屈に感じてしまう時間もありました。
メヌエットのたのしみ
でも、そんななかで興味深かったのは、いずれの交響曲でも、第3楽章「メヌエット」だけは、上岡敏之さんの創意工夫を受けとめている面があったことです。
とくに第39番の第3楽章。
トリオが進むたびにデクレッシェンドしていき、だんだんと音楽が遠のいていくような、遠近法のアプローチがとられていました。
これはとっても面白かった。
こうした瞬間は音楽が生きたものとなって、モーツァルトを聴く「愉しさ」をあじわいました。
それから、これは創意工夫というわけではないのですが、第40番のトリオ。
この部分がアウフタクトで始まることがはっきりとわかる演奏になっていて、おっと思いました。
ここだけ変拍子のように聴こえてくる演奏が実に多いです。
第40番のメヌエットは、近年多くなっているスタッカート気味の演奏とは正反対に、全体がテヌートを基調としたアプローチになっていて、「モーツァルトの短調」の響き、悲哀を感じさせるシックな響きが耳をひきました。
デフォルメとモーツァルト
というわけで、以前、ベートーヴェンのピアノ協奏曲での繊細な伴奏を聴いて、上岡さんの指揮するモーツァルトはきっと素晴らしいにちがいないと思ったのですが、予想していたものとはずいぶん違うものが聴こえてきた公演になりました。
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今のところ、上岡敏之さんの芸風をあじわうには、やっぱり「ブルックナー」を聴くのがいちばんのようです。
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ある種の強調、デフォルメに面白さが生まれる、という点では、モーツァルトではなくて、ハイドンやベートーヴェンの作品のほうが、上岡さんの芸風に適している作曲家なのかもしれません。
そうなると、往年の巨匠クナッパーツブッシュの得意とするレパートリーと、もしかしたら被ってくるのかもしれません。
そして、演奏していた新日本フィルハーモニー交響楽団について。
ここ数年、ポピュリズム路線におおきく舵をきったように見える新日本フィルですが、やはりアンサンブルはどこか大味で、「ひと昔前の日本のオーケストラ」を感じさせられるものでした。
だれか本格的にアンサンブルをブラッシュアップしてくれるような指揮者を招いたほうがいいように思いますが、まずはチケットの売り上げが最優先事項ということになるのでしょう。
上岡敏之さんの工夫に満ちたアプローチを聴いていて、これだったらヴァイオリンを左右にわけて両翼配置でやったほうが効果的なのでは、と思いましたが、両翼配置にするとアンサンブルがいっそう難しくなるものなので、上岡さんは敢えてそうしなかったのかもしれません。
それに、上岡敏之さんが指揮したときには、どの演奏会でも、ハッとさせられるような美しい響きが聴かれる瞬間が必ずあったのですが、この公演では一度もありませんでした。
新日本フィル、今後が心配です。
おしまいに、冒頭でご紹介した“ モーツァルトは完璧すぎて手が出ない ”と語っていたトスカニーニですが、実際には、実に素晴らしい録音まで残しています。
苦手であると公言しても、これだけのものを残していく。
巨匠の足跡に脱帽です。
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