コンサートレビュー♫私の音楽日記

ユナイテッド・ユーロ・ブラス・クインテットを聴いて~世界的名手たちの金管五重奏

 

世界最高峰の金管楽器奏者で構成されたユナイテッド・ユーロ・ブラス・クインテットのコンサートを聴いてきました。

世界的な金管楽器のアンサンブルというと、私は以前、ブラック・ダイクというイギリスの名門ブラス・オーケストラを聴いたことはありますが、少人数のアンサンブルによる生演奏を聴くのは今回が初めてでした。

そして、初めての本格的ブラス・アンサンブル体験が彼らのものでよかったと思えた、とても素敵な時間を体験できましたので、ここにその公演のことをつづっておきたいと思います。

 

メンバーとプログラム

 

ユナイテッド・ユーロ・ブラス・クインテットのメンバーは以下の通り。

ラインホルト・フリードリッヒ(トランペット/ルツェルン祝祭管弦楽団首席)
イェルーン・ベルワルツ(トランペット/元ハンブルク北ドイツ放送交響楽団首席)
ラッセ・マウリッツェン(ホルン/デンマーク国立交響楽団首席)
イアン・バウスフィールド(トロンボーン/元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団首席)
トーマス・ロイスランド(テューバ/デンマーク国立交響楽団首席)

錚々たる顔ぶれです。

 

そして、私が聴いたコンサート会場とプログラムは以下の通りでした。

2022年7月30日(土)15:00@彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール

ラモー(フェルヘルスト編曲):歌劇《ダルダニュス》組曲より
エヴァルド:金管五重奏曲第3番変ニ長調Op7
テレマン(カルリール編曲):トリオ・ソナタイ短調TWV42:a6
(休憩)
ルトスワフスキ:小序曲
ヴィヴァルディ(ビントナー編曲):ラ・フォリア ニ短調 Op1-12
アーノルド:金管五重奏曲第1番Op73
J. レノン&P. マッカートニー(フェルヘルスト編曲):ビートルズ・メドレー
(ペニー・レイン → イエスタデイ → レット・イット・ビー → オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ)

(アンコール)
テレマン:トリオ・ソナタイ短調TWV 42:a6~第2楽章と第4楽章
J・レノン&P・マッカートニー(フェルヘルスト編曲):ビートルズ・メドレー

 

いつもと違う雰囲気の会場

 

夏日の炎天下のなかを駅から歩いてコンサート会場にむかっていると、普段のクラシック・コンサートと違う客層の方がたくさんいらっしゃることに気づきます。

そう、日本は何といっても吹奏楽が盛んな国。

コンサート会場には、吹奏楽部の生徒らしき学生さんも小中学生から大学生までたくさんいましたし、老若男女、ほんとうに幅広い層のお客さんが集まっていました。

私が普段聴きに行くようなクラシック・コンサートも、本来はこうでなければいけないと改めて思います。

 

そうした、少し特別感のある雰囲気のなかで登場したユナイテッド・ユーロ・ブラスのメンバー。

意外なことに、この錚々たるメンバーのアンサンブルの中心人物である、トランペットの名手ラインホルト・フリードリッヒは、セカンド・パートの席に着きました。

 

そうして、1曲目のラモーが始まりましたが、彼らにはこのホールはちょっと狭すぎるのか、最初はダイナミクスやバランスの点で試行錯誤をしているようでした。

それに、ラインホルト・フリードリッヒがやや精彩を欠くというか、連日の公演の疲れが出ているように見受けられました。

もしかしたら癖なのかもしれませんが、しきりに唇を触っていました。

もう何年も前ですが、クラウディオ・アッバード(1933-2014)指揮するルツェルン祝祭管弦楽団のなかで吹いている彼を実演で聴いたときの、あの驚くような響きの輝きと安定はあまり聴かれず、ちょっと肩透かしをくらったようなコンサートの始まりになりました。

 

きっと私以外のお客さんも同じような印象をもったはずで、というのも、1曲目のラモーが終わったあと、彼らが一度舞台袖に下がると、すぐに拍手が止んでしまいました。

拍手が長すぎる傾向のある日本では、けっこう珍しいことです。

 

でも、これでいいと思います。

正直な反応こそ、お互いの信頼関係になります。

そして、彼らはプロのなかでも「王様」といっていいランクにいる人たち。

そうした聴衆の素直な反応は、むしろ、彼らを奮起させるものです。

 

 

前半のエヴァルド

 

前半の3曲のなかで、わたしが特に素晴らしいと思ったのは、2曲目のエヴァルド:金管五重奏曲第3番変ニ長調Op7の第1楽章でした。

この楽章はソナタ形式で書かれているようですが、その主題の提示、そして移行句、さらに第2主題の提示、などなど、楽曲の構造、音楽の展開が目に見えるように、鮮やかに描かれたことにおどろきました。

 

つまり、彼らは技術的に巧いだけではないということ。

優れて美しい音を聴かせるだけではなく、何より、“ 音楽 ”そのものを聴かせることができるアンサンブルということ。

CDなどをふくめ、金管楽器のアンサンブルを聴いていて、こんなに音楽の“ 形 ”が手に取るようにはっきりと伝わってきたのは、初めての体験でした。

 

ただ、そうしたところで彼らの素晴らしさを理解できはしたものの、どうも、いまひとつ期待値を超えない印象のまま、前半は終わってしまいました。

 

 

コンサート後半、だんだんと増すその輝き

 

コンサート後半は、20世紀の作曲家ルトスワフスキの《小序曲》で始まりました。

12音技法のような、いかにも現代的な音楽で、私は初めて聴く曲でしたが、各奏者の色彩的な音色と刺激的な楽曲に、とても新鮮に耳を傾けることができました。

 

そして、このルトスワフスキ以降、前半のややくすんだ印象だったアンサンブルが、だんだんと霧が晴れて来たように感じられました。

 

素晴らしかったヴィヴァルディ

 

ルトスワフスキのあとに送られた盛んな拍手に応えつつ、彼らは舞台袖へは下がらずに、そのまま次の曲へと進みました。

後半の2曲目はヴィヴァルディの《ラ・フォリア》。

16小節のテーマにもとづき、たくさんの変奏曲がつづく音楽でしたが、これが変奏を重ねるごとに、どんどん音楽が深まり、高まっていく、素晴らしい演奏となりました。

 

聴いていて改めて感心したのが、やはり彼らは優れた器楽奏者であるだけでなく、実に優れた「音楽家」でもあるということ。

それは各変奏のみごとな描き分けにも感じられましたし、それと同じくらい、変奏と変奏のあいだの“ 間 ”の取り方にも、端的にあらわれていました。

 

楽想のつなぎめというのは、その音楽家の音楽性が端的に露呈してしまうところです。

それが最もはっきりとわかるのは、ブルックナーの交響曲の全休止や、シューベルトの音楽で現れる休符だと思いますが、彼らがこのヴィヴァルディで聴かせた“ 間 ”はとても音楽的でした。

もう、音楽の息づかい、そのものでした。

 

彼らのヴィヴァルディの躍動は後半に向けてだんだんと会場に広がっていって、クライマックスのころには、わたしは自分の身体が演奏に合わせて自然に揺れているのに気づきました。

周りのお客さんの迷惑になってはいけないと思ってハッとしたんですが、うれしかったのは、会場の至るところで同じように身体が自然に揺れているお客さんが、私のほかにもたくさんいらしたことです。

 

あれは、まさに彼らの音楽が、会場をほとんど完全に支配した瞬間でした。

 

 

メインディッシュはアーノルド

 

そうして温まった雰囲気のなかで、おそらく、この日のプログラムの要であるメインの曲、イギリスの作曲家マルコム・アーノルド(1921-2006)の金管五重奏曲第1番Op73がやってきました。

「よし、いよいよメインディッシュだ!」というような高揚感が、演奏に入ろうとしている彼らの表情からはっきりと伝わってきました。

 

実際、始まって聴こえてきた音楽の腰の据わり方、安定した音楽とその充実した展開は、今後もそうは体験できないであろう、たいへんな出来栄えでした。

フリードリッヒ・ラインホルトはやはり大変そうで、絶好調という感じではありませんでしたが、それでも、そんな状態でもここまでの演奏ができてしまうんだということに感嘆せずにいられませんでした。

 

前半のエヴァルドも音楽の有機的な発展が実に素晴らしかったですが、あの曲では第2楽章で音楽が弛緩する瞬間があったのに対して、このアーノルドでは、第2楽章以降も見事に緊張感が保たれていました。

そして、もう限界まで走ってきたランナーのような力走で、あの短い第3楽章のフィナーレが高揚感をもって演奏されました。

 

フィナーレの最後の和音が、懸命な輝きで鳴り渡ったあとには、会場からワッという、ため息のような、声にならない感嘆の声が拍手とともに沸き起こりました。

アーノルドの金管五重奏曲のような、およそ一般の音楽好きでも知らずに過ごしてしまうような曲で、ここまで会場が盛り上がるのかと楽しくなりました。

 

きっとあの会場には、本当にブラス・アンサンブルや吹奏楽が好きなお客さんが、たくさん集まっていたんでしょう。

 

 

デザートはビートルズ・メドレー

 

金管五重奏にもともと興味がないと、知らない曲ばかりがずっと並んでいたこの日のプログラムで、唯一、誰でも知っている曲だったのが、このおしまいに置かれたビートルズ・メドレーだったでしょう。

私は最初にこのコンサートのチラシを見たときに、これほどの名手があつまってコンサートをやるにしても、最後にはビートルズを置かなければ集客が難しいのかと、ちょっと考えさせられました。

 

こうしたクロスオーバー、ジャンルを超えた選曲というのは、とても難しいものだと私は思っています。

それに関しては、クラシックの最近の音楽家は、じゃっかん無頓着になっているとすら感じています。

 

私は別に、ポップスを低く見ているというわけではありません。

私はクラシックを聴くようになる前、最初に夢中になった音楽のジャンルは、ポール・モーリア、パーシー・フェイス、マントヴァーニといった、イージーリスニング、ムードミュージックの世界でした。

彼らの仕事はまさにクロスオーバーの権化で、映画音楽、ポップス、クラシックの名曲が並列でプログラムに並べられます。

 

でも、彼らはただそれらを並べていたわけではなくて、それらが違和感なく調和するように、とても周到にアレンジを施していました。

簡単に言えば、ポップスはクラシック寄りに、クラシック音楽はポップス寄りにアレンジされます。

 

いっぽうで、クラシックの演奏会でポップス曲を混ぜるとどうなるかというと、クラシックは原曲尊重であり一切アレンジはされませんので、そのままの姿のクラシック作品のなかに、ポップスだけがやや姿を変えて投入されます。

最高級のお寿司を食べたあとにチョコレート・パフェが出てくるような、最上級のステーキを食べたあとにおしるこが出てくるような違和感を私はよく感じます。

チョコレート・パフェはわたしがいちばん好きな食べ物なんですが、そのパフェやおしるこがどれだけ最高級であったとしても、それまでの味の余韻とどうしたってぶつかります。

 

この日のビートルズ・メドレー、彼らの最高の演奏のおかげで、結果的にはとっても楽しむことはできたのですが、けれども、それまでの余韻、あのヴィヴァルディの響きの残響などはすっかり忘れなければいけなかったことは、やはり残念だと感じました。

 

 

ミスが宝物になる瞬間

 

それでも楽しかったこのビートルズ・メドレーでは、おしまいのところにきてハプニングがありました。

本当に最後の最後の音を、ファースト・トランペットがはずしてしまったんです。

 

会場じゅうが「あっ」と思った瞬間で、それはステージ上の彼らも同じでした。

でも、もう私たちは完全に彼らのもの。

そのミスもひとつのサプライズであり、たのしい驚きのひとつにしか感じられません。

ステージ上でファースト・トランペットのイェルーン・ベルワルツが悔しそうに拳をにぎりしめて「くそー」という表情で笑って見せるのを、同じく笑顔で共感してしまいます。

 

ひとくちにミスと言っても、ほんとうに色々で、このときのミスは“ 宝物 ”のような傷跡です。

仮に、この日の公演がライヴ・レコーディングされていて、いつか、あのミスが修正された上でリリースされたとしたら、きっと、あの日会場にいたお客さんのほどんどががっかりすると思います。

会場じゅうがみんな笑顔になったミス。

忘れられないミス。

このコンサートを彩る、美しいリボンのようなミスでした。

 

 

アンコール

 

後半、ルトスワフスキ、ヴィヴァルディ、アーノルド、ビートルズと来て、会場はもうたいへんな拍手喝采で、前半のすっと止んでしまった拍手は嘘のようです。

ステージ上の彼らもそれをひしひしと感じているようで、ラインホルト・フリードリッヒも何度も胸に手をあてて聴衆に感動を示したり、手をふったり、投げキッスをしたり、メンバー全員が満面の笑みで拍手にこたえつづけます。

 

そうして、もう体力の限界であろう彼らは、それでも、拍手に応えて、前半に演奏されたテレマンのソナタから2曲もアンコール演奏をしてくれました。

アンコールが進むたびに、拍手喝采はさらに増してしまいます。

 

ステージと客席がひとつになってしまうコンサートの、お手本のような盛り上がりです。

そして、ステージ上で何やら相談しはじめた彼らは、まさかの3曲目のアンコールを演奏してくれました。

 

演奏がはじまって驚いたのが、あのビートルズ・メドレーをもう一度最初から演奏し始めたことです。

もう限界まで吹ききっているはずの彼らが、ある程度の長さを持つビートルズ・メドレーをもう一度演奏し始めたことに、驚くとともに、なにか心を動かされずにはいられませんでした。

 

そして、やってくる最後の最後の音。

さきほど演奏されたときには外れてしまった、あの音。

さすが、ファースト・トランペットのベルワルツは、今度は見事に音を決めました。

 

あの宝物のようなミスが、見事に、ドラマのように伏線が回収された瞬間。

ステージ上で「決めてやったぜ!」というような笑顔のベルワルツ。

 

私はもう、心からの、一生懸命の拍手をステージ上の彼らに送りました。

 

一流の演奏家の姿

 

トランペットに話題が集中してしまいましたが、ホルン、トロンボーン、テューバ、そのどれもが同様に素晴らしくて、全員がひとり残らず各楽器のエキスパートであることが、その“ 音 ”からはっきりとわかる、隙のないアンサンブルでした。

 

サウンドは非常にヨーロッパ的。

きらびやかというよりも、やわらかな輝きで、しっとりとした質感をもっていました。

それに、ブラス・アンサンブルというと、どうしてもその力強い音を活かしたショーのような派手さが印象に残るものが多いなか、彼らは楽曲の構造や形式を尊重し、音楽的な説得力をとても重視していることに敬意を感じました。

 

ラインホルト・フリードリッヒが疲れきっている様子だったのに、それでも、これだけの成果を成し遂げてしまったということにも尊敬の念をおぼえます。

彼らがやってみせてくれたことは、まちがいなく一流の音楽家の仕事。

絶好調でなくても、ここまでの音楽を聴かせることができる。

凄いことです。

 

ほんとうに楽しくて、しかも、音楽的に充実したコンサートでした。

ユナイテッド・ユーロ・ブラスのみなさん、是非、また日本で演奏を聴かせてください。

 

 

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