シリーズ〈交響曲100の物語〉

【交響曲100の物語】メンデルスゾーン:交響曲第4番イ長調Op90《イタリア》~小さな試聴室

 

自身のブログでこうして名曲を紹介していて、「あ、今度はこの曲について書けるんだ」とわくわくするときがあります。

今回はまさにそうで、もしこれをお読みの方で今回の曲を初めて聴くという方がいらっしゃるなら、こんなに素敵な曲を紹介する役を担えることに、光栄でしあわせな気持ちになります。

シリーズ《交響曲100》第33回は、メンデルスゾーンの交響曲第4番イ長調Op90《イタリア》です。

 

ベルリオーズとメンデルスゾーン

 

前回ご紹介したフランスの若き作曲家エクトル・ベルリオーズ(1803-1869)は、1830年に熱烈な失恋体験から《幻想交響曲》という前代未聞の交響曲を生み出し、みごとに成功させました。

さらには、フランスの若手音楽家の登竜門ともいえる「ローマ賞」を受賞し、順風満帆のなか、ベルリオーズは留学のためローマにやってきます。

 

 

いっぽう、今回の主役メンデルスゾーンもまた、見聞を深めるためのイタリア旅行の真っ最中で、ローマに長期滞在していました。

こうして、奨学生ベルリオーズと銀行家の息子メンデルスゾーンは、ローマにおいて出会い、友人となります。

ベルリオーズはメンデルスゾーンの音楽性に感動しきりで、よく訪ねていっては、メンデルスゾーンにベートーヴェンのピアノ・ソナタを演奏してもらったり、メンデルスゾーンのほうでもベルリオーズを遺跡巡りに連れ出したりと、しっかりと交流があったようです。

 

とはいえ、古典的な傾向の強いメンデルスゾーンにとって、鬼才ベルリオーズの音楽は異質なものに感じられたのは確かなようで、「ベルリオーズのオーケストレーションはめちゃくちゃで、そのスコアをさわったあとには、手を洗わずにはいられない」というようなことまで言っていたりします。

 

ただ、歴史的な交響曲を生み出したベルリオーズに続くように、メンデルスゾーンもまたこの時期に、自身の代表作となる、新しい交響曲のインスピレーションを得ることになります。

 

 

交響曲「イタリア」、そして、ベートーヴェン

 

メンデルスゾーンにとって、ローマ滞在中のおおきな成果のひとつが、新しい交響曲のインスピレーションを得たことでした。

そうして生まれるのが、交響曲第4番イ長調《イタリア》です。

 

この《イタリア》という題名は、メンデルスゾーン自身の命名ではなくて、後世につけられたニックネームです。

ただ、メンデルスゾーン自身も作曲当初は「イタリア交響曲」と呼んでいたので、あながち間違ったニックネームではないでしょうし、フィナーレにイタリアの民族舞曲サルタレロのリズムが応用されていることと、曲全体の颯爽とした輝きが与える印象からも、この《イタリア》というニックネームはとても相応しいように思います。

 

この交響曲は、結局、イタリア滞在中には仕上がらず、初演はしばらく後の1833年、メンデルスゾーンが24歳の年になってから。

ロンドンにおいて、指揮者としても著名だったメンデルスゾーン自身の指揮でおこなわれました。

 

現在は番号が「第4番」となっていますが、実際には、交響曲第1番、そして、第5番《宗教改革》につづく3作目の大きな交響曲でした。

番号がずれたのは、初演が大成功だったにもかかわらず、メンデルスゾーン自身はその出来栄えに満足できず、おおきな改訂の必要性を感じていて、結果、生前には出版されなかったためです。

これほどの傑作が未出版だったというのは、信じがたいことです。

 

 

また、これはあくまで私の想像ですが、この交響曲はベートーヴェンの交響曲第7番イ長調を指標にしているのではないかと感じています。

 

同じ「イ長調」が選択されていて、さらには、躍動的で優美な第1楽章、短調の音楽に明るい長調の慰めがもたらされる第2楽章、それから、熱狂的な舞踏の精神で書かれたフィナーレの第4楽章という楽章構成。

何度聴いても、ベートーヴェンの交響曲第7番の存在を随所に感じます。

そうしたなかで、第3楽章はいかにもメンデルスゾーンの心の歌が書かれていて、偉大なるベートーヴェンを指標としつつも、自身の刻印もはっきりと押してある構成には、彼のまぎれもない天才を見る思いがします。

 

 

🔰初めての《イタリア》

 

メンデルスゾーンの交響曲というのは、どこから聴いても親しみやすいです。

これは、彼の天性の歌謡性、徹底的にみがかれた旋律の美しさがいちばんの理由でしょう。

 

ですので、どこから聴いても親しみやすいわけですが、あえて順番をつけるなら、まずは第1楽章アレグロ・ヴィヴァーチェから聴いてみてください。

この第1楽章の出だしこそ、この交響曲の精神そのものであって、まさにこれ以外にはありえない輝かしい音楽で、颯爽と開始されます。

 

そのあとには、熱狂的なフィナーレである第4楽章サルタレロ、プレストを聴いてみてください。

メンデルスゾーンの情熱的な側面が感じられるだけでなく、やはりどこか妖精を描くような、スケルツォのような“ 軽やかな躍動 ”も同居していて、メンデルスゾーンにしか書けない音楽になっています。

また、この楽章は短調なので、実はこの交響曲は「長調」ではじまって「短調」で終わるという、比較的めずらしい構成になっていることになります。

ですが、不思議なくらい、聴き終わったあとには「長調」の交響曲としての響きが残ります。

これもまた、メンデルスゾーンならではのことでしょう。

 

第3楽章は、メンデルスゾーンの優しい歌の楽章。

わたしが小中学生だったころ、NHKのラジオで「トスカニーニ・ライブラリー」という、イタリアの巨匠アルトゥーロ・トスカニーニ(1867-1957)を扱った連続放送をやっていて、そのエンディングテーマがこの楽章でした。

大好きだった番組のエンディングに流れるので、曲そのものの響きと相まって、今もどこかノスタルジックに私には響いてきます。

この番組では、オープニングに第1楽章が使われていて、この交響曲を聴くたびに、あの番組のこと、そして、番組のパーソナリティーを務めていた諸石幸生さんのことを思い出します。

 

第2楽章は、この曲のなかでは唯一はっきりと暗さを感じられる楽章です。

わたしは最初すこし馴染めない音楽でしたが、下でご紹介するカザルスの指揮する演奏を聴いたとき、そのフルートの雄弁な響きを耳にして以来、かけがえのない美しい音楽だと感じられるようになりました。

 

 

私のお気に入り

このブログでは、オンライン配信されている音源を中心にご紹介しています。

オンライン配信でのクラシック音楽の聴き方については、「クラシック音楽をオンライン(サブスク定額制)で楽しむ~音楽好きが実際に使ってみました~」という記事にまとめています。

 

アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団

この曲の名演奏として名高い歴史的な名演奏ですし、私自身もこの演奏でこの曲に出会ったので、忘れがたい録音です。

アルトゥーロ・トスカニーニ(1867-1957)はイタリア出身の大指揮者で、以前、彼の演奏を年代順に紹介していく「トスカニーニ・ライブラリー」という連続放送をNHKのラジオが放送していました。

ちょうどクラシック音楽に興味を持ったころに、幸運にも毎日曜日、この偉大な大指揮者の録音を連続で聴けたことは、わたしにとって大きな財産になりました。

彼の数多い録音のなかでも、とりわけ代表的なもののひとつとして知られる《イタリア》の録音でも、緊張感に満ち、力強い陽光を浴びたカンタービレの芸術を聴くことができます。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

 

パブロ・カザルス指揮マールボロ音楽祭管弦楽団

少し小ぶりな編成のオーケストラで演奏されているように聴こえますが、出てくる音楽はとても大きく、深い響きを持っています。

パブロ・カザルス(1876-1973)は20世紀を代表する大チェリストであり、大指揮者。

カザルスの録音は、何を聴いても脱帽させられます。

 

私はこの演奏を聴いて、とくに第2楽章の美しさを教えられました。

それはもう、目から鱗が落ちるような驚きでした。

フルートがこんなに多くを語る瞬間はそうそうありません。

 

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レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィル

これは異色の演奏です。

第4楽章の後半で特にはっきりと感じられるのですが、バーンスタインはこの交響曲のなかに、情念のような、鬱屈としたもの、強い衝動のようなものを感じ取っているようです。

 

こうした解釈の傾向は、きっと、バーンスタインが尊敬していたギリシアの巨匠ディミトリ・ミトロプーロス(1896-1960)の影響ではないかと思います。

ミトロプーロスもまた、ユダヤ系だったメンデルスゾーンの音楽のなかに、マーラーの予感のようなものを読み取っていたように感じます。

 

バーンスタインのこの演奏は、その意味で、とてもユダヤ的な演奏といっていいのでしょうか。

 

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クラウディオ・アッバード指揮ベルリン・フィルハーモニー

イタリアの名指揮者クラウディオ・アッバード(1933-2014)が、1995年の大晦日にベルリン・フィルとジルベスター・コンサートで演奏したもの。

このときは前半に、真夏の夜の夢がセミステージ形式で上演されて、いかにもオペラで活躍した劇場人アッバードらしいコンサートで、強く印象に残っています。

 

彼には《イタリア》の録音が若いころから数種類ありますが、私がいちばん好きなのはこのときの録音です。

ほかの録音には、テンポ設定などで知的なセーブがかかる瞬間があるのですが、このときの演奏は良い意味で自然体で、とっても素直に演奏された心地よさがあります。

 

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クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

こちらはYouTubeの動画で、公式なものです。

この動画でドイツの名指揮者クルト・マズアが指揮している楽団こそ、メンデルスゾーンが生前、実際に指揮台にあがっていたオーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団です。

メンデルスゾーンは指揮者としても著名で、“ 指揮者 ”というものを独立した仕事として確立した、最初の人物とされています。

 

動画のリンクでは、第3楽章から再生が始まるようにしてあります。

 

 

 

♪メンデルスゾーンが大好きなので、絵が得意だった彼の水彩画やスケッチをモチーフにしたTシャツも制作しました♪

 

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