エッセイ&特集、らじお

【エッセイ】クラシック音楽評論家 諸石幸生さんの訃報に接して~コンサートの聴き方

つまらないコンサート

もう何年前のことになるか、年が明けて間もない時期に、海外の人気指揮者とオーケストラの来日公演があって、横須賀芸術劇場まで新年早々出かけていきました。

とっても楽しみにしていた公演でしたが、始まってみると、悪い意味でルーティーンを聴かされたというか、前半も後半も実に面白みのないコンサートでした。

 

チャイコフスキーの『くるみ割り人形』からの抜粋などが演奏されたこともあって、それでも満員状態の会場はそれなりに沸いていましたが、私はつまらない演奏をされたときにはどうしても拍手をしたくないので、ただただがっかりして舞台、そして客席を眺めていました。

 

もう一人だけ

すると、私の席からちょっと離れたところに、もう一人だけ、私とおなじように拍手をまったくせず、少し怒っているような、冷めた視線で舞台を観ている人がいました。

仲間がみつかった気分でうれしくなって、何となくその人を見ていたら、何と驚いたことに音楽評論家の諸石幸生(もろいし さちお)さんでした。

 

諸石幸生さんは、当時NHKのラジオ番組でよく解説をなさっていた音楽評論家で、『トスカニーニ・ライブラリー』や『20世紀の名演奏(名演奏ライブラリー)』などの番組を通して、私がクラシック音楽を聴きはじめたころからずっとお馴染みの方でした。

諸石幸生さん、黒田恭一さん、吉田秀和さんの3人が、知識ゼロだった私に、主にFMラジオを通して、クラシック音楽の知識と楽しさをたくさん教えてくださった“私の”音楽評論家でした。

 

コンサートの聴き方

その“ 私の音楽評論家 ”のなかの一人が、今、同じホールにいて、自分とまったく同じ反応をなさっていることに、本当に感激しました。

 

それと同時に、ラジオでは落ち着いた丁寧な語り口で、とてもやわらかな印象だった諸石幸生さんが、外から見てもわかるくらい、演奏に対して強い批判精神をもって接している姿はとても意外で、強い印象を受けました。

あのひどい演奏に対して、はっきりと、真摯に、そして素直に反応されていたことに、とても信頼できる方だと思いました。

 

あの日のプログラムは名曲ばかりだったのに、思い出そうとしても何ひとつ思い出せないので、やはり本当につまらなかったんだと今でも思いますが、そんなつまらなさであっても、諸石幸生さんと「共有」「共感」できたということが、あの日とてもうれしくて、今もいい思い出になっています。

 

訃報に接して

今朝(2022/4/15)の新聞に、その諸石幸生さんの訃報が載っていました。

しばらく前のラジオでの様子から体調がひどく悪そうなのは感じていましたが、まだ70代前半の年齢だったとのことで、とても残念に思います。

 

私は今も、自分が中学生当時にラジオ放送を録音したカセットテープを大切に聴いています。

ですので、諸石幸生さんの声を今もよく耳にしています。

 

私のブログでトスカニーニの演奏を推薦することが多いのも、諸石幸生さんの放送でたくさんのトスカニーニの名演奏を聴いて育ったからでしょう。

 

私にかぎらず、数々の放送や著作を通して、素晴らしい音楽との出会いをあたえられたリスナーは日本中にたくさんいるはずです。

日本のクラシック音楽の普及に、とても貴重な貢献をなされた方です。

 

諸石幸生さんのご冥福をお祈りするとともに、あらためて心からの敬意と感謝をささげたい気持ちです。

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