シリーズ〈オーケストラ入門〉

【オーケストラ入門】メンデルスゾーン:劇音楽『真夏の夜の夢』~小さな試聴室

 

シリーズ《オーケストラ入門》、今回はメンデルスゾーン作曲の劇音楽『真夏の夜の夢』です。
『真夏の夜の夢』という題名を聞いてもピンとこないかもしれませんが、実は、パパパパーンではじまる有名な「結婚行進曲」は、ここでご紹介する劇音楽のなかの1曲です。

これは“劇音楽”、つまり、劇を上演するときにその進行にあわせて演奏する目的で書かれたもの。

こうした劇音楽では、ほかにベートーヴェンの『エグモント』、シューベルトの『ロザムンデ』、ビゼーの『アルルの女』、そして、グリーグの『ペール・ギュント』などが有名です。

序曲のこと

『真夏の夜の夢』は、ドイツの作曲家メンデルスゾーン(1809-1847)が作曲した劇音楽。
題材になっているのは、イギリスの文豪シェイクスピア(1564-1616)の戯曲『真夏の夜の夢』です。

物語はいたずら者の妖精パックが媚薬でひきおこす様々な騒動を描いたもので、最後は無事ハッピーエンドにおわる喜劇。

メンデルスゾーンには音楽の才能豊かなファニー・メンデルスゾーンというお姉さんがいて、そのお姉さんとピアノ連弾するために「序曲」がまず17歳のときに書かれ、オーケストラ編曲もすぐになされたようです。

序曲のあとの曲

それからかなり時間がたって、メンデルスゾーンが34歳のころ、その「序曲」に感動した当時の国王によって続きの音楽を書くよう求められたことで、追加で序曲以外の音楽が作曲されました。

メンデルスゾーンは38歳で亡くなっているので、いわばその少年期に序曲が書かれて、早すぎる晩年に続きが書かれたことになります。
でも、序曲と続きの音楽に、そうした年齢の差や時間の隔たりは感じられません。

メンデルスゾーンという作曲家がとっても早熟で、非常に若くして完成された音楽をもっていたということになります。
文豪ゲーテがとても感心し、かわいがっていたというのもそういうことなんでしょう。

メンデルスゾーンの魅力

今回ご紹介するこの劇音楽は、そんなメンデルスゾーンの魅力がつめこまれた、宝石箱のような傑作です。

まず、「序曲」や「スケルツォ」に聴かれる妖精が飛び交うような、躍動する音の戯れ。
こうした音楽は、まさにメンデルスゾーンの真骨頂。

このロマン派の時代、ウェーバーやベルリオーズがやはりこうした方向性の音楽を書いていますが、ウェーバーはメンデルスゾーンよりもう少し重みがあって、ベルリオーズはメンデルスゾーンよりもっとめまぐるしく、まばゆくなります。
ベルリオーズにそうしたイメージがない方は、序曲『海賊』を聴いてみてください。

メンデルスゾーンは、なんといっても軽やかで優美、まさに私たちが妖精と聞いてイメージするものに、いちばん近い音のたわむれを聴くことができます。

そして、「夜想曲」に聴かれる、憂いを帯びた旋律線もメンデルスゾーンならではのもの。
ロマン派が生んだ、最も美しい瞬間のひとつがここにあります。

けっして忘れてはいけない「結婚行進曲」の中間部にも、たいへん美しい音楽がはさまっています。
私が「結婚行進曲」でとりわけ好きなのは、この中間部です。
優しい旋律と切なく優しい和声のうつろいに、いつも心をうばわれます。
この中間部だけでも、彼は音楽史に名前を刻めるはずです。

そうした旋律線の美しさは、「妖精の歌」「フィナーレ」といった声楽が入る音楽でも聴かれます。

とっても優しい気持ちになれる音楽。

私のお気に入り

有名な曲から聴きたい方は「結婚行進曲」から、
静かな音楽を聴きたい方は「夜想曲」から、
妖精の舞う姿を見たい方は「スケルツォ」から聴いてみてください。

 

オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団、これが私のいちばん好きな演奏です。
序曲を含め10曲が演奏されています。

クレンペラーはいつも通り、ここでもとてもゆっくりなテンポを採用しています。
それがとてもメルヘンチックに、曲想をやさしく包みこんでいます。
はじめてこの演奏を聴くと、そのテンポへの違和感があるかもしれません。
そのときは、別の演奏で楽しんで、いつかまた戻ってきてみてください。
( YouTube↑、AppleMusic ・ Amazon Music ・ Spotify ・ LineMusic )

 

 

上でご紹介したクレンペラーが「指揮者のなかの王」と呼んでいたアルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団の古い録音も残っています。
こちらは全部で6曲が演奏されています。
ひきしまった音楽の造形、決して甘くないのに抒情的で、決して優しくないのにあたたかい音。
録音の古さをとびこえて、音楽のほんとうの美しさが心に響いていきます。
録音が残っていることが本当にありがたい、大指揮者の貴重な遺産のひとつ。
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近年とりわけ熱心にこの曲を演奏していた指揮者のひとりがクラウディオ・アッバード
私の特に好きな指揮者のひとりです。

1995年のおおみそかにはベルリン・フィルとのジルヴェスター・コンサートの前半で、語りも含めたセミステージ形式で上演して、これはとても素敵なステージでした。
声楽のやわらかで、澄んだ響きはいかにもアッバードの仕上げたもので耳をひかれます。
そのライブ録音が出ています。
本当は映像で見たいところですが、残念ながら2021年9月現在、公式のものはDVD含め、まだ出ていません。
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上のものは歌も語りもドイツ語ですが、さすが劇場でキャリアを築いたアッバードというべきか、原作がシェイクスピアということもあってか、同じ日に「英語版」も別に録音したんだそうです。
さらに、その英語版の語りの部分だけを日本語に吹き替えた版が配信されています。
語りは石丸幹二さんがなさっています。
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さらにアッバードは、自身が音楽監督をつとめたこのベルリン・フィルとの、結果的に最後となった共演の際も、この『真夏の夜の夢』を取り上げていて、録音も残っています。
こちらは7曲が抜粋で演奏されています。
最晩年のアッバードが到達した、透明な、澄みきった抒情性が深く心にのこる演奏です。
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アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団は、児童合唱を使っているのが珍しい録音。
声楽の入る音楽で、メルヘンチックな要素がいっそう際だって聴こえてきます。
これは、やはり『真夏の夜の夢』を題材にしてオペラを作曲したイギリスの大作曲家ベンジャミン・ブリテンの追悼演奏会でやったのを機にレコーディングされたそうで、このコンビの代表的録音にもなりました。
いろいろな意味で記念碑的なレコーディングです。
( AmazonMusicは↓・Spotify ・ LineMusic )

 

もともとはメンデルスゾーンが姉とピアノで弾いてたのしむための曲だったという話をしましたが、実際にピアノで演奏している録音もあります。
なかでも素晴らしいのは、シルバー・ガーバーグ・ピアノ・デュオ
この二人の演奏は、力みがなくて、フォルテにも抑制が効いて、全体がじつに柔和で優しい表情をしています。
作品に自然に語らせているというような演奏。
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おしまいにどうしても、もうひとつだけ。

チェコの名指揮者ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団の演奏を。
このCDをとてもよく聴くので、ここでご紹介しないのは嘘になりますので。
さわやかなテンポのなかで、この誠実なコンビらしい、知情意のバランスが最高度にとれた音楽が刻まれています。
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