コンサートレビュー♫私の音楽日記

ジョナサン・ノット&東京交響楽団の出色の伴奏~エルガー:ヴァイオリン協奏曲を聴いて

 

昨年の上半期には、このノット&東響のコンビによるウォルトン「ベルシャザールの饗宴」(公演レビュー)に熱狂して、下半期にはショスタコーヴィチの交響曲第4番の忘れがたい演奏(公演レビュー)にも遭遇しました。

いっそうの飛躍が期待されるこのコンビですが、残念ながら、そのあとに行われたブルックナーの第2番の公演(公演レビュー)に感銘を受けたあとは、シュトラウスの「サロメ」&「エレクトラ」、ベートーヴェンの第九、マーラーの「悲劇的」…、どれも私にはあまり響いてこない公演が、ずっとつづいています。

 

そして、今回聴いた公演のメイン・プログラムのブラームス:交響曲第2番も、残念ながら、私にはピンとこない演奏でした。

ただ、前半のエルガー:ヴァイオリン協奏曲における伴奏、これは、まさに類まれな演奏であって、そのことをこのブログの記録に残しておきたくて筆をとりました。

 

プログラム

 

当日のプログラムは、以下の通りです。

 

7月15日(土)14:00@ミューザ川崎

エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 op.61
(Vn, 神尾真由子)
ブラームス:交響曲 第2番 ニ長調 op.73

ブラームスが終わってすぐに会場を出てしまったのでわからないのですが、おそらく、定期公演なのでアンコールの類いはなかったのではないかと思います。

 

ブラームスのこと

 

今回のブラームスについて「ピンとこない」の一言では無責任だと思いますので、一通り、どう感じたのかを書いておこうと思います。

 

このコンビのブラームスは、昨年、第3番の演奏(公演レビュー)があって、あのときは、まずコントラバス6本という、やや小ぶりな編成から、どうにも乾いた音が目立つブラームスが出てきて、違和感を感じたのを覚えています。

公演レビューにも、そのことを書いたはずです。

 

それが、今回の第2番では、コントラバス8本に拡大されていて、編成はぐっと大きなものになっていました。

それだけに、かなり期待をして演奏の始まりを待っていたのですが、いざ始まってみると、前の第3番と同様、フレージングがもったりとしていて、随所でひきずるようなレガートとテヌートがほどこされ、なかには、スタッカートをテヌートのように演奏させるところも散見されるなど、ちょっと驚きましたし、新鮮さより、やはり違和感を感じました。

ただ、これは、以前聴いた上岡敏之さんも似たことをやっていたので、ひとつのトレンドなのかもしれません。

 

でも、それ以上に今回、特に顕著だったのが、ひたすらに「強奏を避ける」姿勢です。

楽譜に“ sf ”スフォルツァンド(力を込めて強く)と書かれているところでさえ、ふわっとしたアクセントがつけられるだけでした。

そうすることで、ノットはおそらく、非常に柔和な、ひたすらにやわらかな音楽を志向したのかもしれません。

 

もちろん、そういう方向性もある作品だとは思いますが、結果、総じて歯ごたえのまったくない、麩菓子のような風合いの音楽になってしまったことには疑問を感じました。

さらには、すべての楽章の性格がひとつのトーンに支配されて、服で言えばモノトーンコーデのような印象になり、また、劇的な性格をひたすら取り除いたために、交響曲としての楽曲の展開もいまいち伝わってこない演奏になってしまったと感じられました。

 

この曲へのあたらしいアプローチなのかもしれませんが、始まりからおしまいまで、わたしには「これが本当にブラームスが書いた音楽なの?」という疑問しか浮かびませんでした。

 

このコンビの公演を聴いて、初めて、まったく拍手をする気もおこらず、会場をあとにしました。

 

マイクがたくさん立てられていたので、おそらく、これもまたCDになるのだと思います。

私の聴き方が悪いのかもしれません。

いずれリリースされたときに、ご確認いただければと思います。

 

 

想定外だった秀逸なエルガー

 

あのブラームスだけだったなら、このブログに記事を書く必要はなかったのですが、前半のエルガー:ヴァイオリン協奏曲でのこのコンビの伴奏が、類まれな、ほんとうに素晴らしいものだったので、そのことは、どうしてもこのブログに記録しておきたいと思って、PCに向かうことにしました。

 

エルガーには「チェロ協奏曲」という大傑作があって、そちらは、有名なジャクリーヌ・デュ・プレ(1945-1987)の名録音を筆頭に、古今のチェロ協奏曲のなかでも屈指の名作として知られています。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

それにくらべて、今回とりあげられたヴァイオリン協奏曲は、聴いたことがない方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

この作品は、全3楽章で演奏時間が45分前後という大作で、30分前後のチェロ協奏曲とくらべて、単純に1.5倍の長さがあるというだけでなく、全編がノスタルジックな色調で統一されていて、曲の展開がつかみにくい性格のある音楽です。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

この曲を“ 聴かせる ”というのは、なかなかに至難の業であって、実演であれ録音であれ、「名曲なのに退屈」させられてしまう演奏が非常に多い作品のひとつです。

それだけに、今回の公演でも期待はしていなかったのですが、まったく予想外に素晴らしいエルガーを体験することになりました。

この曲の演奏として、最高の部類に入る、出色の出来栄えだったと確信しています。

 

先に書いた通り、この曲は、曲の良さよりも「長さ」を感じさせられてしまうことが多い作品です。

今回の演奏がまったくそうならなかったのは、ジョナサン・ノットが作品の展開を理想的なほどに描ききったからです。

 

ややもすると漫然と音楽がつづいていくようになる作品が、曲の展開が有機的に、しなやかな呼吸でもって紡がれていく様には、まったく脱帽しました。

オーケストラを非常に繊細に、デリケートに“ 抑制 ”したノットは、非常に美しく、ノスタルジックな、抒情的な散文詩のような世界を出現させました。

 

この作品を、ここまで音楽的に、有機的に描ける指揮者は、いま、世界にいったい何人いるのでしょうか。

 

ソリストの神尾真由子さんは、ジョナサン・ノットによる抑制された世界に応えて、これまで何度か聴いたなかでいちばん素敵な演奏を聴かせていました。

そして、ノットの類まれなタクトに導かれて、オーケストラの東京交響楽団が、たいへんに奥行のある、深い味わいに満ちた音で音楽を支えたことを称賛せずにはいられません。

弦もひたすらに美しかったですし、管も、特にクラリネットを中心に、ほのぐらいエルガーの音を最大限に美しく響かせていました。

 

 

コンサートをふりかえって

 

これほどのエルガーのあとに、あのブラームスが続くとはまったく予想せず、何ともいえない印象のコンサートになりました。

このコンビに大きな期待を寄せている身からすると、彼らが日本でもっと高く、正当な評価を得るために、よりスタンダードな作品を、より強い説得力をもって演奏できるようになることを望まずにはいられません。

 

それに、そもそも、楽団員の方は、あのブラームスに「納得・共感」して演奏をしているのでしょうか

以前、ベルリン・フィルのリハーサルを見学させてもらったとき、当時の音楽監督のクラウディオ・アッバード( Claudio Abbado, 1933-2014)に楽団員たちが意見を述べたり、ときには異論をはさんだりしていました。

東京交響楽団にも、そうした、活発な、旺盛な空気はあるのでしょうか。

 

昨年末、【2022年】行ってよかったクラシック・コンサート!わたしのベスト10という記事を書いて好評をいただいたのですが、いまのところ、このコンビのコンサートでは、今年のベスト10に入るような演奏には出会えておらず、やや不安に思っています。

どうか、また圧倒的な体験をさせてください。

ジョナサン・ノット&東京交響楽団、応援しています!

 

 

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判断基準はあくまで主観。これまでに実際に聴いた体験などを参考に選んでいます。

 

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