コンサートレビュー♫私の音楽日記

代役で個性派指揮者が登場~上岡敏之(指揮)読売日本交響楽団のブルックナー8番

 

もともとは、ドイツの名匠ローター・ツァグロゼクが4年ぶりに来日して、読響を指揮する注目公演でしたが、直前に急病でキャンセル。

ピンチヒッターとして、わたしが日本人指揮者のなかでもっとも個性的な指揮者だと思う、上岡敏之(かみおか・としゆき)さんが読売日本交響楽団の指揮台に登場しました。

上岡敏之さんのブルックナー8番

 

というわけで、宣伝文句によれば「ドイツ在住の上岡敏之が緊急に一時帰国」して、代役として指揮台にあがられました。

 

「緊急に」という言葉にちょっと大袈裟だと感じたのですが、実際、言葉どおりだったようで、サントリーホールに入ると、まだリハーサルが終わっていないということで、大ホールの扉は閉ざされたままでした。

客席に入れたのは開演30分前くらいでした。

 

曲目は、ブルックナー:交響曲第8番ハ短調。

リーフレットによれば、上岡さんが読響でブルックナーを指揮するのは、今回が初めてとのことでした。

 

上岡敏之さんが指揮するブルックナーの交響曲第8番は、今年の3月に、新日本フィルハーモニー交響楽団の創立50周年記念演奏会で聴いたばかりです。

あのときのブルックナーは、以前のレビューにもつづった通り、こちらが受け止めきれないくらいの大きなブルックナー。

とっても面白かったけれど、聴いたあとに、というより、正確には聴いている途中から、ぐったりと疲れてしまったコンサートでした。

 

今回もそうなるかもしれないと覚悟してホールに向かい、実際、やはりとっても疲れたコンサートになりましたが、それでも、やっぱり聴きどころの多い、面白い公演になりました。

 

上岡さんのアプローチそのものは、総じて3月のものと変わっていなかったので、そのアプローチについての記述は前回のものに譲って、ここでは、オーケストラの違いを軸につづってみたいと思います。

 

オーケストラのちがい

 

第1楽章が始まってみると、思いのほか聴きやすいことに、少し驚きます

前回と同様に、気持ちゆったりとしたテンポ設定。

つまり、この印象の違いは、上岡さんのアプローチの変化というより、オーケストラの違いだと感じました。

 

読売日本交響楽団を実演で聴くのは、かなり久しぶりでした。

はっきりと思い出せるのは、まだブルックナーの大家だったスクロヴァチェフスキが指揮をしていたころなので、もう10年以上ご無沙汰だったのかもしれません。

 

評判に聞いていた通り、読響は、以前よりもさらにアンサンブルの整ったオーケストラに成長をとげていました。

そのアンサンブルのまとまりの良さ、ある意味で自分たちの音楽ができあがっていることから来る、音楽のスムーズな移行。

 

そうしたものが、上岡さんによって恣意的に描かれるブルックナーのいびつさを、あまり感じさせない、オブラートで包みこんでいる、そういう印象でした。

 

 

オーケストラ側の抑制

 

それゆえに、第1楽章のクライマックスで、以前の新日本フィルとの共演のときに聴いたような、圧倒的なクライマックスが形づくられなかったのは、おやっと思いました。

こういう、楽団のほうが上岡さんの要求にセーブをかけているのではないかと感じた場面は、他にもいくつかあって、これもまた、自分たちの音楽ができあがっているがゆえの、楽団側の抑制なのではないかと感じました。

 

面白いのは、これは読響にかぎったことではなく、放送局に所属するオーケストラでは、特に強く見られる特徴だということです。

理由はいろいろあるのでしょうが、これは日本にかぎったことではなく、例えば、ドイツの名門楽団であるバイエルン放送交響楽団を聴いたときなどにも感じたことです。

 

 

どちがら上岡流ブルックナーか

 

そうした楽団固有のバランス感覚の、ある種の制限を感じた今回のブルックナーで、いちばんの音楽的頂点を迎えたのは、第3楽章アダージョのシンバルの登場するクライマックスでした。

 

これが楽団の抑制とのコラボレーションの賜物だったのか、あるいは、実はすべて上岡さんの計算だったのか、実際のところはわかりません。

ただ、この一か所に、明らかな頂点が築かれていたことが、以前の新日本フィルとの8番とのいちばんの違いでした。

ここにはっきりと頂点が築かれたことで、全楽章間のバランス、全体の造詣がすっきりとしたのは確かです。

 

ただ、そうは言っても、上岡さんのブルックナーというのは、とにかく大きい

クライマックスがひとつはっきりしたと言っても、また、楽団のまとまりの良さで舌ざわりがまろやかになったと言っても、やっぱり、上岡さんらしいゴツゴツした独自の造詣は健在なわけで、そして、その「いびつさ」こそが上岡さんのブルックナーの面白さの源泉でもあるわけです。

 

そうなると、結果的には、不思議なことに、前回の新日本フィルハーモニー交響楽団との、まったく大きすぎて、とらえどころのない、圧倒的に疲れたブルックナーのほうが強く印象に刻まれたようにも思えます。

アンサンブルは明らかに読響のほうが整っていて、精度の高い演奏になっていたのですが、何とも不思議なところです。

 

もちろん、読響とのブルックナーがつまらなかったはずもなく、いずれも、とても面白く聴き、そして、いずれも疲れました。

 

単純に演奏の優劣というのではなく、こうして、同じ指揮者が同じ曲を指揮しても、オーケストラによって、ずいぶん違って聴こえてくる

日本のオーケストラも、いつの間にか、そうした段階に入っていたのだと、あらためて感じさせられました。

 

ひさびさに聴いた読売日本交響楽団の躍進ぶりも印象的で、これからはもっと頻繁に聴きに行きたいと思いました。

 

 

玄人好みの指揮者

 

上岡さんのブルックナーを聴いていて思ったのは、この人は、往年の巨匠カール・シューリヒト(Carl Schuricht, 1880-1967)のようなところがあるのかもしれない、ということです。

シューリヒトという指揮者は、何を聴いても、他の指揮者とどこかちがっている。

その違いが面白いからこそ魅了される、という面があるように感じるのですが、上岡さんもそうで、このブルックナーの8番にしても、他の指揮者ですでによく聴き込んでいる、ある程度マニアックなひとのほうが楽しめるのではないかと思います。

 

いずれにしても、この人を日本の楽団が放っておいてはいけないというのは間違いのないところです。

これだけの実力派の指揮者が、現在、日本にポストを持っていないというのは残念なことです。

通年でその至芸を楽しめるように、獲得に向けて動いてみてほしいです。

 

上岡敏之さんのお薦め音源

 

「上岡敏之さんには、こんな洒落たレコーディングもある」ということで、新日本フィルとの「オペラ・イタリアーナ」というアルバムをここにご紹介しておきます。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

2019年1月におこなわれたニューイヤー・コンサートのライヴ録音で、ヴェルディのオペラをはじめ、様々なイタリアオペラの名曲が颯爽と演奏されています。

ブルックナーやマーラーのような大曲もいいのですが、こうした小品を「聴かせる」ことができる指揮者はほんとうに貴重な存在です。

 

 

♪お薦めのクラシックコンサートを「コンサートに行こう!お薦め演奏会」のページでご紹介しています。

判断基準はあくまで主観。これまでに実際に聴いた体験などを参考に選んでいます。

 

♪実際に聴きに行ったコンサートのなかから、特に印象深かったものについては、「コンサートレビュー♫私の音楽日記」でレビューをつづっています。コンサート選びの参考になればうれしいです。

 

 

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