※当サイトはアフィリエイトを利用しています
シリーズ【交響曲100の物語】の第43回です。
ドイツにおいて、リストが「ファウスト交響曲」や「ダンテ交響曲」という標題音楽をおしすすめていた当時、フランスでは、まだ17歳の学生ビゼー(Georges Bizet、1838-1875)が、とっても愛らしい「交響曲ハ長調」を課題として書きあげていました。
目次(押すとジャンプします)
17歳の学生ビゼーが課題で書いた傑作
学生にだされた課題
歌劇「カルメン」や劇音楽「アルルの女」で名高い、フランスの作曲家ジョルジュ・ビゼー(Georges Bizet、1838-1875)。
➡【オーケストラ入門】ビゼー:劇付随音楽『アルルの女』
1855年、17歳になったばかりの学生ビゼーは、「交響曲ハ長調」を1か月ほどで仕上げました。
当時は、音楽院での勉強のしめくくりの時期。
つまりは、学校からの「課題」として作曲されたのではないかと推測されています。
著名な作曲家であり恩師でもあるシャルル・グノー(Charles François Gounod、1818-1893)から出された課題だったかもしれません。
初演は20世紀
現在はひろく演奏されているこの作品ですが、その後、特に演奏されることもなく、歴史のなかに完全に埋もれてしまいます。
19世紀当時のフランスでは、音楽といえば「オペラ」が全盛。
「交響曲」のようなオーケストラ曲は、あくまで学生が作曲の練習として書くものでした。
そのまま時は過ぎ、20世紀に入って、ようやくある研究者が作品を発見。
やがて大指揮者フェリックス・ワインガルトナー(Felix Weingartner,、1863-1942)が興味をもち、初演となりました。
結果、なんと初演は1935年、ビゼーが亡くなって60年後、作曲からは80年後のことでした。
恩師グノーの存在
あなたは私の芸術家人生の始まりでした。私はあなたから生まれました。あなたが原因であり、私は結果なのです。
これは、ビゼーが恩師グノーについて語った言葉とされるものです。
歌劇「ファウスト」で名高い、フランスの大作曲家シャルル・グノー(Charles François Gounod、1818-1893)。
彼は当時、パリ音楽院でビゼーの先生でした。
ビゼーとグノーは深い信頼関係があったようで、学生ビゼーは恩師グノーの作品の編曲の仕事をいくつも請け負っていました。
恩師グノーの交響曲ニ長調
学生ビゼーがグノーから受けた仕事のひとつに、グノーの「交響曲第1番ニ長調」のピアノ編曲がありました。
当時のグノーは、自作のオペラを発表するものの失敗に次ぐ失敗で、王道であるオペラの世界から距離をおき、「交響曲」の作曲や「聖チェチーリア荘厳ミサ曲」の作曲に舵をきっていました。
ちなみに「聖チェチーリア荘厳ミサ曲」は、私が特に偏愛している作品で、ご存知ない方も多いと思うので、いずれ別稿で特集したいと思っています。
そんな時期にうまれた「交響曲(第1番)ニ長調」は大成功。
作曲家グノーの名声を確立することにおおいに貢献しました。
♪グノー:交響曲第1番
サー・ネヴィル・マリナー(指揮)
アカデミー・オブ・セント・マーチン・イン・ザ・フィールズ
( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
グノーは1840年代、ローマ賞でドイツをおとずれたときにメンデルスゾーンと知り合っており、この交響曲にも、メンデルスゾーンの爽やかな作風が影響をあたえているように感じます。
あれ?似ている…
ただ、それ以上に、出だしを聴いた時点で「あれ?」と思います。
ビゼーの「交響曲ハ長調」の出だしにそっくりです。
それ以降も、そこかしこに、ビゼーの交響曲ハ長調と似た楽節、リズム、和声が聴こえてきます。
つまり、きっと学生ビゼーは恩師グノーの「交響曲ニ長調」をピアノ編曲しつつ、よくよく勉強して、その研究成果をふまえて、課題であった「交響曲ハ長調」を仕上げたということでしょう。
その後、ビゼーがこの作品について、とくに出版に向けた動きをしていないというのも、そうした「習作」のような気持ちが強かったからかもしれません。
とは言え、“ 青は藍より出でて藍より青し ”。
グノーの交響曲をしのぐ、魅力あふれる音楽を生み出してしまったところに、早熟だったビゼーの才気を感じます。
ちなみに、恩師グノーがオペラ作曲家として成功するのは、1859年の歌劇「ファウスト」が最初なので、あと数年の忍耐が必要でした。
🔰はじめてのビゼー交響曲
どこから聴いても魅力満載
「交響曲ハ長調」は、まさに、17歳の若い学生が生んだ、青春の息吹がいっぱいの音楽。
すべての楽章が、わかりやすく、はっきりと魅力的です。
全4楽章で、全曲を聴いても35分ほど。
ゆっくりな音楽が好きな方は第2楽章から、速い音楽が好きな方は第4楽章から触れてみてください。
とはいえ、とても人懐っこい作品なので、どこから聴いても、きっと魅了されます。
グノー先生も、きっと、この課題の出来映えには感心したのではないでしょうか。
ビゼー「交響曲ハ長調」お気に入り名盤
※2024年2月現在、この作品については、Apple Music Classical アップル・ミュージック・クラシカルのインデックス表記がめちゃくちゃです。
「クレメンティ」、「シュナイダー」、「ブラッハー」、「ブラックウッド」などなど、全く無関係の作曲家の名前がインデックス表示されることがあります。
“ Symphony in C Major ”とか「交響曲ハ長調」という曲目表記を頼りに聴いてください。
トマス・ビーチャム(指揮)フランス国立放送管弦楽団
( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
むかし、音楽評論家の黒田恭一さんがパーソナリティーをつとめるNHK-FMの「20世紀の名演奏」という番組があって、「ビーチャムのフランス音楽」という素敵な放送回がありました。
今もそのとき録音したテープを大事に持っていますが、この放送の冒頭で紹介されたのが、ビゼーの交響曲ハ長調でした。
それがまさに、私にとってこの曲との出会い。
こんな素敵な曲があるのかとすっかり魅了され、今も同じ思いで耳をかたむけます。
「イギリス最後の偉大な変人」とたたえられた名物指揮者サー・トマス・ビーチャム(Sir Thomas Beecham, 1879-1961)のウィットにとんだ名演奏が楽しめる、心躍る録音です。
ビーチャムが亡くなる2年前、1959年録音の名盤。
➡イギリス最後の偉大な変人ビーチャム~初夏の一日に聴くブラームスの隠れた名演
➡【オーケストラ入門】夏の一日に聴きたい名曲アルバム~英国の名物指揮者ビーチャムの小品集
シャルル・ミュンシュ(指揮)ロイヤル・フィル
( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify などで聴けます)
フランスの巨匠シャルル・ミュンシュ(Charles Munch, 1891-1968)が、1963年にロイヤル・フィルと録音したビゼー。
はじけるような音。
こころ豊かに歌われるメロディー。
この音楽が生まれた瞬間のよろこびを、そのままに感じさせてくれる演奏です。
彼には1966年にフランス国立放送管弦楽団と録音したものもあり、そちらもまた素晴らしいです。
ジョルジュ・プレートル(指揮)バンベルク交響楽団
( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
こちらもフランスの名匠ジョルジュ・プレートル(Georges Prêtre, 1924 – 2017)。
第1楽章のピチカートの音の弾け方がとってもチャーミングで、すぐに好きになった録音。
プレートルがベルリン・フィルのヴァルトビューネ・コンサートにおいて、「カルメン」組曲で熱演をくりひろげる姿をみて、プレートルの「カルメン」組曲のCDがほしいと思い、ネットがまだ普及していなかった当時、都内でいろいろ探して見つけたアルバムです。
予想外に交響曲の演奏が魅力的で、今ではむしろ、交響曲の演奏を聴くために手に取ることが多いアルバムになりました。
➡ベルリン・フィル・ヴァルトビューネ・コンサート5選~森の中のピクニック・コンサート
ズデニェク・コシュラー(指揮)チェコ・フィル
( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
こちらは、最近、サブスクで聴いていて出会った録音。
チェコの名指揮者ズデニェク・コシュラー (Zdeněk Košler, 1928 – 1995)が名門チェコ・フィルと1986年に録音したアルバム。
この控えめな存在感の名指揮者らしく、音の遊びのようなものはほとんどありませんが、その実直で素直な演奏が、とっても端正に、この曲の等身大の美しさを感じさせてくれます。
チェコ・フィルの響きが活かされていて、まさにコシュラーならではの、名指揮者の良心のようなものが発揮された、素敵な録音です。
オランダ室内管弦楽団(YouTube動画)
YouTube動画で正式に公開されているのものでは、オランダ室内管弦楽団 Netherlands Chamber Orchestra が演奏・配信しているものが溌剌としていて、素敵な演奏になっています。
のびやかで素直な美しさもあり、お薦めの動画です。
オンライン配信の聴き方
♪このブログではオンライン配信の音源も積極的にご紹介しています。
現状、Apple Music アップル・ミュージックがいちばんおすすめのサブスクになっています。
■Apple Music Classical日本版が解禁!クラシック音楽に特化~弱点もちょっとあります
■AppleMusicでクラシック音楽のサブスクを~スマホは音の図書館
Amazon Musicアマゾン・ミュージックも配信されている音源の量が多くお薦めできます。
■Amazonでクラシック音楽のサブスクを~スマホは音の図書館
■オンライン配信の聴き方全般については、「クラシック音楽をオンライン(サブスク定額制)で楽しむ~音楽好きが実際に使ってみました~」のページでご紹介しています。
♪お薦めのクラシックコンサートを「コンサートに行こう!お薦め演奏会」のページでご紹介しています。
判断基準はあくまで主観。これまでに実際に聴いた体験などを参考に選んでいます。
♪実際に聴きに行ったコンサートのなかから、特に印象深かったものについては、「コンサートレビュー♫私の音楽日記」でレビューをつづっています。コンサート選びの参考になればうれしいです。
♪クラシック音楽にまつわるTシャツ&トートバッグをTシャツトリニティというサイト(クリックでリンク先へ飛べます)で販売中です。