コンサートレビュー♫私の音楽日記

上岡敏之&ケフェレック、新日本フィルのベートーヴェン&シューベルト

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すみだトリフォニーホールで、上岡敏之さん指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートを聴きました。

ピアノ独奏には、フランスの名ピアニスト、アンヌ・ケフェレックが登場しました。

上岡敏之(指揮)ケフェレック(ピアノ)

 

 

当日のプログラム

 

2024年3月16日(土)
14:00@すみだトリフォニーホール

ベートーヴェン:
ピアノ協奏曲第1番ハ長調 Op.15

(アンコール)
ヘンデル(ケンプ編曲):
組曲第1番 HWV 434~第4曲 メヌエット ト短調

piano, アンヌ・ケフェレック

シューベルト:
交響曲第8番ハ長調 D944「グレイト」

上岡敏之(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団

 

若きベートーヴェンの「ハ長調」とシューベルト晩年の「ハ長調」が並んだプログラムになっていました。

 

ベートーヴェン

 

女性に年齢をいうのも何ですが、フランス出身のアンヌ・ケフェレック(Anne Queffélec)は御年76歳。

年齢をあまり感じさせない演奏ぶりは、こうして目の前で実際に観ると、ほんとうに素晴らしいことだと感心してしまいます。

 

以前、シェレンベルガーのオーボエのときにも書きましたが、ケフェレックもまた、美しく年をかさねることができた少数の音楽家のひとりのようです。

 

名手たちの夕映え~ベルリン・フィル往年のブラウ、シェレンベルガーのリサイタルを聴いて

 

ケフェレックは、かなり広いレパートリーのピアニストだと思いますが、以前、モーツァルトの素敵なアルバムがあったので、私のなかではモーツァルトのイメージが強いピアニストです。

 

今回コンサートで演奏されたベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番ハ長調を聴いていても、やはり、ベートーヴェンを聴いているというよりは、モーツァルト的なもののほうがたくさん聴こえてきました。

それは決して作品をゆがめてしまっているわけではなくて、この演奏からは、ベートーヴェンがいかに先輩のモーツァルトやハイドンからたくさんのものを受け継いで、その最上の後継者であったのかを教えられます。

 

♪モーツァルト:
四手のためのピアノ・ソナタ ハ長調 K.521
piano, アンヌ・ケフェレック&イモージェン・クーパー

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify  などで聴けます)

 

楚々とした美しさ

 

ケフェレックのピアノは、“ 楚々とした ”美しさがあって、スケールも小ぶりなものです。

その小ささがベートーヴェンを受け止めきれていない面はあるのですが、ハイドンやモーツァルト的な要素はとっても自然に引き出されていて、このベートーヴェンの若い番号のピアノ協奏曲では魅力的に活きていました。

 

そして、やっぱり“ 音 ”が魅力的です。

ころころした粒立ちのよい音。

無理のない、自然体の美しさは、とりわけ弱音できわだっていて、耳をひく静けさをたたえていました。

 

上岡敏之さんと新日本フィルは、ケフェレックの清楚なピアノを上手にささえつつ、よりベートーヴェン的な力感が必要なところでは、ケフェレック以上にベートーヴェン的スケール感をもって表現していました。

 

♪モーツァルト:
ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595
(ケフェレックの最新録音もモーツァルト)

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify  などで聴けます)

 

ヘンデル

 

ピアノ・ソロによるアンコールがあって、ヘンデル(ケンプ編曲):組曲第1番HWV 434の第4曲「メヌエット」ト短調が演奏されました。

アンコールというのは、選曲からして、そのピアニストの個性を如実に反映するもので、ここでケンプが編曲したヘンデルをえらんだところにも、ケフェレックの美点があらわれていたように思います。

 

品のある、清潔なロマンティシズムに満ちたヘンデルは、協奏曲以上につよく印象に残りました。

これを聴くと、もっともっと小さなホールで、ソロのリサイタルをじっくりと聴いていみたくなります。

 

ケフェレックには、ヘンデルの作品を集めたアルバムがあって、その最後に、この「メヌエット」の演奏も収められています。

♪ヘンデル(ケンプ編曲):
メヌエット
piano, アンヌ・ケフェレック

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify  などで聴けます)

 

シューベルト

 

後半は、シューベルトの交響曲第8番ハ長調「グレイト」です。

この作品への昨今のアプローチとしては、ブルックナー的な大きさをもって捉えるものと、古楽的なアプローチを軸に、大きくなりすぎることを避けるものとに分かれていると思います。

 

上岡さんは唖然とするくらい巨大なブルックナーをやる指揮者なので、きっと前者に近いアプローチをすると予想していたのですが、意外にも、後者に近いアプローチが展開されました。

 

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第2楽章のテンポ

 

第1楽章から気持ち速めのテンポ設定で、とにかく快速にすすめられていくシューベルト。

そして、おそらく、この演奏の肝になったのは、第2楽章だったと思います。

 

第2楽章はAndante con motoという指示の楽章ですが、そのcon moto(動きをつけて)を重視したようで、冒頭のオーボエの旋律からまるでアレグレットのような印象の、速めのテンポで演奏されました。

このテンポで演奏されると、普段はほのかに哀愁を感じるオーボエの主題が、少しユーモラスに、道化師の泣き笑いのように聴こえてくるので驚きました。

 

ただ、驚きはしたものの、どうなんでしょう。

通常なら深い抒情をたたえる第2主題も、そのまま速めのテンポで行くので、せっかく美しい景色が車窓に広がっているのに快速電車であっという間に通り過ぎていってしまうような、そんな心地がしました。

 

この楽章が“ 肝 ”だったというのは、第2楽章を快速テンポでやった結果、全ての楽章が快速テンポの、変化にとぼしい、一本調子な作品に聴こえてきてしまったことです。

楽章ごとの描き分けが薄れてしまったわけで、この作品はもっとたくさんのことを語っているのではないかと、そんな気がしてなりませんでした。

 

 

弦楽器の刻み

 

そうしたテンポへの違和感はずっとぬぐいきれませんでしたが、特に後半の2つの楽章は、上岡さんらしい自由な表現が勢いを得て、聴いていて面白いところがたくさんありました。

 

なるほどと感じたのは、弦楽器の刻みを非常に重視していたこと。

シューベルト晩年の作品にしばしば登場する“ ノイズ ”のような音のうごめき、不気味なトレモロ。

上岡さんの快速テンポでいくと、弦楽器の刻みが随所でそうしたノイズのように響くときがあって、これはとても唸らされる解釈でした。

 

また、この作品の最後の音は、シューベルトの自筆がアクセントなのかデクレッシェンドなのか判断がつかないために、指揮者によってどちらを選択するか分かれますが、上岡さんはアクの強い指揮者なので、やはりデクレッシェンドを選択していました。

 

 

まとめ

 

上岡敏之さんはやっぱり個性派。

面白い指揮者であるのは間違いありません。

ただ、今回のシューベルトについて言うと、あくまで他の指揮者とちがっていて面白いということで、作品そのものの魅力を新たに引きだした、という面白さまでは至っていなかったように思います。

 

コンサート全体をふりかえってみると、やはり前半のケフェレックとのベートーヴェン、それから、アンコールのヘンデルが印象的でした。

 

ケフェレックについては、おすすめコンサートのページでご紹介するのは実演を聴いてからにしようと控えていましたので、これらは安心してお薦めしていこうと思います。

 

上岡敏之さんも、やはりお薦めの指揮者であるのは変わりません。

新日本フィルとは10月にモーツァルト・プログラムが予定されていて、そちらも注目公演です。

 

上岡敏之さん指揮の公演から~わたしのおすすめクラシック・コンサート

 

 

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