シリーズ〈オーケストラ入門〉

デュカス:『魔法使いの弟子』解説&お気に入り名盤~小さな試聴室

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シリーズ《オーケストラ入門》、今回はフランス音楽の傑作、デュカスの交響的スケルツォ『魔法使いの弟子L’apprenti sorcier』です。

交響的スケルツォ「魔法使いの弟子」

 

ディズニー映画『ファンタジア』

 

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星の柄が入った青い帽子をかぶっている姿のミッキーマウス。

このミッキーマウスが演じているのは魔法使いの弟子の役で、ディズニー映画『ファンタジア』のなかで出てきます。

 

映画『ファンタジア』は、クラシック音楽のコンサートを映画館でアニメーション映画として行おうという、つまりは、アニメーションと音楽芸術の融合をこころざして制作された、とても画期的なアニメーションでした。

この映画については、【ディズニー『ファンタジア』が教えてくれること~星と星座の関係】という記事でくわしくご紹介しています。

 

その映画『ファンタジア』のなかでは、何曲ものクラシック音楽作品がアニメーションで描かれていきますが、実は、ミッキーマウスが登場するのは、デュカス作曲:『魔法使いの弟子』の1曲だけ。

ですので、ミッキーマウスが目当ての方がご覧になるとかなり落胆してしまう映画なのですが、音楽とアニメーションの融合という視点で観ると、とても刺激的な作品になっています。

 

もともとデュカスの『魔法使いの弟子』はオーケストラ作品として有名な傑作のひとつでしたが、この映画で取り上げられたことで、いっそうの人気作品になったのは間違いありません。

 

交響詩という世界

 

この曲は、“ 交響的スケルツォ ”という題名をもっていますが、ジャンルとしては「交響詩」の系列にならぶものです。

“ 交響詩 ”というのは、あの『ラ・カンパネラ』などのピアノ作品で名高いフランツ・リストが発明した形式です。

 

その名前のとおり、詩、あるいは物語や絵画的なものを、管弦楽で表現する音楽の形式をさします。

“ 交響曲 ”とちがって、1楽章形式で書かれることが基本です。

 

この“ 交響詩 ”のジャンルでいちばん有名な作品というと、何といっても、チェコの作曲家スメタナの交響詩『モルダウ』でしょう。

これは、あとに連作交響詩『わが祖国』として、全6曲の交響詩でひとつの作品にまとめられました。

 

発明者フランツ・リストの作品のなかでは交響詩『レ・プレリュード(前奏曲)』が、一般的な知名度はないものの、クラシック音楽に親しむようになると傑作としてすぐに視界に入ってきます。

そのほか、ロシアではボロディンが交響詩『中央アジアの高原にて』、ムソルグスキーが交響詩『はげ山の一夜』を書いていて、『はげ山の一夜』については映画『ファンタジア』でも取り上げられています。

 

フィンランドでは、シベリウスが交響詩『フィンランディア』という傑作をのこし、フランスでは、デュカスの親友ドビュッシーが書いた『海』が“ 3つの交響的描写 ”という題を持っているものの、日本では交響詩と呼ばれることが多いです。

イタリアでは、レスピーギが交響詩『ローマの噴水』『ローマの松』『ローマの祭り』という、いわゆる“ ローマ三部作 ”を代表作として書き、それから、何といっても、20世紀ドイツの作曲家R・シュトラウスが交響詩の傑作をたてつづけに発表、『ドン・ファン』『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』『ツァラトゥストラはかく語り』『ドン・キホーテ』『英雄の生涯』などの傑作をのこしました。

 

こうして並べてみると、だいたいの感じがわかると思うのですが、どれも“ 題名 ”がものを言っていて、とても具体的であって、抽象的な音楽である“ 交響曲 ”とのちがいがはっきりしています。

 

今回テーマとして取り上げたデュカスの『魔法使いの弟子』も、これら交響詩の列にならぶ傑作のひとつです。

デュカスは1897年、32歳の年にこの曲を完成させていて、同年に、ドイツでは1歳年上のR・シュトラウスが交響詩『ドン・キホーテ』を完成させています。

まさに、交響詩というジャンルが花盛りの時代でした。

 

 

ポール・デュカス(Paul Dukas, 1865-1935)

 

作曲者ポール・デュカスのこと

 

作曲者のポール・デュカス(Paul Dukas, 1865-1935)はフランスの作曲家。

 

ドビュッシーと親友だった人で、フランスの音楽がいちばん華やいでいた時代の人。

私にとっては「自分に厳しく、他人にやさしい」という印象の人です。

 

自己批判精神の強さは音楽史でも指折りで、相当数の作品を書いていたようですが、後世の私たちに残されたのはおよそ20作品ほど。

ほかの作品は、どれもデュカス自身の手により破棄されてしまいました。

特に晩年の20年ほどは作品が公開されることはなかったようで、その厳しい姿勢が際立ちます。

 

いっぽうで、スペインから出てきた新進作曲家だったファリャを親身になって助けてあげたりと、他人にはやさしく親切な人という一面もありました。

そういう人だったので、あとに音楽院の先生としても活躍して、メシアン、デュリュフレ、ポンセ、ロドリーゴ、ピストン、ミヨーといった、錚々たる作曲家たちを世に送り出しています。

 

魔法使いの弟子のストーリー

 

この曲で扱われている詩は、あのドイツの文豪ゲーテによるものです。

話は、老魔法使いが留守中、弟子が生半可におぼえた魔法をつかって、ほうきに水汲みをやらせたことに端を発します。

ところが、水汲みを止めさせる魔法を忘れてしまったため、やがて辺り一面は水浸しに。

弟子はいそいで鉈(なた)を持ち出してほうきを壊してみますが、今度は、割れたほうきが各々に水を運びつづけるので、さらに水は溢れかえる始末。

家じゅうが水浸しになり、どうしようもなくなったところへ、老魔法使いが帰宅。

すぐに魔法で騒ぎをおさめるというストーリーになっています。

 

いわゆる「警句」という種類のもので、中途半端な知識をふりまわすと困ったことになるという戒めの物語です。

こうしてブログを書いていると、ちょっと耳の痛い話です。

 

物語と音楽の関連性をより一層はっきりと感じたいという方は、映画『ファンタジア』をご覧になってください。

とてもわかりやすく、かつ、音楽と正面から真摯に対峙していて、一見の価値があります。

映画での演奏はレオポルド・ストコフスキー(1882-1977)という大指揮者のものですから、その点も間違いありません。

 

 

「魔法使いの弟子」お気に入り名盤

 

私のブログでは、YouTubeをふくめ、オンライン配信のものを中心にご紹介しています。

オンライン配信については、クラシック音楽をアプリ(サブスク定額制)で楽しむという記事にまとめましたので、よろしかったら参考にしてください。

ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団

 

ジャン・マルティノンは自身も作曲家だった名指揮者。

フランス人にはめずらしい、はっきりとした輪郭の明晰な音楽をつくる大指揮者でした。

デュカスのほかの代表作がたくさん収録されている点でも、お薦めのアルバムです。

 

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ジャン・フルネ指揮オランダ放送フィルハーモニー

 

フランス出身のジャン・フルネ(1913-2008)は、その引退公演を日本でおこなったほど、日本と縁の深い指揮者。

 

私も何度か彼の実演に接することができて、いつ、どんな公演を聴いても、何かしら得るものがある名指揮者でした。

レコーディングでも素晴らしいものが残っていて、このデュカスは特に素晴らしいと思う録音のひとつです。

 

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ルネ・レイボヴィッツ指揮パリ・コンセール・サンフォニーク

 

ポーランドの音楽家ルネ・レイボヴィッツ(1913-1972)の指揮した録音。

同時代の最前線の音楽について造形が深かった音楽家らしく、とてもすっきりとした、爽やかで、シャープな演奏を楽しむことができます。

この人のフランスものは、どれも瑞々しくて、大好きです。

ヴィットーリオ・グイ指揮フィレンツェ5月音楽祭管弦楽団

 

ちょっと珍しい録音としてはこちら。

現代を代表するイタリアの巨匠リッカルド・ムーティが、ことある度に、偉大な指揮者のひとりとして名前を挙げているヴィットーリオ・グイ(1885-1975)が指揮した録音です。

 

グイは、イタリア屈指の音楽祭である「フィレンツェ5月音楽祭」を創設した人物であり、ムーティのお師匠さんでもあります。

イタリア・オペラの権威なので、オペラの録音はいろいろとありますが、こうしたオーケストラ作品のレコーディングは珍しい部類に入ります。

これがとても素晴らしい演奏でおどろかされます。

 

まず耳をひかれるのが、オーケストラの鳴り方がとても素朴な味わいをもっていること。

こうした響きは、今となっては、どこに行っても聴けないでしょう。

そして、たいへんな迫力があるのに、テンポが無理なく“ 歌える ”ように設定されていて、音楽が折り目ただしく発展していくこと。

現代のムーティが目指しているのはこの世界なのではないかと、その源流を見る思いがする素敵な録音です。

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クルト・マズアの思い出

 

これは、ちょっとおまけで、クルト・マズア指揮ニューヨーク・フィルのYouTube動画をリンクしておきます。

私が実演で聴いた《魔法使いの弟子》のなかで、とくに素晴らしかったもののひとつが、クルト・マズア指揮フランス国立放送管弦楽団の演奏でした。

 

クルト・マズア(1927-2015)はドイツの指揮者で、一時期はドイツの大統領候補にまで推された人望の人でしたが、あまりドイツ人らしくない演奏をする、面白い指揮者でした。

私が聴いた範囲では、交響曲などよりも、オーケストラの色彩を活かす管弦楽作品のほうが印象深いものが多く、オーケストラを立体的に鳴らすことについては、小澤征爾さんとクルト・マズアのおふたりが飛び抜けています。

 

残念ながら、マズアは《魔法使いの弟子》の録音を残していないようですが、YouTubeを調べてみると、ニューヨーク・フィルと演奏したときの、おしまいの3分ほどの抜粋が公式にあがっていましたので、懐かしさもあって、ここにご紹介します。

できれば、全曲をアップしてほしい記録です。

 

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