シリーズ〈交響曲100の物語〉

リスト:「ダンテ交響曲」解説&お気に入り名盤【交響曲100の物語】

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シリーズ「交響曲100」第42回のテーマは「ダンテ交響曲」

前回にひきつづきフランツ・リストの作品です。

リスト:ダンテ交響曲 S.109

 

天国の描き方

 

どのように人間の声をつかったとしても、天国の喜びを音楽で表現することは不可能でしょう

 

1855年、リスト(Franz Liszt, 1811-1886)は、良き理解者であった大作曲家ワーグナー(Richard Wagner, 1813-1883)から、そうした内容の手紙を受けとりました。

 

新作「ダンテ交響曲」を「地獄」「煉獄」「天国」の全3楽章で書き、とくに、第3楽章の「天国」には“ 合唱 ”を導入するプランをもっていたリスト。

この手紙をうけて、「天国」の作曲を断念したと伝わっています。

 

ワーグナーというひとは、破天荒な、常識外れな逸話を数多く持っている作曲家ですが、こうした点では、意外なほどに真摯であって、その複雑な魅力が垣間見られるエピソードです。

 

 

革新的な作曲家リスト

 

前回の「ファウスト交響曲」はドイツの文豪ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe、1749-1832)の戯曲にインスピレーションを得たものでしたが、今回のダンテ交響曲も、やはり文学作品から着想をえたもの。

正式な作品名は、Eine Symphonie zu Dantes “Divina Commedia” S.109「ダンテの『神曲』による交響曲」

 

イタリア・ルネサンスの先駆けとなったダンテ(Dante Alighieri、1265-1321)が書いた『神曲』にインスピレーションを得たものです。

ダンテ自身が主人公となり、古代ローマの大詩人ウェルギリウスの案内で地獄を旅し、やがて、淑女ベアトリーチェに導かれて天国へと至る、壮大な叙事詩です。

 

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『神曲』を愛読していたというリスト。

この作品にまつわる交響曲の作曲プランが、すでに1840年代、30歳代のころにはあったようです。

1845年、ある夏の日の真夜中、誰もいないフランスのマルセイユ大聖堂で、オルガンをつかって「ダンテ交響曲」の即興演奏を試みた、という記録も残っているそうです。

 

 

当初は、より劇的な作品として構想をねっていたようで、『神曲』にまつわる絵画を上映しながら演奏する計画や、20世紀に入ってR・シュトラウスが「アルプス交響曲」で導入する「ウィンドマシーン」を演奏に取り入れる計画などまであったようです。

 

40代半ばで完成

 

本格的な作曲は1855年ということですから、リストが40代半ばになってからでした。

「ファウスト交響曲」と同時期に並行してすすめられ、先のワーグナーの手紙もあり、第1楽章「地獄」と第2楽章「煉獄」からなる全2楽章の交響曲として、1857年、46歳の年に完成されました。

 

第2楽章「煉獄」には、合唱による“ マニフィカト ”(我が心、主を崇め)が追加されて、天国そのものを描くのではなく、天国を仰ぎ見る光景が描かれる終結となりました。

 

また、この作品には静かに終わるヴァージョンと、あとに加筆された壮大に終わるヴァージョンの2つがあります。

これもワーグナーが静かに終わるヴァージョンを強く推したことが知られていて、現在でも、静かに終わるヴァージョンで演奏されることがほとんどです。

 

 

🔰はじめてのダンテ交響曲

 

初心者は通り過ぎてOK

 

第1楽章が約20分、第2楽章が約30分と長大なうえに、使われる和音がじつに多彩。

調性はぼかされ、捉えどころのない一面があります。

「ニ短調」ではじまるのに、「ニ長調」ではなく「ロ長調」で終わるという革新性も、この作品の複雑さを物語っています。

 

つまり、この作品は、初心者向きではありません。

クラシック・ファンでも、相当深入りしている人しか聴いていないといってもいい作品です。

なので、話の前提として、初心者の方はこの曲はあとまわしにして全然OKです。

 

と、お断りしたうえで、初めて聴く場合の手がかりを。

 

第1楽章で特徴的な「下降」する音程

 

おそらく、多くの人にとって、第2楽章より第1楽章のほうが起伏があり、聴きやすいと思います。

その第1楽章は、ダンテが描いた「地獄」の9つの階層を描いているとされます。

 

手がかりとして、「下降」する音程に注目してみてくだい。

これは、地獄のなかをだんだんと進んでいく歩みを象徴しているようです。

 

また、この楽章の中ほどで、甘美な音楽が姿をあらわしますが、ここは、『神曲』のなかでも特に有名な悲恋の物語“ フランチェスカ・ダ・リミニ ”を描いている場面とされます。

 

この“ フランチェスカ・ダ・リミニ ”については、あとになって、ロシアのチャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky, 1840-1893)が1876年、リストの「ダンテ交響曲」から20年くらいあとになりますが、やはり『神曲』を読んで感銘を受け、幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」op32を作曲しています。

 

「ダンテ交響曲」とちがい、チャイコフスキーの「フランチェスカ・ダ・リミニ」は現在もよく演奏・録音されます。

 

♪チャイコフスキー
「フランチェスカ・ダ・リミニ」
エフゲーニ・ムラヴィンスキー指揮
レニングラード・フィル

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第2楽章は「3」に注目

 

第2楽章「煉獄」になって増えるのが、3つの音からできたフレーズや、3連符、そして、3拍子の音楽です。

リストは明らかに「3」にこだわって作曲していて、これはきっと、キリスト教の「三位一体」を象徴させるためだと思われます。

 

ダンテの「神曲」そのものも、3の倍数を重視していて、「地獄編」「煉獄編」「天国編」という3部構成、それぞれの詩は3行で一連となっていて、それが33歌ずつになっています。

「地獄編」の冒頭には序文のような詩が1つあるので、1+33+33+33=100 という、象徴的な数になっています。

 

こうした点では、楽譜をみながら聴くと、よりリストの狙いがわかりやすくなる楽章のように感じられます。

国際楽譜ライブラリープロジェクト内でも、いくつかのスコアが閲覧できるようになっています。

 

「ダンテ交響曲」のお気に入り名盤

 

ジュゼッペ・シノーポリ(指揮)ドレスデン国立管弦楽団

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あまり録音のないこの作品において、ほかの録音よりも頭ひとつ抜け出ているように思われるのが、このイタリアの名指揮者ジュゼッペ・シノーポリ(Giuseppe Sinopoli、1946-2001)とドレスデン国立管弦楽団による録音です。

この演奏で聴いていると、この作品がいかにワーグナーの響きを多く内包しているかもわかります。

シノーポリは、意識的にそれをやっていて、その楽譜の読みの深さに脱帽します。

 

ただ、そんなシノーポリをもってしても、第2楽章途中はやや音楽が停滞します。

これはシノーポリの問題というより、楽曲がもともと抱えてしまっている問題のように感じられます。

そうした限界点もふくめ、この曲の“ 真価 ”を最大限に聴かせてくれているのは、やはりこの演奏のように感じています。

 

 

クルト・マズア(指揮)ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

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シノーポリが30分かけている第2楽章を、ドイツの名匠クルト・マズア(Kurt Masur, 1927-2015)は22分で駆け抜けていきます

「ファウスト交響曲」もそうでしたが、マズアの屈託のない音楽づくりは、この複雑な作品を、停滞することなくすっきり描いてみせます。

 

そのぶん第2楽章の“ マニフィカト ”に入ってもあまり感動はなく、やや尻すぼみに終わってしまうのが残念です。

ただ、作品像をつかむという点でいうと、とてもわかりやすく聴ける録音です。

 

 

ハルムート・ヘンヒェン(指揮)オランダ・フィルハーモニー

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1943年、ドイツ生まれの指揮者ハルムート・ヘンヒェンと、彼が育て上げたオランダ(ネーデルランド)・フィルハーモニー管弦楽団の演奏。

日本のオーケストラにもたびたび客演していたヘンヒェン。

この録音は、特に第1楽章が優れていて、好きです。

残念ながら、鬼門である第2楽章の途中でおおきく停滞してしまいますが、それ以外は大健闘の素敵な録音。

 

 

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