コンサートレビュー♫私の音楽日記

ヴァン・カイック弦楽四重奏団 日本公演2024~大成を予感させるフランスの新しいカルテット

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ヴァン・カイック弦楽四重奏団(Quatuor Van Kuijk)をご存知でしょうか。

フランスを拠点としている、2012年結成の、比較的あたらしい弦楽四重奏団です。

わたしが彼らの存在を知ったのも最近のこと。

 

その新進のカルテットが、この5月に来日公演を行ったので、初めて、その実演に接してきました。

ヴァン・カイック弦楽四重奏団  Quatuor Van Kaijk

 

当日のプログラム

 

2024年5月29日(水)
19:00@浜離宮朝日ホール

シューベルト:
弦楽四重奏曲 第12番 ハ短調 《四重奏断章》 D 703

ドヴォルザーク:
弦楽四重奏曲 第12番 ヘ長調 《アメリカ》 Op.96

メンデルスゾーン:
弦楽四重奏曲 第6番 ヘ短調 Op.80

(アンコール)
プーランク:愛の小径
フォーレ:ゆりかご

 

ヴァン・カイック弦楽四重奏団

二コラ・ヴァン・カイック(1st violin)
Nicolas Van Kuijk
シルヴァン・ファーヴル=ビュル(2nd violin)
Sylvain Favre-Bulle
エマニュエル・フランソワ(viola)
Emmanuel François
アンソニー・コンドウ(cello)
Anthony Kondo

 

シューベルト:四重奏断章

 

コンサート冒頭は、シューベルトの「四重奏断章」

シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797-1828)が第1楽章は書きあげたものの、第2楽章の途中でやめてしまった作品。

彼は、有名な「未完成交響曲」を頂点に、こうした中途で手放してしまった傑作が多い作曲家です。

 

ヴァン・カイック弦楽四重奏団によるシューベルト。

演奏が始まってすぐに耳をとらえられたのが、ファースト・ヴァイオリンのニコラ・ヴァン・カイックの音です。

 

いくぶん線の細い、けれども、十分なハリと輝きのある音。

ただ、それだけなら他にもたくさんいるわけで、このひとの音の凄さは、その輝きのどこかに、“ 鄙びた ”感触が香っていることです。

こうした音は、往年の名手などから稀に聴けるもの。

それが、現代の演奏家、それもまだ十分に若い演奏家から聴こえてきたことにとても驚き、魅了されました。

 

他のメンバーの印象も述べておくと、この団体はメンバーがそれぞれに優れていて、なかでも、第2ヴァイオリンのシルヴァン・ファーヴル=ビュルは特に情感豊かですが、それが決して出過ぎることなく、徹底して秀逸なアンサンブルを支えています。

ヴィオラのエマニュエル・フランソワは、かなり控えめですが、朗々とした音色を誇り、ここぞというときのカンタービレは非常に深い音色で聴き手の耳を捉えます。

チェロのアンソニー・コンドウ(名前からすると日系人?)は、ちょっと歌いそびれるときがあるものの、カルテット全体を支える豊かな音色と音量があり、アンサンブルに立体的な奥行をあたえています。

 

と、メンバーそれぞれが魅力的であるにもかかわらず、それでも、やはりファースト・ヴァイオリンのヴァン・カイックの音には、まったく独自の引力があります。

彼ヴァン・カイックの名前が、グループの名前として冠されていることが納得される、非常に多くのことを語る音です。

 

 

優れた造形美

 

さらに、冒頭のシューベルトですぐに示されたのが、このカルテットの優れた構成感です。

初めてこの「弦楽四重奏断章」を耳にしたとしても、作品の構造が目に見えるように感じるであろうほど、構築的に音楽を作っていきます。

 

第1主題から第2主題への移行の絶妙な表現、両主題の描き分け。

そして、音楽が有機的に「展開」されていく光景は、実に鮮やか。

シューベルト本人が聴いたとしても「まさに、こう書いたんだよ」と喜んだんじゃないかと思うほどです。

 

音楽をあるべき姿に形作っていく構成感には、この団体の類まれな音楽性がはっきりと映し出されていました。

 

1曲目から、これほどの演奏はそうそう聴けるものではないと、とっても幸せな気持ちになりました。

 

♪ヴァン・カイック弦楽四重奏団によるシューベルト作品集

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music   などで聴けます)

残念ながら「弦楽四重奏断章」は未収録。

 

ドヴォルザークの「アメリカ」

 

2曲目は、ドヴォルザークの名曲「アメリカ」

この作品でもシューベルトで見られた、たくさんの美点が同様に感じられましたが、さらに強く打ち出されていたのが、彼らの“ シンフォニック ”なアプローチでした。

 

音のバランスもそうですが、彼らは非常に「立体的なアンサンブル」をつくることを志向していて、オーケストラのような、厚みのある音の世界を構築していました。

方向性という点では、あの偉大なアマデウス弦楽四重奏団 (Amadeus String Quartet, 1947-1987) を一瞬思い起こしました。

 

ただ、ヴァン・カイック四重奏団による「アメリカ」は、第2楽章や第3楽章では器楽的な志向が強すぎて、作品の持つ素朴な感触が失われて、やや尖った音楽になってしまった印象を持ちました。

でも、両端楽章は実に立派なもの。

フィナーレなど実に愉快で、楽しい気持ちで胸がいっぱいになりました。

 

♪名カルテット、アマデウス四重奏団によるドヴォルザークの「アメリカ」

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第6番

 

休憩後は、このコンサートで私がいちばん楽しみにしていたメンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第6番へ短調です。

 

これは、メンデルスゾーンが書いた、ほとんど最後といっていい大曲。

この作曲の2カ月前には、姉ファニー・メンデルスゾーンが急死、そのショックと苦悩がはっきりと刻印されている音楽といわれます。

メンデルスゾーン自身もまた、この作品を完成した2か月後に急死しています。

 

優美な旋律線が特徴のメンデルスゾーンの作品群のなかで、これは非常に例外的な作品といえるでしょう。

そして、この極めて異例の、特異な名作を、この夜、ヴァン・カイック弦楽四重奏団は、期待に違わぬ演奏で描き切りました。

 

これは本当に心に刺さる、聴き手に痛みをあたえる音楽で、第1楽章冒頭から、作曲家の悲嘆と焦燥が胸を突きます。

それでも、これほどの悲しみが、しっかりと音楽的な“ 形式 ”をまとい、音楽的な“ うつくしさ ”を持たずにいられないところに、メンデルスゾーンの天才の悲劇、いらだちのようなものまで感じさせられます。

ときおり聴かれるファースト・ヴァイオリンの張り詰めた高音は、まるで叫びのようです。

 

第2楽章は、第1楽章を振り払うことができず、その気分に支配されたまま、憔悴のなかを疾走していくかのようなスケルツォです。

実演で聴いていると、まるでマーラーの交響曲第6番「悲劇的」で第2楽章にスケルツォ楽章が置かれたときのような、痛切な切迫感に支配されてしまいます。

同じユダヤ系の作曲家、その悲劇的な系譜、その天才的な閃き。

 

第3楽章は、この作品のなかで唯一の長調の楽章。

とはいえ、ここにあるのは明らかに悲しみであり、過ぎ去った何かを涙にぬれて思い起こしているかのような音楽です。

想像ですが、きっと、姉のファニーに捧げた音楽なのではないでしょうか。

 

フィナーレは第1、第2楽章と同じ「へ短調」に戻ります。

特定のモチーフが執拗にくりかえされ、出口のない音楽は、やがてファースト・ヴァイオリンを高音に押しあげ、悲嘆に満ちたカンタービレを経て、あとはただ、ひたすらに疾走して幕を降ろします。

 

先に書いた通り、これは、ほんとうに胸に刺さる音楽です。

 

ヴァン・カイック弦楽四重奏団は、この作品の語るところを余すところなく描き、圧倒的な音楽を体験させてくれました。

 

♪ヴァン・カイック弦楽四重奏団によるメンデルスゾーンの弦楽四重奏曲集

「第6番ヘ短調」も収録されています。

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

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作品への謙虚な姿勢

 

彼らの特徴について、もうひとつ、つけ加えておきたいことがあります。

それは、彼らが作品に対して、あくまで謙虚で、献身的だったということです。

 

技術的に優れたアンサンブルであればあるほど、そして、新進気鋭の演奏家であればあるほど、ときに作品を「料理」してしまっている印象を与えられることがあります。

ですが、今回の演奏会を聴く限り、彼らの演奏には、まだ若いということもあるのかもしれませんが、そうした瞬間はまったくありませんでした。

 

これは、今後もずっと持ちつづけてほしい、演奏家のあるべき姿だと感じました。

 

アンコール

 

深く、重く胸にのしかかるメンデルスゾーンを聴いて、正直、もう、このままで終わってほしかったのですが、アンコールが2曲演奏されました。

 

第2ヴァイオリンのシルヴァン・ファーヴル=ビュルの英語とフランス語による挨拶があって、メンデルスゾーンがあまりにシリアスな作品だったから、ということで、プーランクの「愛の小径」が演奏されました。

 

身体というのは正直なもので、たしかに、この「愛の小径」を聴いていると全身の緊張がゆるんで、胸のなかにつかえていたものが少しとれたのもわかりました。

「愛の小径」は初めて聴いたときから私自身も大好きな作品です。

でも、今回に関しては、そのあとのフォーレ「ゆりかご」を含め、やっぱりアンコールは無くてよかったかな、と思います。

 

あのメンデルスゾーンの余韻を、もっとずっと抱えたままで、帰路につきたかったと思いました。

それくらい、作品はもちろん、ヴァン・カイック弦楽四重奏団の演奏も、圧倒的な出来栄えでしたから。

 

おしまいに

 

ヴァン・カイック弦楽四重奏団、非常に秀逸な、今後、いっそう世界的にその存在感が高まっていくであろう団体です。

 

最近聴いたカルテットでは、一昨年聴いたベルチャ弦楽四重奏団、昨年聴いたイギリスのエリアス弦楽四重奏団とならんで、特に忘れがたい団体になりました。

世界最高峰のカルテット~ベルチャ弦楽四重奏団2022年日本公演を聴いて

初めて日本に姿をみせた英国の弦楽四重奏団~エリアス弦楽四重奏団を聴く

 

ヴァン・カイック弦楽四重奏団については、特集ページを作っていて、そちらでお薦めの音源なども紹介しています。

ヴァン・カイック弦楽四重奏団 Quatuor Van Kuijk ~お薦めの現役アーティストたち

 

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