エッセイ&特集、らじお

ハイティンク指揮ブルックナー6番(2018Live)の幸福感~Apple Musicで聴けるクラシック音楽

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今回ご紹介する音源は、オランダの名指揮者ベルナルト・ハイティンク(Bernard Haitink, 1929-2021)のライヴ録音。

2018年に名門ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を指揮した、「ブルックナー:交響曲第6番イ長調」です。

少し前にリリースされた音源で、2024年1月現在、アップル・ミュージックの独占配信です。

アップル・ミュージック独占配信

 

今回のテーマ録音はこちら。

♪ブルックナー:交響曲第6番イ長調WAB106

ベルナルト・ハイティンク(指揮)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

2018年12月14日、アムステルダム、コンセルトヘボウでのライヴ録音

 

少し前に、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団が7人の指揮者と演奏した「ブルックナー交響曲全集」がリリースされましたが、それとはまた別に、単発でリリースされた録音です。

2024年1月現在、アップル・ミュージック Apple Musicでの独占配信です。

 

コンセルトヘボウとハイティンクのこと

 

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

ここで演奏しているロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は、オランダを代表する名門楽団。

昨年あたりから日本でも大人気の若手指揮者クラウス・マケラが、2027年に首席指揮者に就任する予定なのが、この楽団です。

 

「コンセルトヘボウ」というのは、「コンサートホール」という意味のオランダ語。

1888年、オランダの首都アムステルダムにできた新しいホール「コンセルトヘボウ」の専属オーケストラとして誕生しました。

 

現在では、世界屈指の美しい音響をほこるホールとして有名な「コンセルトヘボウ」ですが、設計者が音楽についての専門的知識をもっていなかったため、当初は非常に音響がわるかったと言われています。

苦肉の策として、ためしに舞台をかさ上げしてみたところ、どういうわけか奇跡的に音響がよくなったというエピソードを聞いたことがあります。

 

このホールを拠点とするロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(旧 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団)は、ドイツのベルリン・フィル、オーストリアのウィーン・フィルとならんで、「ヨーロッパの三大オーケストラ」に数えられる名門楽団として演奏活動を繰り広げています。

 

 

コンセルトヘボウの名指揮者たち

 

コンセルトヘボウ管弦楽団がいちやく世界的な名声を得たのは、第2代首席指揮者のウィレム・メンゲルベルク(Willem Mengelberg, 1871-1951)の時代。

R・シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」は、メンゲルベルクとコンセルトヘボウ管弦楽団にささげられた傑作で、今も、この楽団の伝家の宝刀になっています。

 

♪R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」
ウィレム・メンゲルベルク(指揮)アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

メンゲルベルクのあとには、エドゥアルド・ファン・ベイヌム(Eduard van Beinum, 1901-1959)との黄金時代がつづきました。

♪ブラームス:交響曲第1番ハ短調
エドゥアルド・ファン・ベイヌム(指揮)アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

ハイティンクの時代

 

健康にめぐまれず、57歳で世を去ったベイヌムのあとを引き継いだのが、今回ご紹介するベルナルト・ハイティンク(Bernard Haitink, 1929-2021)でした。

 

♪ブルックナー:交響曲第9番ニ短調
ベルナルト・ハイティンク(指揮)アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

ハイティンクが就任したのが1961年のこと。

まだ30歳をすこし過ぎたくらいの若さで、大抜擢でした。

1988年に勇退するまで、四半世紀を超える長期間、この楽団と一時代を築きました

 

生誕200年ブルックナーの交響曲

 

ブルックナーの交響曲第6番

 

アントン・ブルックナー(Anton Bruckner, 1824-1896)は2024年、生誕200年の記念年です。

長大な交響曲の傑作を数多く残した大作曲家。

 

ブルックナーの交響曲は習作を含め11曲ありますが、そんななかで、この第6番は演奏頻度が低いほうに入るものでしょう。

壮麗な第5番、傑作群である第7~9番の狭間にある第6番は、やや地味な存在です。

 

ただ、ブルックナー作品に頻発する「全休止」(ゲネラル・パウゼ)が少なく、音楽に流麗さがあること。

それから、何といっても第2楽章に、ブルックナーの全作品のなかでも特に美しい、牧歌的な緩徐楽章があることなど、固有の美をもった傑作であることは疑いようもありません。

 

2024年の1月、札幌交響楽団や大阪フィルがサントリーホールで東京公演を行いますが、どちらの楽団もメインはブルックナーの交響曲第6番。

この作品が、じわりじわりと演奏頻度が高まってきている証拠だと思います。

 

 

レビュー:ハイティンク、2018年のブルックナー6番

 

ハイティンク晩年の名演奏

 

ベルナルト・ハイティンクは、わたしが特に好きな指揮者のひとりです。

実演でも、ウィーン・フィルとの来日公演を聴くことができて、あのときのブルックナーの交響曲第7番には、とても感銘を受けました。

ベルナルト・ハイティンク(1929-2021)の思い出~ウィーン・フィルとの来日公演

 

ただ、そんな彼がもっとも輝いていた時代というのは、やはり1980年代~1990年代だと私は思っています。

2000年代に入ってからは、主張のなさがあまりに目立つようになり、録音においても、ライヴ音源を中心に随分たくさんリリースされましたが、私はあまり感銘を受けませんでした。

 

でも、今回ご紹介するこの録音はちがっています。

これは、ほんとうに素敵なブルックナーです!

 

ハイティンクとブルックナー

 

ハイティンクという指揮者は、オーケストラを強力に引っぱるというよりは、楽団の自発性を多分に活かした音楽づくりをした人だったと思います。

“ 自然さ ”が何よりも重んじられていた印象があります。

 

テンポを無理に動かしたりしない彼の芸風には、そもそも、ブルックナーの作風がとても合っていたように思います。

 

ハイティンクは、まだ大成するまえの年代でも、ブルックナーの交響曲については、コンセルトヘボウと素晴らしい名演奏を残しています。

特に、第7番は出色で、私はハイティンクの様々な録音のなかでも特に好んで聴いています。

 

そして、今回リリースされたのは、ブルックナーの交響曲でもかなり地味な存在である「第6番」。

晩年、力感がほとんど感じられなくなったハイティンクにとっては、むしろ、曲想そのものが他の交響曲よりずっと合っているのではないかと思い、聴いてみることにしました。

 

フィナーレ第4楽章

 

それでも私は、最初、用心してフィナーレの第4楽章から聴いてみました。

 

 

というのも、ハイティンクの後年の録音の多くは、尻すぼみに終わってしまう嫌いがあるからです。

半信半疑でこの録音を聴き始めて、けれども、しばらくすると、そうした不安はやがて消えていきました。

 

“ 広がり ”のある音楽。

手応えのある展開。

確固たる、充実した音楽が展開されていきます。

 

そして、こうした確かな手応えがあるからこそ、ハイティンクならではの繊細な弱音部も、いっそうの“ 意味 ”をもって、多くを語りかけてきます

 

ピアノ、ピアニッシモなどの弱奏部での、深く、繊細な表情は、まさに晩年期にあった名指揮者ハイティンクならではの表現。

耽美的といってもいいくらい。

音楽がしっとりと、そして、静かに広がります。

 

美しい第2楽章

 

こうした充実のフィナーレに到達していくとわかれば、もう、他の楽章も安心して聴くことができます。

私は次に、この作品のもっとも美しい楽章、ブルックナーの全交響曲のなかでも、特に印象的な美しさを放つ「第2楽章」を聴いてみました。

 

 

フィナーレでもとりわけ深い印象を残した弱音の美しさ

予想通り、とっても美しい、それでいて、とっても自然な感興にあふれた音楽が聴かれます。

コンセルトヘボウの、芳醇で、美しい響きが、こぼれ落ちるようです。

 

切々たる弦楽器の歌には、ほんとうに心を打たれます。

全編に、ある種の力感、決して弛緩しない、一定の緊張感があって、ここでも音楽が充実した手応えを感じさせます。

 

作品と指揮者の幸福な出会い

 

そのあとに、第1楽章から通して聴いてみて、とっても心満たされました。

これはハイティンク晩年期を代表する録音のひとつになるでしょうし、また、ブルックナーの交響曲第6番の代表的な演奏のひとつにもなっていくでしょう

 

こうして聴いていると、実に、晩年のハイティンクに、第6番の曲想が合っているというのが大きいと思えてきます。

これが、第5番や第8番のような、壮麗で勇壮なフィナーレを持つ作品だったら、同じブルックナーといえども、これほどの結実には至らなかったでしょう。

 

おおらかで、自然体で、でも、どこか控えめな「第6番」だからこそ、晩年のハイティンクの無理のない、しなやかな音楽性と、幸福な共鳴をしているのではないかと思います。

 

ハイティンクの晩年を代表する、非常に優れたライヴ録音が登場しました。

コンセルトヘボウが、交響曲全集をリリースしたばかりなのに、わざわざ単発で出してきたというのも理解できる、素晴らしい記録です。

 

ハイティンクの晩年に、これほど充実した演奏があったとわかって、とても幸せな気持ちになりました。

名指揮者ベルナルト・ハイティンク(Bernard Haitink, 1929-2021)の晩年の演奏を偲びたいときに、真っ先に聴きなおしたい録音です。

 

♪今回ご紹介したテーマ録音はこちら。

♪ブルックナー:交響曲第6番イ長調WAB106

ベルナルト・ハイティンク(指揮)
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

2018年12月14日、アムステルダム、コンセルトヘボウでのライヴ録音

 

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