シリーズ〈オーケストラ入門〉

【オーケストラ入門】ブラームス:ハンガリー舞曲集~小さな試聴室

 

ブラームスとジプシー音楽

ドイツの作曲家ヨハネス・ブラームス(1833-1897)は若いころに、レメーニというハンガリー出身のヴァイオリニストのピアノ伴奏者として、演奏旅行に同行したことがありました。

このレメーニを通してジプシーの音楽にふかく興味を持ったブラームスは、その後もジプシーの音楽を採譜したりして、その成果として、1869年にピアノ連弾用の「ハンガリー舞曲集」を発表します。

当時、ジプシーの音楽はハンガリー音楽と考えられていたので、題名はハンガリー舞曲。

これは発表されると大評判になったのですが、あのレメーニが「ジプシー音楽の盗作だ」としてブラームスを裁判で訴えてきました。

賢明なブラームスは、出版のときにブラームス作曲ではなくブラームス“ 編纂 ”としていたので、この裁判はブラームスの勝訴。裁判のこともあって、ハンガリー舞曲集の後半はしばらく遅れて1880年の出版になっています。

レメーニのこと

こうした経緯で、少々音楽史で印象のわるいレメーニですが、ブラームスにとって、彼との演奏旅行はたいへん実りの多いものだったのはまちがいありません。

ジプシーの音楽を知ったことは大きくて、この曲に限らず、ブラームスは様々な曲でジプシー風の音楽語法を使うようになります。

それから、ヨーゼフ・ヨアヒムというヴァイオリニストを紹介してもらったことも大きな出来事でした。

このヨアヒムは、やはりハンガリー出身。類まれな音楽家で、その後のブラームスの創作におおきく影響を与えつづけるとともに、生涯の親友ともなりました。さらには、そのヨアヒムを通して、大作曲家ロベルト・シューマン、そして彼の妻クララ・シューマンと出会うことになります。

レメーニでちょっと驚くのは、彼が日本に来ているということ。1886年(明治19年)に来日して、あの鹿鳴館などで演奏したんだそうです。

『ハンガリー舞曲集』はもともとはピアノ連弾用の曲集でしたが、たいへんなヒット作になったので、オーケストラ用の編曲版も出るようになります。第1・3・10番の3曲だけはブラームス本人が編曲していますが、残りの曲はドヴォルザークなど他の人が編曲しています。また、そのドヴォルザークは先輩ブラームスの励ましもあって、1878年にブラームスにつづく形で『スラヴ舞曲集』を作曲、大成功をおさめることになります。

私のお気に入り

もともと全曲をとおして聴くためには作られていないので、まずは有名なところから聴いていくのがいいと思います。いちばん有名なのが第5番。その他、コンサートのアンコールなどで頻繁に演奏されるのが第1番、第10番といったところです。

 

ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団の演奏は、緩急自在のおもしろさ。一曲一曲を目いっぱい音楽的に描きわけています。ブラームスのあの情熱的側面がしっかりと音に宿っているという点でも、出色の演奏。

YouTubeに下のように有名どころを抜粋した20分ほどのものと、全曲をおさめているものがあります。クラシック初心者の方は、まず抜粋で有名どころを聴いてみると親しみやすいはずです。演奏はどちらも同じです。( Apple MusicAmazon MusicSpotifyLine Musicなどでも聴けます )

 

 

 

 

フリッツ・ライナー指揮ウィーン・フィルは凄みのある演奏。ほとんど動かず目で指揮をするライナーが、ウィーン・フィルから緩急自在、熱気にあふれた、燃えるような音を引き出しています。8曲を抜粋で収録。( Apple Music↓・Amazon MusicSpotifyLine Musicなどで聴けます )

 

 

ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏は、まだカラヤンが若かったころのもの。再録音をくりかえすカラヤンが、このハンガリー舞曲集は再録音しなかったのが納得できるような耳に残る演奏。特に、勢いのある、ベルリン・フィルの圧倒的な弦楽器群のすごさが伝わってきます。8曲を抜粋で収録。( Apple Music↓・Amazon MusicSpotifyLine Musicなどで聴けます )

 

 

アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団は、テンポや間のとり方が他の演奏とまったくちがって独特。全21曲から16曲を抜粋していますが、曲の並びがよく練られていて、番号順ではなく、有名な第5番から始まります。ドラティのアイディアなのか、プロデューサーのアイディアなのか、秀逸です。演奏はまるで、達人の書を見るよう。(AppleMusic↓・AmazonMusicSpotifyLine Musicなどで聴けます。)

 

 

チェコの名指揮者ヴァーツァラフ・ノイマン指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏は、情熱がありながらも、均整のとれた響きのたたずまいが魅力。10曲が抜粋で収録されています。このコンビの人間味あふれる演奏には、他に求められない、人肌のあたたかさがあります。( Apple Music↓・Amazon MusicSpotify などで聴けます)

 

ジョン・エリオット・ガーディナー指揮北ドイツ放送交響楽団は、情熱的でありながらも、知的に引き締まったプロポーション。9曲を抜粋で収録しています。冒頭のイッセルシュテットも北ドイツ放送交響楽団の演奏でしたが、このオーケストラはブラームスと縁のふかいオーケストラで、たしかブラームスのお父さんが弾いていたというコントラバスを楽団が所有しているはずです。( Apple Music↓・Amazon MusicSpotifyLine Music などで聴けます)

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