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ジョナサン・ノットと東京交響楽団によるベートーヴェンの交響曲第8番のCDがもう間もなくリリースされるそうです。
ついこのあいだ実演を聴いたばかりで、まるでウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートのようなリリースの速さに驚きます。
ノットと東京交響楽団のおかげで、毎夏がたのしみになっていました。
ミューザ川崎でおこなわれる音楽祭「サマー・ミューザ」のオープニング・コンサートに、これほど連続してジョナサン・ノットが登場してくれたことは、ほんとうにありがたいことでした。
ノット時代最後となる今年2025年のサマーミューザは、結論から言えば、前半はどうにも腑に落ちない演奏。
けれども、後半はこのコンビの美点がたくさん聴かれた、終わってみれば、行ってよかった公演となりました。
間もなくリリースのベートーヴェンの交響曲第8番は、前半のプログラムです。
目次(押すとジャンプします)
ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団
サマーミューザ2025オープニング公演
ローエングリン前奏曲
2025年7月26日(土)15:00@ミューザ川崎の演奏会。
そのプログラム冒頭は、ワーグナーの「ローエングリン」第1幕への前奏曲。
これは、とっても期待していた1曲。
けれども、過度にノットが弱音に固執したせいでしょうか、弦が常にどこか頼りなく、この作品の絶対的な何かが損なわれてしまったように聴きました。
「このコンビなら、もっとずっと美しい演奏に到達するはずなのに」。
そんな思いが最後まで消えませんでした。
デクレッシェンドした先で音がかすれてしまうのは、どうにも作品の世界観と乖離しているように感じました。
この公演では、開演前に「プレトーク」があって、私はまさかノット本人が出てくるとは思わず、その登場にまず驚いたのですが、ノットは、この前奏曲は“ 悲しい別れ ”の音楽だと話していました。
何でも、ノットが数年前に精神的な危機を迎えたときの、個人的な思い入れがからんでいる作品とのことでした。
実際、今回の演奏は、そういうものとして再現されていたと言えるかもしれません。
ただ、やはり私には、この前奏曲はそういうシンプルな「感情の音楽」としてはどうしてもとらえきれないところがあるのであって、ノットの、いわばエモーショナルな、いくぶんメロドラマ風にすら聴こえてきた解釈には、違和感を感じました。
ベートーヴェンでの違和感
「違和感」といえば、続いてノットが指揮したベートーヴェンの交響曲第8番は、輪をかけてそうでした。
やはりプレトークのなかで、この作品の精神は“ ウィット ”だとノットは話していて、なるほど、そのような演奏になっていました。
その最たるものがフィナーレ第4楽章。
これは、えらく速いテンポで演奏されました。
それはいいとしても、途中で坂道を転がり落ちるかのように勢いが止まらなくなり、演奏がはっきりと迷走してしまったのには閉口しました。
以前、ロシアのテミルカーノフ(Yuri Temirkanov,1938-2023)とサンクトペテルブルク・フィルがチャイコフスキーの「トレパック」をアンコールで演奏したときに、勢いがつきすぎ、金管の裏打ちが頭拍に重なってきて、演奏が止まりかけたときの冷や冷やした感覚を思い出しました。
どうもノットは、この楽章をロッシーニだとかパガニーニだとかの無窮動の音楽として捉えているようでしたが、私には、それはあまりに一面的すぎるように感じられます。
この第8番は、私がノットの指揮で聴いたベートーヴェンのなかで、間違いなく、断トツで頭をかしげる出来映えでした。
そのライヴ録音が間もなくリリースされますので、ブログ読者のみなさんはどう感じられますでしょうか。
機会がありましたら、是非、聴いてみてください。
マゼール版のワーグナー
後半もこの調子であれば、わざわざブログの記事に残すことはしないのですが、それを補って余りある出来映えだったのが、後半のワーグナーです。
懐かしい名指揮者ロリン・マゼールが編曲した、声楽のない「ニーベルングの指環」。
演奏に1時間以上かかる大作です。
♪マゼール自身の演奏
( Apple Music ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
余談ですが、さきほど「マゼール」とGoogleで検索したところ、Wikipediaの次にわたしの記事「あんなに腹をたてなければよかった~名指揮者マゼールの思い出、そして、彼の最高のマーラー録音」が出ていておどろきました。
検索順位第2位!光栄です。ありがとうございます。
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素晴らしかった「ニーベルングの指輪」
それはともかく、ノットと東京交響楽団に話題を戻すと、この巨大な作品で、彼らはその美点をいかんなく発揮していました。
これは本当に素晴らしい演奏でした。
その弦楽器の音の伸び、管楽器の響きのきらめき、打楽器群の絶妙なダイナミクス。
ノットと東響のコンビは、こうした大きな編成で音楽をやるときのほうが説得力も増すように感じます。
編成を小さくしてのモーツァルトなど、どうも説得力を欠きますし、それは編成を小さくしてのマーラー「花の章」でもそうでした。
編成の大きさと説得力の大きさが、ほぼ比例しているコンビと言えるのかもしれません。
それと、これは今まであまり触れないようにしていたのですが、東京シティ・フィルから移籍された竹山愛さんのフルートがアンサンブルから浮いて聴こえてくるのが、ずっと気になっていました。
それが、今回の公演では実にしっとりと溶け込んでいて、とても印象的でした。
ウィーン・フィルのフルート奏者が、この名門に入団するにあたって、音色やヴィブラートの回数など、楽団にあうように調整するのに苦労した話を読んだことがあります。
しっかりと自身の音をもつ奏者が、新しい環境にその音を寄りそわせていくというのは、時間のかかる、大変な過程なのだと教えられます。
東京交響楽団の管楽器は、荒絵理子さんのオーボエを筆頭に、名手ぞろいになるいっぽうです。
ワーグナーのほうをリリースしてほしい
舞台後方の2階客席を使って「鉄槌」を打ち鳴らしたり、演奏空間を上手につかうノットらしいアイディアも見られましたが、ただ、これほどの演奏をもってしても、この編曲作品の冗長感はぬぐえませんでした。
これは演奏の出来栄え云々ではなく、マゼール編曲版の限界のように感じます。
言葉をかえれば、この編曲版の最上のものを、ノットと東響によって体験できたと感じています。
ノットは作品を見事に俯瞰していて、全体の巨大なドラマを、矛盾なく描き出しました。
そのダイナミックな音楽作りと、一方で、抑制のきいた、精緻なコントロール。
一見矛盾するかのような、この両輪のバランスには、すっかり脱帽させられます。
私はてっきり、このワーグナーのほうがCDとしてリリースされるのかと思っていたので、ベートーヴェンのほうが出てきて驚いています。
もちろん、これから先、出ないとも限らないので期待して待ちますが、ウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」を筆頭に、シューベルトの交響曲第6番とロッシーニ集、それから、バーンスタインの「ウエストサイドストーリー・シンフォニック・ダンス」など、ほんとうに素晴らしかった演奏はほとんどリリースされないのが不思議でなりません。
♪ノット&東響「ブルックナー:交響曲第2番」
これは素晴らしい出来栄えでリリースされてよかった録音!
※残念ながら2025年9月時点でオンライン配信はなし
声楽への傾斜
来シーズンにはスペイン、バルセロナのリセウ大劇場の監督になるジョナサン・ノット。
東京交響楽団におけるラストシーズンも、際だって“声楽”への傾斜が強いように感じます。
演奏会形式オペラでの成果などを考えると、ジョナサン・ノットが劇場へ向かうのは当然のように思え、また、ボーイ・ソプラノとしても活動したひとりの音楽家の道程という意味でも、ここで本格的に「歌劇場」に足を踏み入れるノットの選択は、音楽家として非常に誠実で賢明な選択だと感じます。
バルセロナの人々は来シーズンから素晴らしい音楽の時間をもつわけで、もう、嫉妬せずにいられません。
さて、おしまいに、もう一度ベートーヴェンに話を戻しますが、プレトークのなかで、ノットは最近までベートーヴェンの8番をまともに聴いたことがなかった、という趣旨の話をしていました。
もちろん、多少の誇張はあるのでしょうが。
彼のように現代音楽の最前線でやっていたような音楽家は、そういうこともあるのかもしれないと思いましたが、それにしても、驚くべきことです。
最近の音楽家たちがモーツァルトやベートーヴェンをあまり取り上げず、やったにしても、何かせずにはいられないというか、どこか“作りもの”めいたものが聴こえてくるのは、そういうことの表れなのでしょうか。
ワルター(Bruno Walter, 1876 – 1962)が、小川のせせらぎを知らない者がどうやって「田園」を指揮できるでしょうか、と言っていましたが、そうした「自然」なものがだんだんと失われつつあるということなのでしょうか。
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