シリーズ〈小澤征爾さんで音楽史〉

小澤征爾さんで出会う大作曲家50人(第1回)ヴィヴァルディからモーツァルト

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日本のクラシック音楽をけん引した「世界のオザワ」こと、指揮者の小澤征爾(おざわ・せいじ、1935-2024)さん。

このシリーズでは、小澤征爾さんの録音で50人の作曲家にふれながら、クラシック音楽の歴史を旅します。

 

「クラシック音楽を聴いてみよう」という方向け、クラシック入門シリーズ。

シリーズ一覧はこちらのページで確認できます。

 

1:アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Lucio Vivaldi, 1678 – 1741)

 

忘れさられた大作曲家

 

一人目は「四季」でおなじみ、イタリアの作曲家ヴィヴァルディ(Antonio Lucio Vivaldi, 1678 – 1741)から始めましょう

 

ソロの楽器とオーケストラが対話するように音楽が展開する「協奏曲」というジャンルを中心に、名作を数多く生みだしました。

同時代のバッハ(Johann Sebastian Bach,1685-1750)も、彼の作品を書き写しながら勉強していました。

 

実はヴィヴァルディの作品は、18世紀末から19世紀末にかけて、すっかり忘れ去られました。

その再評価がすすむのは、なんと20世紀に入ってから。

今ではだれもが耳にする「四季」でさえ、これほど世界に広まったのは、第二次世界大戦後のことだったりします。

 

小澤征爾さんで聴くヴィヴァルディ

 

合奏協奏曲「四季」

 

小澤征爾さんは、1981年にボストン交響楽団と「四季」全曲をレコーディングしています。

まずは、いちばん有名な“ 春 ”から聴いてみてください。

 

ヴァイオリン・ソロは、この楽団の名コンサートマスター、ジョゼフ・シルヴァースタイン(Joseph Silverstein、1932-2015)

シルヴァースタインは23歳の年に、最年少でボストン交響楽団の第2ヴァイオリン奏者として入団。

7年後には、コンサートマスターにのぼりつめて、以後22年間にわたって楽団のコンサートマスターをつとめました。

 

♪ヴィヴァルディ:合奏協奏曲「四季」から“ 春 ”

Violin, ジョゼフ・シルヴァースタイン
ボストン交響楽団
小澤征爾(指揮)

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

CD派の方はこちらです。

 

 

2:ヨハン・セバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach,1685-1750)

 

「音楽の父」

 

“ バッハ以前のあらゆる音楽はバッハへと流れ込み、バッハ以後の音楽はすべてバッハから流れ出ている ”

 

そんな言葉があるくらい大きな存在とされるのが、ドイツに生まれた作曲家ヨハン・セバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach,1685-1750)です。

バロック音楽を集大成したバッハの音楽は、その後のクラシック音楽のおおきな土台となりました。

 

家庭面では、愛妻家で子煩悩。

生涯に20人の子どもが生まれたという一面も持っています。

 

そんなバッハですら、やはり、100年を超える長いあいだ、忘れ去られた時代がありました。

再評価のきっかけをつくったのは、メンデルスゾーン(Felix Mendelssohn Bartholdy1809-1847)やシューマン(Robert Schumann、1810-1856)といった、ロマン派の作曲家たち。

バッハが再発見されると、バッハが熱心にヴィヴァルディを研究していたことがわかり、ヴィヴァルディの再発見にもつながりました。

 

小澤征爾さんにささげられたバッハ

 

小澤征爾さんが24年の長期にわたって音楽監督をつとめたのが、アメリカの名門ボストン交響楽団。

2024年2月の小澤征爾さんの訃報を受け、ボストン交響楽団は追悼としてバッハ(「G線上のアリア」)を演奏しました。

この作品は、小澤征爾さん自身もたびたび指揮していた愛奏曲でした。

 

小澤征爾さんで聴くバッハ

 

トッカータとフーガニ短調

 

小澤征爾さんは1989年から90年にかけて、バッハ作品のオーケストラ編曲版ばかりを集めた“ 20th-CENTURY BACH ”(20世紀のバッハ)というアルバムを録音しています。

 

このアルバムから、だれもが知る冒頭をもつ「トッカータとフーガニ短調」をどうぞ。

もともとはオルガン曲ですが、大指揮者ストコフスキー(Leopold Stokowski, 1882-1977)がオーケストラ用にアレンジしたものが演奏されています。

 

♪バッハ(ストコフスキー編曲):
「トッカータとフーガニ短調」
ボストン交響楽団
小澤征爾(指揮)

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3:ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(Georg Friedrich Händel、1685-1759)

 

“ 音楽の母 ”

 

バッハと同じ年に、同じドイツに生まれて、同じように大作曲家、同じようにオルガンの大家、そして、晩年、目の病気に苦しんだところまで同じなのが、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(Georg Friedrich Händel、1685-1759)です。

 

“ ハレルヤ・コーラス ”で有名な「メサイヤ」などのほか、日本で表彰状をもらうときにながれる音楽も、“ 見よ、勇者はかえる ”というヘンデルの作品です。

ベートーヴェンは、最も偉大な作曲家として「ヘンデル」の名前をあげています。

 

バッハが生涯ドイツにとどまって活動したのと対照的に、ヘンデルは国際的に華やかな活動を展開しました。

それゆえに、ヴィヴァルディやバッハとちがい、没後もその名前が忘れ去られる時期のなかった最初の大作曲家です。

 

国際的に活躍したことは音楽にも反映されていて、ドイツ的な勇壮さに、イタリア的な軽やかさ、華やかさなどがあいまった、独自の音楽を展開しました。

 

小澤征爾さんで聴くヘンデル

 

合奏協奏曲変ロ長調

 

「小澤征爾さんには、ヘンデル作品の録音がないかもしれない…」と心配していたのですが、探してみたところ、カナダのトロント交響楽団と録音した「合奏協奏曲 変ロ長調」が見つかりました。

 

1967年のおおみそかに収録されたもののようで、まだ小澤征爾さんが32歳のころ。

ネット配信だからこそ聴ける、レア音源です。

 

♪ヘンデル:
合奏協奏曲変ロ長調Op.6-12
トロント交響楽団
小澤征爾(指揮)

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4:フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(Franz Joseph Haydn, 1732-1809)

 

“ 交響曲、弦楽四重奏の父 ”

 

バッハやヘンデルに代表される「バロック音楽」の時代のあとには、「古典派」といわれる大作曲家たちが登場します。

 

その「古典派」最初期の大作曲家が、オーストリアに登場したフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(Franz Joseph Haydn, 1732-1809)です。

 

「交響曲」や「弦楽四重奏曲」といったジャンルを自身の手で確立した功績は大変おおきく、「交響曲の父」とか「弦楽四重奏の父」とか呼ばれることがあります。

 

ハイドン個人は、非常に朗らかで、温厚な性格だったと言われ、24歳も年下のモーツァルトの天才を手放しで認めたくらい、寛大な人物でした。

モーツァルトはハイドンを敬愛し、親しみを込めて“ パパ・ハイドン ”と呼んでいました。

さらには、若きベートーヴェンを発見し、音楽の都ウィーンに連れ出したのもまた、ハイドンでした。

 

小澤征爾さんで聴くハイドン

 

ドイツ国歌

 

意外なことに、小澤征爾さんにはハイドンの録音が見当たりません。

コンサートでは指揮されていたので、たまたまでしょう。

 

そこで、1998年長野オリンピックのときに、小澤征爾さんが新日本フィルと録音した「世界の国歌」というアルバムから、「ドイツ国歌」をご紹介します。

 

この国歌、実は、ハイドンが作曲した「神よ、皇帝フランツを守りたまえ」の旋律をつかっています。

ハイドン自身、この旋律を気に入っていたようで、あとに、弦楽四重奏曲「皇帝」の第2楽章でも使っています。

 

♪ドイツ国歌
小澤征爾(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団

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ユニバーサル ミュージック

 

 

 

5:ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart、1756-1791)

 

“ 神童 ”

 

クラシック音楽史上、最高の天才と評されるがヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart、1756-1791)

奇跡と神秘に満ちた、人知を超える35年の生涯は、アカデミー賞をとった映画「アマデウス」でも描かれました。

 

 

5歳の時点で後世に残る作品を書きはじめ、7歳のときには、その演奏を聴いた文豪ゲーテが「絵画のラファエロ、文学のシェイクスピアに比肩する」と感嘆したほどの神童でした。

 

ヨーロッパ中を旅してまわり、その行く先々で新しい音楽を吸収し、完全にみずからのものとしていきました。

 

晩年は経済的に困窮し、どういう巡り合わせか、依頼を受けた「レクイエム(死者のためのミサ曲)」を書いている途中で亡くなりました。

 

当時は現在ほどの評価がなかったため、モーツァルトは集団墓地にほうむられ、結果、現在にいたるまで、彼の遺体や遺骨と断定されるものはいっさい見つかっていません。

この世界には、彼の手紙や「音楽」だけが残されました。

 

小澤征爾さんは、あるインタビューで、モーツァルトの音楽というのは、モーツァルトという人物を通して神様が人間にあたえたものではないか、と語っています。

 

小澤征爾さんで聴くモーツァルト

 

ディヴェルティメント ニ長調 K.136

 

小澤征爾さんがサイトウ・キネン・オーケストラとのアンコールでよく演奏していたのが、モーツァルトのディヴェルティメントニ長調K.136の第2楽章。

 

他の指揮者よりも、ぐっと遅めのテンポで、しっとりと歌われるアンダンテ。

このコンビならではの独自の美しさです。

1992年の録音。

 

♪モーツァルト:
ディヴェルティメントニ長調~第2楽章
サイトウ・キネン・オーケストラ
小澤征爾(指揮)

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