シリーズ《小さな音楽処方箋》、今回は「少しでもクリスマス気分を。」ということで、仕事やらコロナ禍やらでクリスマス気分どころではない方もたくさんいらっしゃると思いますが、YouTube上の音楽ですこしでも気持ちが和らげばと思います。
さて、クリスマスは文字通り、Christ(キリスト)+mas(ミサ)なので、もともとはキリストの生誕をお祝いするミサのこと。
そして、地域によって、そのお祝いのしかたは様々。
音楽で言えば、たのしい気分のアメリカ風と、厳かなヨーロッパ風におおきく分かれると思います。
ひとくちに「クリスマス音楽」といっても、実はいろいろなものがあります。
この時期になるとクラシック音楽家たちが、様々なクリスマス音楽の動画を上げていたりもするので、そちらも織り交ぜつつ、今回は6つの動画をご紹介します。
目次(押すとジャンプします)
ドイツのケルン放送管弦楽団によるクリスマス音楽
ケルン放送管弦楽団のメンバーが公式にあげている、わずか1分51秒の動画。
弦楽四重奏にパーカッションを追加してのアンサンブルによる演奏。
演奏されているのはHere Comes Santa Clause(サンタクロースがやって来る)。
1947年のアメリカで発表されたクリスマスソング。
その意味では、クラシック音楽ではなくてポップスなんですが、どうぞご容赦ください。
1947年というと、第2次大戦の終戦からわずか2年。
そうした時代背景もあるのか、この時代のアメリカのクリスマスの歌は、優しくてあったかい、いいものがたくさんあります。
オランダのコンセルトヘボウによるクリスマス音楽
以前に『コンセルトヘボウ・オーケストラがやって来る』という映画の話でもご紹介した、オランダの名門オーケストラ、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のメンバーが公式に上げている6分ほどの動画。
弦楽四重奏にコントラバス、オーボエ、クラリネット、パーカッションという8人で演奏しています。
冒頭は「ジングルベル」、それにつづいて、「ホワイト・クリスマス」→「赤鼻のトナカイ」→「リトル・ドラマー・ボーイ」、そして、おしまいに「ジングルベル」が帰ってくるという曲順。
始めと終わりを同じ音楽にしているところが、いかにもクラシック音楽に携わっている人たちらしい、音楽に統一感を持たせている構成です。
イギリスのフィルハーモニア管弦楽団からのクリスマスカード
イギリスの名門フィルハーモニア管弦楽団は、この季節になると音楽によるグリーティングカードを毎年上げています。
“Christmas Card”(クリスマスカード)と題されたクリスマス関連の動画です。
昨年2020年は、1945年生まれのイギリスの作曲家ジョン・ラターによる「ともしびのキャロル」、そのチェロ合奏版がアップされました。
ジョン・ラターは主に合唱作品で著名な、今も現役の作曲家です。
もともとは歌詞のある歌ですが、これはチェロ9本での合奏版。
おそらく、天使の階級が9つに分かれていることから、9本ということなんだと思います。
ちがっていたらごめんなさい。
このときは、真ん中にチェロ奏者のアリサ・ワイラースタインを迎えて、それをフィルハーモニア管弦楽団のチェロセクション8人で囲んで演奏。
これは上までの動画とちがって、新しいクリスマスの歌を演奏しているわけですが、このラターという作曲家の音楽は、本当に旋律がうつくしいです。
これもまたいつか、古典になっていくのでしょうか。
イギリスの声楽アンサンブル
キングズ・シンガーズによるクリスマス・ソング集
キングズ・シンガーズは、6名によるイギリスの声楽グループ。
1968年に結成、以来、メンバーがいろいろと入れ替わりながら現在も活躍中です。
レパートリーはクラシックだけでなく、ポップスも含め、いろいろなジャンルを股にかけて歌っています。
ここでご紹介するのは、彼らが様々なジャンルのクリスマス・ソングを歌った1時間ほどの動画。
クラシック音楽の動画制作会社ユーロアーツが正式に公開しているものです。
動画はYouTubeに移動しないと見れないように設定されているので、以下にお薦めの曲の各リンクを貼っておきます。
「ジングルベル」「もろびとこぞりて」「ザ・クリスマス・ソング」「世の人忘るな」「リトル・ドラマー・ボーイ」「ひいらぎかざろう」などなど、実にいろいろなものが歌われています。
しっとりとした静かな歌を聴きたいときは「きよしこの夜」を。
古楽の大家トン・コープマンが指揮するコレルリ『クリスマス協奏曲』
次に、いちばんヨーロッパ的なクリスマスの音楽を。
いつか紹介したいと、ずっと思っていた動画です。
これはバロック音楽の大家トン・コープマンが、スペインのガリシア交響楽団を指揮した15分ほどのライヴ映像。
コレルリは、『四季』で有名なヴィヴァルディのちょっと前の作曲家で、この『クリスマス協奏曲』は彼の代表作のひとつです。
クリスマスの夜のミサで演奏される目的で書かれたので、『クリスマス協奏曲』と呼ばれています。
この時代のクリスマス音楽のひとつの特徴は、“パストラール”(牧歌・田園曲)というゆっくりとした音楽が入ることです。
この曲では、いちばんおしまいが“パストラール”になっています。
これは、昔、イタリアで羊飼いたちがクリスマスの季節になるとローマに出てきて、聖母マリア像の前でゆっくりとした音楽をささげる習慣があったことの名残とされています。
クリスマスというと、どうしてもアメリカ型のにぎやかなものを連想しがちですが、もともとのヨーロッパのクリスマスは、音楽も含めもっと厳か。
反面、ちょっと退屈になってしまうこともあるこの種の音楽。
それを、120%生きた音楽として、その魅力を全開で引き出しているのが、トン・コープマンです。
類まれな演奏がここで楽しめます。
トン・コープマンの全身をつかった指揮は、ほんとうに躍動的。
以前ご紹介したバッハの演奏のときには、マスクでその表情がおおわれていましたが、ここでは彼の素敵な表情をはっきりと見ることができます。
じっくりと、そして何度も聴きたい、第一級のクリスマス音楽。
イギリスの名門ロイヤル・バレエ団のピアニスト2人による“花のワルツ”
そして、最後はクラシック界でのクリスマスの定番を。
クリスマス・シーズンを彩るバレエ、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』からピアノによる“ 花のワルツ ”です。
このバレエは、くるみ割り人形をクリスマス・プレゼントにもらった少女が主人公。
有名な“ 花のワルツ ”は、このバレエの第2幕に登場する音楽です。
年末になると世界中のバレエ団が、この『くるみ割り人形』を上演するわけですが、さすがにそうしたバレエの練習に毎回オーケストラを使うわけにはいきません。
なので、普段はピアノ伴奏で練習をしているもので、バレエ団にはたいてい専属の伴奏ピアニストがいます。
この、普段は縁の下の力持ちとして表舞台には出てこない、バレエ団のピアニストたち。
そうした2人が連弾で“ 花のワルツ ”を演奏して、いわば表舞台に出た動画が、ここにご紹介するものです。
これは、とってもおもしろい趣向だと思います。
世界中のバレエ団に真似をしてほしい、とっても良い企画です。
というわけで、今回はクリスマス特集でした。
クラシックではないんですが、私は往年のジャズ歌手ナット・キング・コールが歌う“The Christmas Song”という歌が大好きで(今回ご紹介した動画でもキングズシンガーズが歌っていました)、ですので、その歌詞でこの記事を終えたいと思います。
And so I’m offering this simple phrase,
To kids from one to ninety-two,
Although its been said many times, many ways,
A very Merry Christmas to you.
“もう何度も繰り返されている言葉だけれど
1歳のこどもたちへも 92歳の人たちへも
このとてもシンプルな言葉を贈ります
メリークリスマス”