シリーズ〈オーケストラ入門〉

【オーケストラ入門】ガーシュウィン(ベネット編):交響的絵画『ポーギーとベス』

 

出会い

わたしが中学生のころ、NHK-FMで日曜日の夜に「クラシック・リクエスト」という番組をやっていました。
クラシックを聴きはじめて間もなかった当時、こうしたラジオでいろいろな曲や演奏に出会うのが楽しくてよく聞いていました。

司会は、指揮者の大友直人さんとオーボエ奏者の大宮さんという女性で、ふたりのほのぼのとした音楽話も面白く、大好きな番組でした。

この番組に教えてもらった名曲のひとつが、ガーシュウィン作曲(ロバート・ラッセル・ベネット編曲)交響的絵画『ポーギーとベス』です。

オペラから生まれた

歌劇『ポーギーとベス』はアメリカの作曲家ジョージ・ガーシュウィン(1898-1937)が1935年に発表したオペラ。

交響的絵画『ポーギーとベス』は、そのオペラの聴きどころをメドレー形式でつなげて、オーケストラだけで演奏できるようにした1942年の編曲作品です。

 

私にとって意外だったのは、この編曲を委嘱したのが、ハンガリー出身の名指揮者フリッツ・ライナー(1888-1963)だということ。

フリッツ・ライナーは、硬派で厳しい音楽作りをした名指揮者。後にシカゴ交響楽団の音楽監督として、このオーケストラの黄金時代を築き上げることになりますが、当時はピッツバーグ交響楽団の指揮者でした。

 

編曲を依頼されたロバート・ラッセル・ベネット(1894-1981)は、『古いアメリカ舞曲による組曲』や『バンドのためのシンフォニック・ソング』といった吹奏楽作品でも知られる作曲家。
これらは、吹奏楽の恩人フレデリック・フェネルの録音で有名な、吹奏楽の古典的作品。

彼はミュージカルの分野でも活躍していたそうで、その際、ガーシュウィンと一緒に働いていたという経歴も持っているそうです。

私のお気に入り

「クラシック・リクエスト」で流れた演奏は、忘れもしない、アンドレ・プレヴィン指揮のロンドン交響楽団のものでした。

これを一度聴いて大好きになって、結局、今もいちばんお気に入りの演奏です。
最初から最高に素敵な演奏で出会うことができてあの番組には今も感謝しています。

指揮者のアンドレ・プレヴィンは、クラシックのみならず、ジャズやポピュラー音楽の世界でも著名だったミュージシャン。

ロンドンのオーケストラがアメリカの楽団顔負けというくらいの、アメリカ的な、開放的でのびやかな演奏をしている素敵な録音です。

これは「決定版」といえるくらい、曲の魅力を120%引き出している凄い演奏だと思います。
( AppleMusic↓、AmazonMusicSpotifyLineMusic )

 

 

嬉しいことに、この編曲を委嘱したフリッツ・ライナー指揮ピッツバーグ交響楽団の録音も残っています。
1945年、日本が終戦を迎えた年の録音です。

ライナーは、目で指揮をしているといわれたくらい、ほとんど動かない指揮者でした。
それは残っている映像を見てもはっきりとわかります。

そうした切りつめられた動きから引き出される、非常にストイックで厳格な音楽をつくる指揮者のライナーが、ガーシュウィンを指揮しているだけでも驚きですが、演奏を聴くとさらに驚かされます。

予想通り決して甘くない、辛口の演奏なんですが、サキソフォンの音色の活かし方といい、聴けば聴くほど味のある演奏が記録されています。

品のある、極上のワインのような演奏。
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アンタル・ドラティ指揮デトロイト交響楽団の演奏は、この指揮者らしいキレのある硬派な演奏。

筋肉質な響きという点で独自の個性をもつ、質実剛健な音楽が展開されていきます。アメリカ的なのびやかさというよりは、ひきしまった音の建築物というような。

その分、この作品との相性という点でちょっとぎこちない感じがしなくもないのに、なにか惹きつけられる不思議な魅力をもっている録音です。
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シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の演奏は、オーケストラが明るい音色で洗練の極みを聴かせてくれます。

このコンビはフランス以上にフランス的といわれた名コンビでしたが、この曲に関して私が受ける印象は、フランス的というよりはカナダ的。
合衆国より落ち着いた楽天性を感じます。その意味でこのコンビではちょっと珍しい演奏かもしれません。

こうしてならべると、偶然にも、ライナー、ドラティ、デュトワと、いずれもオーケストラ・トレーナーとして、つまり、楽団の技術的な向上に大きく貢献したことで著名な指揮者が並んでしまいました。

そうしたアンサンブル的側面、オーケストラを鳴らせるという面で、大きな魅力をもっている作品なのかもしれません。
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おしまいに、こちらも録音が残っていることがありがたい、編曲者ご本人のロバート・ラッセル・ベネット指揮RCA交響楽団の1959年の録音。

失礼な言い方ですが、これが意外と素晴らしい演奏でおどろきました。
響きのバランスやテンポの揺らし方などが、これまでにご紹介したどの演奏より、ミュージカルや映画音楽の演奏に近いのが特徴。

もちろん、最近のものではなく、ひと昔前のオールディーズな雰囲気です。

そういった意味で、とってもアメリカ的で、純国産というのが魅力。
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