コンサートレビュー♫私の音楽日記

タリス・スコラーズ、世界最高のアカペラを聴く~2024年日本公演

※当サイトはアフィリエイトを利用しています

 

タリス・スコラーズ The Tallis Scholars 2024 日本公演

 

当日のプログラム

 

2024年7月6日(土)
15:00@ミューザ川崎

〈結成50周年記念プログラム〉

ギボンズ:おお、手を打ち鳴らせ
ウィールクス:高みでは神に栄光あれ
トムキンズ:おお神よ、おごり高ぶった者たちが私に逆らって立ちあがり
ミューリー:ラフ・ノーツ
パーソンズ:おお、やさしきイエスよ

(休憩)

アレグリ:神よ、われを憐れみたまえ(ミゼレーレ)
パーセル:神よ、われを憐れみたまえ(9声のミゼレーレ)
ゴンベール:ダヴィデはアブサロムのために嘆き
ジョスカン・デ・プレ:わが子アブサロムよ
A.ペルト:それは…の子

[アンコール曲]
A.ペルト:Bogoroditse Djevo

 

ミゼレーレとタリス・スコラーズ

 

システィーナ礼拝堂、門外不出の秘曲 ”、そんな言葉がNHK-FMラジオからながれてきて、出会ったのがグレゴリオ・アレグリ(Gregorio Allegri 、1582-1652)作曲の「ミゼレーレ」。

初めて耳にする秘曲は、そのうたい文句がわたしに抱かせた期待を、はるかに超える美しさをもった音楽でした。

 

この世に絶対的に美しいものがあるとすれば、それはまさにこの歌のこと ”だと思いました。

もう、何年も何年も前の思い出です。

 

そのときラジオから流れた「ミゼレーレ」が、ピーター・フィリップス指揮によるタリス・スコラーズの録音でした。

曲もすごいけれど、その美を最大限に引き出している歌唱もすごい。

ラジオの前で、ただただ、圧倒されました。

 

♪アレグリ:ミゼレーレ
ピーター・フィリップス(指揮)タリス・スコラーズ

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

created by Rinker

 

それ以来、このコンビの公演をナマで体験したいと思っていたのですが、どういうわけかいつも都合がつかず、ときにはチケットを買っていたのに急用が入り、友人に代わりに行ってもらったり。

それがようやく、今年2024年の7月、彼らの実演に触れることができました。

 

実演で聴くタリス・スコラーズ

 

ステージには、女声6名、男声4名、合計10名の声楽アンサンブル、そして、指揮者のピーター・フィリップス。

 

昨年が結成50周年だったということなので、メンバー交代も当然それなりに行われてきたと思いますが、それでも、舞台から聴こえてくるのは、間違いなく“ タリス・スコラーズ ”の歌。

不思議なことです。

 

50年(半世紀!)という年月のなか、表現に一貫した何かがあるというのは、つまりは、指揮者ピーター・フィリップスの手腕なのでしょう。

それでいて、舞台上の彼らが何かしらの「スタイル」にしばられているようには全く見えず、むしろ、歌い手ひとりひとりの自然体の表情、歌う喜びからか、自然にあふれる笑顔が印象的です。

 

録音では、その「完璧さ」が何より印象的だった彼らですが、こうして実演で接してみると、どこかもっと柔和で、録音よりもずっと人間的な歌唱に感じられます。

 

こういったものは、やはり生演奏に接してみないとわかりません。

生身の人間から生まれてくる「声」の音楽。

それも器楽をいっさい用いない無伴奏の「ア・カペラ」という営みの尊さ、美しさに、じっと耳をすませました。

 

 

ミゼレーレ

 

私がタリス・スコラーズと出会った思い出の曲、アレグリ:ミゼレーレは、この日のプログラムにも含まれていて、それは、後半の冒頭に歌われました。

 

貴重な体験でしたが、ただ、ちょっと予想外のことも起きました。

 

この作品は、4声と5声の声楽アンサンブルが、空間的に離れた場所で歌い交わす構成になっています。

ですので、この公演では、舞台上と、客席後方とにアンサンブルがわかれて歌い交わす配置がとられました。

 

まず舞台上の合唱が歌い、そして、客席後方からもうひと手のアンサンブルが歌い始めた瞬間でした。

そうとは知らなかったかなりの数のお客さんが驚いて振り返り、小声でしたが「え?どこ?どこ?」「あっち!後ろ!」などの声まで聞こえてくるさわぎに。

 

正直なところ、まったき静寂のなかで耳をすませて聴きたい作品なので、がっかりというか、台無しになってしまった感じはしたのですが、でも、知らなければ驚くのも無理はない話なので、仕方ないとも思います。

舞台上のメンバーも、その素直すぎる反応に、思わず笑っていました。

 

救いだったのは、この歌唱のやり取りは何度も繰り返されるということ。

会場はやがて静けさにつつまれ、後半は歌に集中ができました。

 

実演で接する高音Cを頂点とするフレーズ。

それは、まさに天から星がふりそそぐかのようでした。

 

プログラムノート(後藤菜穂子さん解説)で知ったのですが、アレグリが作曲した時点ではもっとシンプルな楽曲だったそうで、それが装飾をくわえられながら伝承され、現在の美しさに至っているそうです。

そのエピソードもまた、どこか個人を超えた、神秘的な何かを感じさせます。

 

トムキンズの作品

 

コンサート後半は、このミゼレーレ騒ぎがあったせいか、やや緊張がとけてしまった感があり、なので、むしろ音楽的な充実という点では、前半が聴きどころだったように感じます。

今回のプログラムでは、前半にも後半にも現代曲が上手に配置されていて、前半のミューリー(1981-)によるスコットの南極探検をモチーフにした作品、後半のペルト(1935-)作品などが、歌唱面でも特に力点がおかれ、卓越していました。

 

でも、私がいちばん魅了されたのは、トマス・トムキンズ(Thomas Tomkins, 1572–1656)の「おお神よ おごり高ぶった者たちが私に抗って立ち上がり O God, the proud are risen against me 」という作品。

 

ポリフォニーと和声的な歌唱とが綾をなして、交代しながら進んでいく音楽で、その音楽の波打つ美しさ、書法が切り替わり、移り変わっていく独特の美しさなど、作品も歌唱も夢のようでした。

私は初めて耳にした作品で、わずか4分で終わってしまうのがとっても惜しい、珠玉の出会いになりました。

 

♪トムキンズ:「おお神よ おごり高ぶった者たちが私に抗って立ち上がり」
ピーター・フィリップス(指揮)タリス・スコラーズ

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

プログラムにも表れる審美眼

 

コンサートは、アンコールに、エストニア生まれの現代作曲家アルヴォ・ペルト(Arvo Pärt, 1935-)の作品、ピーター・フィリップスが英語で紹介していた内容によれば、ロシア語の「アヴェ・マリア」と言いえる作品が歌われて終わりました。

 

16世紀の作品から、現在も活躍中の作曲家まで、幅ひろい時代を扱ったプログラムのコンサートでした。

ただ、現代曲といっても、彼らの歌唱芸術にふさわしい作品がしっかりと選ばれていて、ルネサンス期の合唱曲と並べても、その余韻を乱すことがない曲を選ぶあたり、彼らの審美眼もまた、非常にすぐれたものです。

 

こうして、実演での、とても人間的なしなやかさをもった歌唱に接すると、録音も素晴らしいけれど、やはり、もっともっと生演奏で聴きたいアンサンブルだと感じました。

この合唱をもし日常的に聴けたなら、バロックより前の声楽芸術について、より広く、より深く知ることができるのにと思います。

 

ピーター・フィリップスとタリス・スコラーズ、「世界最高のア・カペラ声楽アンサンブル」という評判どおりの、実に素晴らしいコンビです。

 

リテラシー

 

それにしても、ミゼレーレでの会場のざわめきを考えると、アレグリの「ミゼレーレ」を知らずともタリス・スコラーズを聴きに来たお客さんが少なくなかったということになります。

それはそれで、すごいことです。

だって、名曲を並べたオーケストラ・コンサートとか、人気ピアニストが出てくる公演に行くのとはわけがちがいますから。

 

この一連の日本ツアーが、多くの人にとって新たに「タリス・スコラーズ」の魅力を知るきっかけになったのなら、ほんとうに素晴らしいことだと思います。

そうして、段々と日本におけるルネサンス期の芸術の受容が広まって、自然とミゼレーレに驚かなくなる日が来るよう、祈りたいです。

 

♪ペルト作品のアルバム
ピーター・フィリップス(指揮)タリス・スコラーズ

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

 

オンライン配信の聴き方

 

♪このブログではオンライン配信の音源も積極的にご紹介しています。

現状、Apple Music アップル・ミュージックがいちばんおすすめのサブスクです。

【2024年】クラシック音楽サブスクはApple Music Classicalがいちばんお薦め

 

Amazon Musicアマゾン・ミュージックも配信されている音源の量が多く、お薦めできます。

Amazonでクラシック音楽のサブスクを~スマホは音の図書館

 

お薦めのクラシックコンサート
コンサートに行こう!お薦め演奏会

 

♪実際に聴きに行ったコンサートの感想・レビュー
➡「コンサートレビュー♫私の音楽日記

 

クラシック音楽にまつわるTシャツ&トートバッグを制作&販売中
Tシャツトリニティというサイトで公開中(クリックでリンク先へ飛べます)

 

 

ヴァン・カイック弦楽四重奏団 日本公演2024~大成を予感させるフランスの新しいカルテット前のページ

小澤征爾さんで出会う大作曲家50人(第1回)ヴィヴァルディからモーツァルト次のページ

ピックアップ記事

  1. クラシック音楽をサブスク(月額定額)で楽しむ方法~音楽好きが実際に使ってみました…

関連記事

PR

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

おすすめnote

カテゴリー&検索

月別アーカイブ

最近の記事

  1. シリーズ〈オーケストラ入門〉

    デュカス:『魔法使いの弟子』解説&お気に入り名盤~小さな試聴室
  2. シリーズ〈音楽の処方箋〉

    【クラシック音楽の処方箋】YouTubeで親しむクリスマス・シーズンのクラシック…
  3. エッセイ&特集、らじお

    私たちはなぜ音楽を聴くのか~映画『ロイヤル・コンセルトヘボウオーケストラがやって…
  4. シリーズ〈交響曲100の物語〉

    【初心者向け:交響曲100の物語】ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調Op92
  5. お薦めの音楽家たち

    音大フェスティバル・オーケストラの公演から~わたしのおすすめクラシック・コンサー…
PAGE TOP