シリーズ〈小澤征爾さんで音楽史〉

小澤征爾さんで出会う大作曲家50人(第10回・最終回)ガーシュウィンから武満徹

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日本のクラシック音楽をけん引した「世界のオザワ」こと、指揮者の小澤征爾(おざわ・せいじ、1935-2024)さん。

このシリーズでは、小澤征爾さんの録音で50人の作曲家にふれながら、クラシック音楽の歴史を旅します。

この機会に「クラシック音楽を聴いてみよう」という方向け、クラシック入門シリーズです。

シリーズ一覧はこちらのページで確認できます。

 

46:ジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin、1898-1937)

 

 

ジャズとクラシック音楽の交差点

 

ドヴォルザーク(Antonín Dvořák、1841-1904)がニューヨークのナショナル音楽院の院長を辞し、祖国チェコへ帰っていったのが1895年。

それから3年後の1898年、ニューヨークのブルックリンにジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin、1898-1937)が生まれます。

ガーシュウィンがはじめて耳にしたクラシック音楽は、ドヴォルザークの「ユモレスク」だったそうです。

 

はじめポピュラーミュージックの世界で活躍しましたが、やがてクラシック音楽へ傾倒し、クラシック音楽にジャズの手法を織り交ぜた「シンフォニック・ジャズ」の世界を切り開きます。

代表作となる「ラプソディー・イン・ブルー」を皮切りに、よりクラシカルな「へ調のピアノ協奏曲」のような傑作を生みだしました。

 

同時代のクラシックの作曲家たちからの評価も非常に高く、クラシック音楽をより深く学ぼうと、ラヴェル(Maurice Ravel 、1875-1937)やナディア・ブーランジェ(Nadia Boulanger, 1887 – 1979)などに弟子入りを志願するものの、いずれも、その天賦の才能に余計なものを足しなくないと断られています。

 

小澤征爾さんで聴くガーシュウィン

 

ラプソディー・イン・ブルー

 

アメリカで活躍した小澤征爾さんにはガーシュウィンに関連するアルバムが複数あります。

ベルリン・フィルとの「ガーシュウィン・アルバム」では、ブルガリア出身の名ピアニストのアレクシス・ワイセンベルク(Alexis Weissenberg, 1929-2012)と共演。

「ラプソディー・イン・ブルー」を録音しています。

 

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ワイセンベルクのピアノといい、ベルリン・フィルの演奏ぶりといい、かなり「クラシック音楽より」に作品をとらえた演奏になっています。

良くも悪くもジャズ的な演奏になれてしまった今のベルリン・フィルでは、こうした演奏にはならないでしょう。

とっても品位のあるガーシュウィンで、その点、今聴くからこそ面白い録音です。

 

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ワーナーミュージックジャパン

 

➡ガーシュウィン:歌劇『ポーギーとベス』~休日の午後にたのしみたいハイライト版

 

47:フランシス・プーランク(Francis Poulenc, 1899-1963)

 

 

修道士が半分、腕白小僧が半分

 

もしあなたがフランシス・プーランク(Francis Poulenc, 1899-1963)の音楽にまったく触れたことがないのなら、まずは、「フルート・ソナタ」の第2楽章“ カンティレーナ ”を聴いてみてください。

 

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生粋のパリジャンだったプーランクの音楽は、基本的には軽妙洒脱なものが多く、また、うつくしい旋律線をもつものが多いです。

いっぽうで、敬虔な信仰心をもっていたプーランクは、近代の作曲家としては「宗教曲」に傑作が多いのもおおきな特徴。

 

「愛の小径」のような愛らしい音楽を書く一方で、『カルメル会修道女の対話』のような宗教的なオペラも生み出す。

ある批評家が、プーランクは「半分が修道士で、半分が腕白小僧」と評したのは、まさに言い得て妙です。

 

小澤征爾さんで聴くプーランク

 

田園のコンセール

 

小澤征爾さんが、チェンバロの名手トレヴァー・ピノックと共演した「田園のコンセール」を。

このチェンバロ協奏曲では、プーランクの軽妙洒脱な美点があじわえます。

 

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48:ドミトリー・ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich, 1906-1975)

 

 

屈折の天才

 

激動の20世紀、ソビエト時代を生きたドミトリー・ショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich, 1906-1975)の音楽は、現在のロシアを見るにつけ、語るところの多い音楽です。

 

「音楽は社会主義を賛美するものでなければならない」という政治体制にたえず干渉されながらも、自らの音楽を屈折のなかに描きつづけた作曲家でした。

マーラー以降最大の「交響曲」作家であり、偉大な「弦楽四重奏曲」群も書きあげました。

 

いっぽうで、彼の芸術の幅広さを教えられるのが、親しみやすいポピュラー風、ジャズ風の小品の数々。

ショスタコーヴィチというと深刻で重苦しい音楽ばかりだ、という先入観のあるひとは、「ステージオーケストラのための組曲」を聴いてみてください。

きっと、びっくりするはずです。

 

♪ステージオーケストラのための組曲(ショスタコーヴィチ)
ドミトリー・キタエンコ(指揮)
フランクフルト放送交響楽団

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小澤征爾さんで聴くショスタコーヴィチ

 

チェロ協奏曲第1番

 

ショスタコーヴィチの作品のなかで、もっとも人気が高いのは「交響曲第5番ニ短調」です。

小澤征爾さんはサイトウ・キネン・オーケストラとこの作品を2006年、ショスタコーヴィチ生誕100年の記念年にレコーディングしています。

 

 

ただ、残念ながら、この音源はまだオンライン配信が始まっていないようです。

そこで、ショスタコーヴィチの盟友でもあったロシアの大チェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Mstislav Rostropovich,1927-2007)と共演した「チェロ協奏曲第1番」をご紹介します。

 

この緊張感あふれる作品は、ロストロポーヴィチに献呈されています。

初演は、ロストロポーヴィチのチェロ、エフゲニー・ムラヴィンスキー(指揮)レニングラード・フィルという錚々たる顔ぶれでした。

 

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49:オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908-1992)

 

 

現代の巨星

 

フランスの作曲家オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen, 1908-1992)は、近年のもっとも重要な大作曲家とみなされています。

敬虔なカトリック信者で、信仰と深く結びついた数多くの作品を生み出しました。

 

小澤征爾さんはメシアンと縁がふかく、彼の代表作である「トゥーランガリラ交響曲」の日本初演をメシアン本人の立ち合いのもとにNHK交響楽団とおこなっています。

さらには、1983年、上演に6時間(!)かかる歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」を世界初演したのも小澤征爾さんでした。

 

メシアンの音楽は、異様に長い曲が多く、また、非常に多彩で、多様な音とリズムが絡み合って難解さを感じさせますが、いっぽうで、明瞭な旋律線をもった、比較的ストレートに耳に届いて来るものもあります。

私は「キリストの昇天」の第3楽章“ トランペットとシンバルによるアレルヤ ”をはじめて聴いたとき、あんまり旋律が明瞭なのでメシアンの作品だとは思いませんでした。

 

♪キリストの昇天~第3楽章(メシアン)
チョン・ミョンフン(指揮)
パリ・バスティーユ管弦楽団

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あるいは、↓でご紹介する「トゥーランガリラ交響曲」の第5楽章も、メシアン入門にうってつけかもしれません。

 

小澤征爾さんで聴くメシアン

 

トゥーランガリラ交響曲

 

小澤征爾さんの録音のなかでも、とりわけ名高い「トゥーランガリラ交響曲」の録音をご紹介します。

若き日にトロント交響楽団とレコーディングしたものです。

 

「トゥーランガリラ交響曲」は全10楽章、演奏に約80分を要する大作で、メシアンの代表作です。

巨大な作品ですが、躍動的な音楽がストレートにひびく第5楽章“ 星たちの血の喜悦 ”だけでも聴いてみてください。

メシアン自身、「単独で演奏するならこの楽章を」と述べています。

 

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50:武満徹(たけみつ・とおる1930-1996)

 

 

世界のタケミツ

 

「武満徹なんて、あんまりむずかしい作品ばっかりで、名前を聞くのも嫌だったのに。ある歌を聴いて考えが変わっちゃった。何ていう歌だったかしら…」

「あ、わかります。“ 小さな空 ”じゃないですか?」

「そうそう!」

「僕もそうでした!」

これは、先日、友人知人たちと食事をしたときに、武満徹さんの話題になったときの会話。

その場にいた全員が、みんな武満徹さんの「小さなそら」に感動した経験があり、おおいに盛り上がりました。

 

武満徹(1930-1996)さんは、日本を代表する現代音楽の作曲家。

国内より、海外で有名という方でした。

ストラヴィンスキーが日本をおとずれた際、いろいろな日本の現代曲を聴いたなかで評価した作品のひとつが、まだ無名だった武満徹さんの「弦楽のためのレクイエム」だったそうです。

英雄は英雄を知る、ということでしょう。

 

武満徹さんの作品は、基本的にはやはり難解です。

ただ、やはり、それだけでもありません。

武満アレルギーの方は、まずは、最初にご紹介した「小さなそら」を聴いてみてください。

 

♪小さなそら(武満徹)
岩城宏之(指揮)
東京混声合唱団

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小澤征爾さんで聴く武満徹

 

バーンスタインが涙した音楽

 

ニューヨークフィル創立125周年の委嘱作品だった、武満徹さんの代表作「ノヴェンバー・ステップス」をご紹介。

琵琶、尺八とオーケストラのための作品で、1967年、小澤征爾さんが指揮するニューヨーク・フィルによって初演されました。

 

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初演を聴いたレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein、1918-1990)は「力強い、生命の音楽!」と涙をながしたそうです。

 

私は、中学校の音楽の教科書でこの作品の存在を知って、でも、正直なところ、今もよくわからないままです。

実演で接したことがないのも大きいのかもしれません。

バーンスタインに涙させるくらいの何かが、きっと、ここにあるわけで、聴くたびに、いつかそれを自分も感じとれるようになれたらと思っている作品です。

 

 

➡「小澤征爾さんで知る50人の作曲家」シリーズ一覧はこちらのページで確認できます。

 

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