シリーズ〈クラシック音楽の音楽処方箋〉

【クラシック音楽の音楽処方箋】疲れた一日のおわりに聴きたい名曲4選

 

音楽の処方箋シリーズ、今回は「疲れた一日のおわりに聴きたい」音楽の特集です。

このブログらしく、曲目だけでなく、演奏者にまでこだわってご紹介していきます。

バッハ(マイラ・ヘス編曲):『主よ、人の望みの喜びよ』

バッハのカンタータ『心と口と行いと生活で』の終曲にある音楽をピアノ用に編曲したものです。

上のYouTubeの動画は、そのピアノ編曲版をルーマニアの天才ピアニスト、ディヌ・リパッティが演奏しているものです。ほんとうに清らかな、澄み切った音楽を聴くことができます。

若くして病いにおそわれたリパッティは人生最後の演奏会(「ブザンソン告別演奏会」として有名)でも、その最後のアンコールにこれを弾いています。

当日は体力の限界で予定したプログラムのなかの1曲、ショパンのワルツを断念していますが、しばしの休憩のあと、このバッハの名曲を弾いたそうです。

その演奏会は録音されて今も市販されていますが、残念なことに、アンコールのバッハだけは録音が残っていないんだそうです。本当に残念です。

このピアノ版への有名な編曲をしたのは、イギリスの女性ピアニスト、マイラ・ヘス(1890-1965)。音楽家として傑出していたうえに、戦時中も活発に演奏活動を展開、人々に音楽を届け続け、その功績から「デイム」の称号を与えられています。

マイラ・ヘス本人が演奏しているものがあったので、そちらを以下にリンクしました。
( AppleMusic ・ Amazon Music・Spotifyは↓・LineMusic )

さすがの名演奏でこちらも脱帽です。彼女の演奏姿を以前にドキュメンタリー映画で観たことがありますが、その凛とした姿、どこか躍動的な弾きぶりはこのピアニストの風格をはっきりと印象づけられるものでした。

とっても大きな音楽をつくる、広く包み込むような音楽家だと感じました。あの演奏姿をみてから、いっそう尊敬している大好きなピアニストです。まさにピアノの大家。

グリーグ:≪抒情小曲集≫から“ アリエッタ ”

ノルウェーの作曲家エドアルド・グリーグ(1843-1907)が作曲したピアノのための小品集、≪抒情小曲集≫。

35年ほどに渡ってずっと書き続けた、いわばグリーグのライフワークとなった作品集で第10集まであります。全部で66曲。

その第1曲ということになっているのが“アリエッタ”。

アリエッタというのは、小さなアリアという意味で、実際1分半ほどの短い歌のような音楽になっています。こういう繊細な、さわったらわれてしまいそうな儚さをもつ小さな音楽こそ、グリーグのもっとも得意とするところです。

抒情小曲集の第1曲にあたる、この“アリエッタ”が書かれてから34年ほどして、これをワルツにした“余韻”という曲が書かれます。そして、それがこの彼のライフワークともいえる≪抒情小曲集≫の最後の1曲となっています。

始まりに終わりがあって、終わりに始まりがある音楽。

選んだ演奏はソ連のピアニスト、エミール・ギレリスのもの。
(AppleMusic↑・Amazon Music ・ Spotify ・ LineMusic)このアルバムにはおしまいに“ 余韻 ”も録音されています。

「鋼鉄のタッチ」と言われたくらい、凄まじいピアニズムを誇った人ですが、実際にはとても内向的な性格だったようで、年齢をかさねるにつれて繊細な持ち味が前面に出てくるようになりました。この抒情小曲集も繊細さの極みの演奏を聴かせています。

彼はベートーヴェン弾きとしても有名で、彼が録音した≪月光≫や≪熱情≫を中学生のころは毎日聴いていました。美しさと強さが共存したすばらしい演奏です。といっても、中学生のころの自分は、なによりも≪熱情≫の圧倒的なコーダ、ギレリスの響かせるものすごいフォルテにしびれていました。

私がクラシックを聴きはじめたころにはすでに他界してしまっていたピアニストなので、一度でいいから生演奏を聴いてみたかったといつも思います。

フォーレ:組曲『ドリー』から“子守り歌”

これはずっと昔NHKのクラシック番組でテーマ音楽になっていて、しばらく題名も知らずに親しんでいましたが、題名も何も知らなくても大好きになってしまう、ほんとうにやさしさにあふれた音楽。

フランスの作曲家フォーレがこどものために作った曲集。知人のおさない娘さんに捧げられて、その子の愛称がドリーだったために曲名もそうなっています。

ちなみに、ドリーのお母さんは後に作曲家ドビュッシーと再婚したことで有名。そして、そのドビュッシーとのあいだにはまた別の女の子が生まれていて、今度はドビュッシーがその子のために≪子どもの領分≫という曲集を書いています。

このお母さんには、何か並はずれたものを感じます。

演奏はアンソニー・ゴールドストーンとキャロライン・クレモウの連弾を。とてもみずみずしい音で、このやさしい音楽を聴かせてくれます。

これは「ピアノ・デュエットのためのロリポップ」と題されたアルバムに収められていて、このアルバムでは他にも小品がいくつも収録されていて楽しいアルバムです。このアルバムの10曲目に“子守歌”が入っています。
( AppleMusic↑・Amazon Music ・ Spotify )

YouTubeの動画はちょっと変わったギターによる二重奏のものをリンクしておきます。楽器がかわるだけで、南国の感じがしてくるのがおもしろいところです。

ドビュッシー:『小組曲』から“小舟にて”

『小組曲』は、ドビュッシーが27歳くらいのときに書いたピアノ4手のための組曲。

1.小舟にて 2.行列 3.メヌエット 4.バレエ の全4曲で、すべて聴いても10分ちょっとの愛らしい曲集です。

あとにビュッセルという人の手でオーケストラ版の編曲も行われましたが、今回は原曲のピアノ連弾をご紹介します。

どれも爽やかさに満ちた、それでいて少し憂いもおびていて、何度聴いても心にしみる小品集です。とりわけ第1曲の「小舟にて」は単独でも演奏される有名な作品。

この「小舟にて」はずっと昔、大学オーケストラでフルートを吹いていた友人が、演奏会でこの曲のフルートをやるから聴きに来てと誘われるままに聴きに行ったんですが、いまだにそのときの音の美しさが忘れられないです。

別に彼はプロになったわけでもない普通の音楽好きの大学生だったんですが、そういう瞬間があるのがアマチュアの音楽の醍醐味というところでしょう。甲子園で、プロの野球選手を超えて魅せてくれる瞬間がたくさんあるのと同じで。友人がああいう演奏をしてくれて、あのときは本当に誇らしかったです。

今はコロナ禍で演奏会もまばらですが、これから先、もしみなさんが知り合いや親類のだれかに演奏会に誘われたら、どうせ素人の演奏だからと億劫がらずに聴きに行くことをおすすめします。アマチュアでも、そういった一生の宝物になるような瞬間をつくりだすっていうことが現実に起きますから。

ご紹介するのはフランスの名ピアニスト、ロベール・カサドシュが奥さんのギャビー・カサドシュと連弾した有名な録音。

私はこの録音が好きで、いつでも手にとれるようにCDを枕元にずっと置いています。
( AppleMusic↑・Amazon Music ・ Spotify ・ LineMusic )

カサドシュは音楽一族のうまれで、カサドシュのお父さんには兄弟がたくさんいて(たしか10人兄弟)、それがみんな音楽家だったという音楽一族です。そのなかでたった一人、音楽家をえらばずに演劇の仕事をしていたのがカサドシュのお父さんだったそうです。ところが、その一人だけ音楽畑を離れたところから、大ピアニストが生まれてきたというのがなんとも面白い話。

カサドシュはとりわけフランス音楽の巨匠として名高い人ですが、私は彼の弾いたベートーヴェンも大好きです。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番≪皇帝≫やピアノ・ソナタでも、品のいい、清潔感のある音楽を引き出していて耳を奪われます。

というわけで、音楽処方箋、今回は疲れた一日のあとに聴きたいクラシック音楽を4曲ご紹介しました。

ぜひ最高の音楽でゆっくりと身体と心をやすめてください。

 

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