シリーズ〈オーケストラ入門〉

ヨーゼフ・シュトラウスの作品を年代順に~路面清掃車も発案した作曲家【オーケストラ入門】

 

「ワルツの父」と称され、現在では“ ラデツキー行進曲 ”で特に有名なのが、ヨハン・シュトラウスⅠ世(1804-1849)

彼の長男で、「ワルツ王」と讃えられ、“ 美しく青きドナウ ”などの作品で有名なのが、ヨハン・シュトラウスⅡ世(1825-1899)

そして、今回テーマにするのは、そのヨハン・シュトラウスⅡ世の2歳下の弟、ヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)です。

 

彼の下の弟、三男のエドゥアルド・シュトラウスⅠ世(1835-1916)も作曲家で、彼らは「シュトラウス・ファミリー」として大活躍しました。

 

路面清掃車も発案した作曲家

ヨーゼフのおもしろい経歴

 

シュトラウス・ファミリーは、舞踏会のダンス音楽の作曲&演奏で、一世を風靡した音楽一家。

長男のヨハン・シュトラウスⅡ世が音楽家の道をひたすら歩んだのと対照的に、ヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)は当初、音楽家ではなく、「エンジニア」の世界をえらびました

生まれつき虚弱体質で、極めて繊細な性格だったというヨーゼフにとって、ダンスホールの華やかな世界は、あまり魅力的ではなかったのかもしれません。

 

驚きなのが、エンジニアとしてのヨーゼフ・シュトラウスは、自動車の側面に回転するブラシをつけて、道路を掃除する「路面清掃車」を発案したひとりでもあるということ。

他にも、たくさんの特許をとるなど、エンジニアとして非常に優秀だったと伝えられています。

 

 

作曲家ヨーゼフ・シュトラウス誕生

 

ワルツ「最初で最後」op1

 

1852年の暮れ、ヨーゼフ・シュトラウス25歳のときに、転機がおとずれます。

大人気だった兄ヨハン・シュトラウスⅡ世が重度の過労のため病に倒れ、母親から、その代役をたのまれてしまいます。

 

音楽家になるつもりはなかったものの、ピアノも達者で、趣味では作曲もしていたヨーゼフ・シュトラウス。

その才能に、お母さんは賭けたわけです。

本人は強く反対したものの、お母さんのねばり強い説得に折れ、半年ほどの訓練を経てから、翌1853年の7月に、兄の代役として指揮者デビューを果たします。

 

やがて、代役は指揮にとどまらず、兄が受けていた「作曲」の依頼も、代わりに行うことになってしまいます。

そして、1853年8月29日に、ヨーゼフ・シュトラウス(当時26歳)の記念すべき“ 作品1 ”となるワルツが初演されました。

 

それが、ワルツ「最初で最後 Die Ersten und Letzten 」op1です。

「もうこれでおしまい!」と言わんばかりの、なかなかユーモラスな題名になっていますが、生来、病弱だったというヨーゼフ・シュトラウスにとっては、ほんとうに最初で最後にしたい気持ちだったのかもしれません。

 

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ワルツ「最後のあとの最初」op12

 

ヨーゼフ・シュトラウスの気持ちとはうらはらに、ワルツ「最初で最後」は大喝采を浴びてしまいます。

6回もアンコールされ、翌日の新聞では、称賛の嵐で讃えられてしまいます。

 

とはいえ、まもなく、兄のヨハン・シュトラウスⅡ世が復帰。

ヨーゼフ・シュトラウスは、無事、代役の重責から解放されました。

 

ところが、それから1年もしないうちに、再び、兄ヨハン・シュトラウスⅡ世が体調を崩します。

そして、ふたたび代役を打診されてしまったヨーゼフ・シュトラウス。

迷いつつも代役をつとめているうちに、いよいよ、音楽家に転身する決心を固めたようです。

 

その決意表明のような作品が残っています。

それが、1854年7月(ヨーゼフ26歳)に初演された、ワルツ「最後のあとの最初 Die Ersten nach den Letzten 」op12です。

作品1で「最初で最後」と言ってしまったので、それをユーモアたっぷりにもじって、新作に「最後のあとの最初」と名づけることで、新しいスタートを切ったようです。

 

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ヨーゼフ・シュトラウスの作品を年代順に

 

ヨーゼフ・シュトラウスの名作たち

 

ここからは、ヨーゼフ・シュトラウスの数多い作品のなかから、とくに聴いていただきたい作品を、年代順にご紹介していきます。

また、それぞれの楽曲の私のお気に入りの音源も、あわせてご紹介していきます。

 

オンライン配信の音源の聴き方については、「クラシック音楽をオンライン(サブスク定額制)で楽しむ~音楽好きが実際に使ってみました~」という記事にまとめています。

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ワルツ「愛の真珠 Perlen der Liebe 」op39

 

1857年6月(ヨーゼフ30歳)、幼なじみだったカロリーネと結婚した際に、彼女に贈られたワルツ

“ コンサート・ワルツ ”と題されていて、舞踏会場での実用音楽ではなく、コンサートホールで聴いてもらうためのワルツです。

 

「私の人生は、4分の3拍子にとどまらない」と言っていたヨーゼフ・シュトラウスは、その言葉どおり、兄のヨハン・シュトラウスⅡ世より先に、こうした、踊るためではない、“ 聴くための ”ワルツを作曲していました。

この進歩的な作品は、ヨーゼフの期待を裏切り、評判はよくありませんでしたし、現在もあまり演奏されません。

けれども、冒頭から漂うノスタルジックな表情の音楽は、後年の数々の傑作を予感させます。

もう少し演奏されてもいいのでは、と思う作品。

 

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名門ウィーン・フィルの伝説的コンサートマスターで、ヴァイオリンを片手にニューイヤーコンサートでも大活躍したウィリー・ボスコフスキー(1909-1991)指揮ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団の演奏でどうぞ。

 

 

ポルカ・フランセーズ「小さな水車(風車) Moulinet 」op57

 

1857年7月(ヨーゼフ30歳)の作品。

ポルカ・フランセーズというのは「フランス風ポルカ」という意味で、ゆったりとした2拍子のダンス音楽。

現在もよく演奏されるヨーゼフ作品としては、最初期の作品です。

日本語訳がいろいろあって、「風車」「水車」などなど、いろいろな題名で広がっています。

 

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NHK交響楽団の名誉指揮者としても親しまれた、オーストリア出身のオトマール・スウィトナー(1922-2010)指揮ドレスデン国立歌劇場管弦楽団の演奏でどうぞ。

 

 

ワルツ「オーストリアの村つばめ Dorfschwalben aus Österreich 」op164

 

1864年9月(ヨーゼフ37歳)の作品。

ヨーゼフの友人だったアウグスト・ジルバーシュタイン(1827-1900)のベストセラー小説「オーストリアの村つばめ」を題材としたワルツ。

この小説は、田舎暮らしを愛した作家ジルバーシュタインが、アルプスの自然を舞台に、純朴な恋愛を描いたもの

ヨーゼフ・シュトラウスにとっても、この作品は代表作のひとつになりました。

 

ジルバーシュタインは、このヨーゼフ・シュトラウス作品以外にもクラシック音楽の大作曲家たちにインスピレーションを与えていて、ブルックナー最晩年の世俗カンタータ「ヘルゴラント」もジルバーシュタインの詩によるものです。

 

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天才指揮者カルロス・クライバー(1930-2004)が指揮したウィーン・フィルのニューイヤーコンサート、1992年のライヴ録音でどうぞ。

 

 

ポルカ・マズルカ「女心 Frauenherz 」op166

 

上でご紹介したワルツ「オーストリアの村つばめ」と同時に初演された、1864年9月(ヨーゼフ37歳)の作品。

小説中のヒロインの心情をテーマにしているのではないかと推測されている作品ですが、奥さんのカロリーネに捧げたのではとも言われていて、題名の由来は諸説あります。

 

「オーストリアの村つばめ」と同様に、ヨーゼフ・シュトラウスの存命中から特に人気が高かった作品で、ヨーゼフが亡くなったときには、「オーストリアの村つばめ」とこの「女心」の2曲が、兄ヨハン・シュトラウスⅡ世の指揮で追悼演奏されました

 

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イタリアの名指揮者リッカルド・ムーティが、1997年に、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを指揮したときのライヴ録音でどうぞ。

 

 

ワルツ「ディナミーデン Dynamiden 」op173

 

Geheime Anziehungskräfte (秘められた引力) という副題を持つ、1865年1月(ヨーゼフ37歳)の作品。

「ディナミーデン」という言葉は、ドイツの機械工学の祖とされるレッテンバッハー(1809-1863)が、引力のようなものを指すために作った造語。

ベートーヴェン、シューベルト、さらには、ベルリオーズやシューマンといった作曲家の作品にまで、その関心と研究をひろげていたヨーゼフ・シュトラウスらしい、非常に繊細な表情をもった傑作です。

 

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これもやはり、イタリアの名指揮者リッカルド・ムーティが1997年のウィーン・フィル・ニューイヤーコンサートを指揮したときのライヴ録音でどうぞ。

これはムーティの数ある録音のなかでも、特に素晴らしい演奏のひとつです。

 

20世紀になって、R・シュトラウス(同じシュトラウス姓ですが親族ではありません)が、彼の楽劇「ばらの騎士」で、この「ディナミーデン」そっくりな旋律を登場させています

「引用した」とはR・シュトラウス本人は特に言及していないようですが、一目瞭然というか、ほんとうにそっくりなので、言うまでもないということでしょう。

オペラのなかでは登場人物のオックス男爵に歌わせ、また、オーケストラ用の「ばらの騎士」のワルツとしても編曲され、いずれも音楽史に輝く名曲になっています。

 

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第2幕のおしまい、リンクの2分20秒あたりから聴こえる旋律がそうです。

 

 

ワルツ「トランスアクツィオン Transaktionen 」op184

 

1865年8月(ヨーゼフ38歳)の作品。

「ディナミーデン」と同じ年の作品で、彼が円熟期の真っ只中にあることがわかります

「ディナミーデン」のあと、ヨーゼフは作曲中に突然意識を失って療養生活に入りますが、そこから復帰しての作品です。

 

もともとは法律学校の生徒のために書かれ、「民事訴訟 Aktionen 」という題名を持っていましたが、あとに改題されて「商取引 Transaktionen 」となりました。

実際には、商取引にみたてて、「男女の恋の駆け引き」をさしています。

物憂げで、きわめてロマンティックな、ヨーゼフ・シュトラウスならではの音楽世界になっています。

 

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ほんとうはリッカルド・ムーティが1993年にニューイヤーコンサートを指揮したときのライヴ録音をあげたかったのですが、どういうわけか、この音源はまだ配信されていないようです。

ですので、ここは、安定のコンビ、ウィリー・ボスコフスキー指揮ウィーン・フィルの演奏で。

こちらも素晴らしい演奏です。

 

 

ポルカ・マズルカ「とんぼ Die Libelle 」op204

 

1866年10月(ヨーゼフ39歳)の作品。

奥さんのカロリーネと、オーストリアにあるトラウンシュタイン山へハイキングに出かけたとき、土手で見かけた「とんぼ」にインスピレーションを得て作曲したという作品。

実に写実的に、とんぼの飛ぶ姿を音に置き換えた、見事な作品になっています。

初演は大成功で、現在でも、ポルカ・マズルカの傑作として名高い作品です。

 

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天才指揮者カルロス・クライバーウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに初登場した、1989年のライヴ録音でどうぞ。

これはできれば映像で見てほしいもので、クライバーの指揮ぶりそのものが、とんぼの動きを連想させて、いっそう曲のことが理解できます。

 

 

ワルツ「うわごと Delirien 」op212

 

1867年1月(ヨーゼフ39歳)の作品。

題名の「うわごと」は、作曲を依頼した医学舞踏会側からの指定。

一瞬、これからワルツが始まるとは思えないような序奏部が、その難しい表題への回答となっているように思えます。

これを聴いた兄ヨハン・シュトラウスⅡ世が「ヨーゼフには才能がある。私は人気だけだ」ともらしたという、有名なエピソードが残っています。

 

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楽壇の帝王といわれたヘルベルト・フォン・カラヤン(1908-1989)が最晩年、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートに登場した、1987年のライヴ録音でどうぞ。

 

 

ワルツ「天体の音楽 Sphärenklänge 」op235

 

1868年1月(ヨーゼフ40歳)のときの作品。

作品番号が200番台に入っていることからもわかる通り、この頃、ヨーゼフは猛烈に仕事をこなしていました。

兄ヨハン・シュトラウスⅡ世の人気ぶりへのライバル心があったと考えられていて、ほかの兄弟が年に5曲前後のペースで新作を書いていたのに対し、ヨーゼフは20曲前後の作品をあたらしく書いていました。

 

この曲は、ウィーン大学の医学生らが主催する「医学舞踏会」が、当時流行していたピタゴラスの「天球の音楽(天体の運行は人間には聞こえない音を発していて、宇宙全体が1つの大きなハーモニーを奏でている)」という思想をテーマに舞踏会を開くことになり、その音楽がヨーゼフに依頼されたことにより生まれました。

初演は大成功。

現在では、ヨーゼフ・シュトラウスの傑作として、まず第一に挙げられるほどの代表作となっています。

 

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上とおなじく、帝王ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮のウィーン・フィルのニューイヤーコンサート、1987年のライヴ録音でどうぞ。

 

 

ワルツ「水彩画 Aquarellen 」op258

 

「天体の音楽」を発表後も猛烈な仕事はつづき、やがて、ヨーゼフは再び過労で倒れます。

そこから再び復帰したヨーゼフが、1869年の2月(ヨーゼフ41歳)に発表したのが、このワルツ「水彩画」。

 

これは、絵画の腕も優れていたというヨーゼフ・シュトラウスが、水彩画のような“ やわらかさ ”を音で描いたとされる作品

ヨーゼフ・シュトラウス全盛期の代表作のひとつになっています。

 

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ちょっと珍しい、ハンガリー出身の名指揮者アンタル・ドラティ(1906-1988)指揮するミネアポリス交響楽団の演奏でどうぞ。

 

 

ワルツ「我が人生は愛と喜び Mein Lebenslauf ist Lieb’ und Lust 」op263

 

上で紹介したワルツ「水彩画」の発表からわずか6日後に初演された、1869年の2月(ヨーゼフ41歳)の作品。

ウィーン大学の学生が主催する「学生舞踏会」のために書かれました。

そのために、序奏とコーダに、当時の学生歌が引用されているそうで、コーダで引用された学生歌「酒の歌」のなかの歌詞“ 我が人生は愛と喜び ”が曲の題名として選ばれました。

一時すっかり忘れられた作品でしたが、現在では、ヨーゼフ・シュトラウスの代表作としてよく演奏されます。

 

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ハンガリー出身のストイックな巨匠フリッツ・ライナー(1888-1963)シカゴ交響楽団とレコーディングした名演奏でどうぞ。

 

 

ポルカ・フランセーズ「鍛冶屋のポルカ Feuerfest! 」op269

 

ワルツ「我が人生は愛と喜び」からほぼ1か月後の、1869年3月(ヨーゼフ41歳)の作品。

原題の“ Feuerfest! ”は、「耐火性抜群!」という意味

ある金庫メーカーが「耐火金庫」の売れ行き好調を記念して開いた舞踏会のために作曲された作品。

当時の金庫は鍛冶職人がつくっていたので、演奏では、金床(かなとこ)が打楽器として登場する、おもしろい作品に仕上がっています。

 

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名物指揮者ロリン・マゼール(1930-2014)が、1994年にウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを指揮したライヴ録音でどうぞ。

 

 

ポルカ・シュネル「憂いもなく Ohne Sorgen! 」op271
+「ピチカート・ポルカ Pizzicato Polka

 

1869年9月(ヨーゼフ42歳)の作品。

この年の夏、ヨーゼフ・シュトラウスは、兄ヨハン・シュトラウスⅡ世と一緒に、ロシアのパヴロフスクへ赴きます。

兄ヨハン・シュトラウスⅡ世は、ロシアでの仕事をそのまま弟のヨーゼフ・シュトラウスに譲りたい心づもりでしたが、元来病弱なヨーゼフ・シュトラウス自身は、非常に体調が優れず、それどころではなかったようです。

 

そうした、健康を害していた時期に書かれたのが「憂いもなく」という、元気なポルカ。

自分を勇気づけようとしたのか、それとも、気を紛らわせようとしたのか。

演奏中に、楽団員が「アッハッハ!」と笑い声を出す、ユニークな名作となっています。

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上と同じアルバムから。

鉄琴をたたいているのは指揮者のマゼール自身で、それをウィーン・フィルの連中が「ワッハッハ」と笑うという、ユーモア溢れる演出がおこなわれた年でした。

 

 

また、この「憂いもなく」が書かれたロシア楽旅の際には、兄ヨハン・シュトラウスⅡ世との合作で、「ピチカート・ポルカ」という傑作も生まれています。

「憂いもなく」のすこし前、1869年6月(ヨーゼフ41歳)の作品。

作曲の経緯はよくわかっていませんが、兄弟で連弾しているうちにできたとか、諸説あります。

題名のとおり、中間部に鉄琴が使われるほかは、弦楽器のピチカート(指で弦を弾く奏法)のみで演奏されます。

 

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カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルのニューイヤーコンサート、1989年のライヴ録音でどうぞ。

 

ポルカ・シュネル「騎手 Jockey-Polka 」op278

 

1870年2月(ヨーゼフ42歳)の作品。

ヨーゼフ・シュトラウスは1870年の7月22日に亡くなるので、死の半年前ほどの作品。

競馬が大好きだったというヨーゼフ・シュトラウスの代表作のひとつで、鞭の音をあらわす打楽器が登場します。

 

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この年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでは、指揮者のマゼールが鉄琴、さらには、鞭の音を出す大きな木の板を指揮台上でたたくという演出があって、盛り上がりました。

 

 

ワルツ「宵の明星の軌道 Hesperus-Bahnen 」op279

 

1870年4月(ヨーゼフ42歳)の作品。

ヨーゼフ・シュトラウスが生前、最後に発表した新作となってしまった作品。

 

この作品のあと、兄への強すぎるライバル心のせいか、ヨーゼフ・シュトラウスは周囲の反対も聞かず、諸条件の悪いポーランドのワルシャワでの仕事を受けてしまい、ワルシャワへ向かいます。

ワルシャワへ行ってみると、実際、周囲が反対したとおりの散々な有様で、ヨーゼフ・シュトラウスは、過労と心労のため、コンサートの指揮中に意識を失ってしまいます。

脳卒中だったのではないかと推測されています。

 

やがて、ヨーゼフ・シュトラウスは、迎えにきた妻カロリーネによってウィーンへ連れ戻されますが、その年のうち、1870年の7月22日、シュトラウス一家の自宅で、42歳の若さで亡くなりました。

 

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こちらは、あまり演奏される機会がない作品で、シュトラウス・ファミリーの作品がたくさん演奏されるウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでも、2013年になって、ようやく初めて演奏されました。

指揮は、2023年も登場のウェルザー・メスト

ヨーゼフ・シュトラウス賛

 

ヨハン・シュトラウスⅡ世とくらべて、ヨーゼフ・シュトラウスの作品は、メランコリックで、繊細な表情を持つところに強い特徴があります

同時代のワーグナーらの進歩的な音楽にも強く惹かれていたヨーゼフ・シュトラウスには、ワルツやポルカなどの形式に収まりきらない表現意欲がありました。

ダンスホールで演奏するので、実際に躍るという「実用性」が求められるわけですが、「コンサートホールで聴く」ことを前提としている、演奏会用ワルツの規模にまで拡大された作品が、ヨハン・シュトラウスⅡ世よりも先に書かれているのも、そうした欲求の表れでしょう。

 

ここに見た通り、26歳で不本意ながら音楽家になって、42歳でわかくして亡くなったので、活動期間はわずかに16年ほど

その限られた時間のなかで、これだけ多くの傑作が残されたことを考えると、驚くべき時間の濃さです。

 

私は、「ディナミーデン」、「トランスアクツィオン」、「天体の音楽」の3曲がとりわけ好きで、ニューイヤーコンサートの時期に関わらず、よく聴きたくなります。

ほかの作曲家には代えがたい魅力がある作曲家です。

 

というわけで、私の大好きな作曲家ヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)の特集でした!

大好きな3曲を紹介するつもりで書きはじめたんですが、結局、とても長い記事になってしまいました。

 

ヨーゼフ・シュトラウスの作品ばかりがまとめられたCDとしては、ウィリー・ボスコフスキーの演奏をあつめた「ヨーゼフ・シュトラウス ワルツ集(Amazon)」がお薦めです。

こちら、2000年代に入って再販もされましたが、音質は1993年の初出時のものがいちばん良いです。

 

 

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