シリーズ〈小澤征爾さんで音楽史〉

小澤征爾さんで出会う大作曲家50人(第2回)ベートーヴェンからベルリオーズ

※当サイトはアフィリエイトを利用しています

 

日本のクラシック音楽をけん引した「世界のオザワ」こと、指揮者の小澤征爾(おざわ・せいじ、1935-2024)さん。

このシリーズでは、小澤征爾さんの録音で50人の作曲家にふれながら、クラシック音楽の歴史を旅します。

 

この機会に「クラシック音楽を聴いてみよう」という方向け、クラシック入門シリーズです。

シリーズ一覧はこちらのページで確認できます。

6:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770-1827)

 

“ 楽聖 ”ベートーヴェン

 

クラシック音楽の代名詞のような大作曲家といえば、ドイツに生まれたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770-1827)

ハイドン、モーツァルトに連なる「古典派」の大家です。

 

彼が耳の病いに苦しんだことは有名ですが、それが20代後半という、かなり若いころからだったのは意外と知られていません。

現在わたしたちが聴いている作品のほとんどは、彼が耳を病んだ後に書かれた作品です。

 

鉄の意思をもつイメージのベートーヴェンですが、一時は自殺も考え、実際、「ハイリゲンシュタットの遺書」とよばれる文章が残っています。

けれども、彼は芸術に生きることを決意。

結果、私たちが知るような孤高の芸術を打ち立てました。

 

彼の登場以降、音楽は「作曲家個人」の人生や心情と、密接にむすびついた芸術へと変わっていきます。

私たちは、ベートーヴェンの音楽を、ベートーヴェンの人生を無視して聴くことはほとんど不可能です。

 

その点で、ベートーヴェンは「古典派」の大家であると同時に、そのあとにつづく「ロマン派」への道も切りひらきました。

 

小澤征爾さんで聴くベートーヴェン

 

交響曲第5番ハ短調「運命」

 

「運命」というのはベートーヴェン自身の命名ではなく、ニックネームです。

「運命はこう扉をたたく」とベートーヴェン先生が言った、と弟子のひとりが伝えたエピソードによったものです。

 

小澤征爾さんは、この作品を4回くらい録音しています。

今回はその最初のもの、1968年、まだ駆け出しの32歳の小澤征爾さんが、アメリカの名門シカゴ交響楽団を振った録音でご紹介します。

なんと、たった1日のセッションで完了させた「運命」です。

全米最強といわれたシカゴ交響楽団の凄さも感じられる録音。

 

♪ベートーヴェン:
交響曲第5番ハ短調「運命」~第1楽章

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

7:フランツ・シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797-1828)

 

“ 歌曲の王 ”

 

ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770-1827)に深く心酔し、奇しくもベートーヴェンが亡くなった翌年に自身も亡くなってしまったのが、フランツ・シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797-1828)です。

 

彼は、およそ600曲という膨大な歌曲を生み出したことで“ 歌曲の王 ”と呼ばれています。

中学生時代、学校で習う「魔王」に夢中になったひとも多いはず。

 

31年の生涯でしたが、歌曲以外の作品もあわせると、およそ1000曲もの作品を書いたとされています。

 

変化した作曲家像

 

シューベルトは、ここ数十年で、その作曲家像がいちばん大きく変貌した作曲家のひとりです。

以前は、家庭的な音楽、小ぶりな音楽をたくさん書いた作曲家というイメージでしたが、現在は、もっとずっと複雑な作曲家として捉えなおされています。

 

特に体調を崩しはじめてからの晩年期の作品には、人生の深淵をのぞきこむような瞬間があり、私たち現代の聴き手に強く訴えかけるものがあります。

 

ベートーヴェンの葬儀に参列したあと、友人たちと立ち寄った酒場で、「このなかで、いちばん早く死ぬ者に乾杯!」と、シューベルトは献杯の音頭をとったそうです。

友人たちは不吉な予感をおぼえ、実際、彼はその翌年に亡くなってしまいました。

このエピソードが物語るように、シューベルトの作品のいくつかには、破滅的な響きが潜んでいます。

 

シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797-1828)の人生は、ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven、1770-1827)の後半生とほとんど重なってしまうわけですが、それでも、シューベルト以降を「ロマン派」の作曲家とするのは、音楽の語るものが変わってきていることを示しています。

 

小澤征爾さんで聴くシューベルト

 

未完成

 

交響曲第7(8)番「未完成」は、シューベルトのオーケストラ曲でいちばん有名な作品でしょう。

書いている途中で死んでしまったと勘違いされがちですが、そういうわけではありません。

理由はわかっていませんが、途中でやめてしまっただけです。

 

この作品にも、シューベルトの破滅的な側面が表れているように感じます。

 

ベートーヴェンの「運命」のところでもご紹介した、32歳の小澤征爾さんがシカゴ交響楽団と1日のセッションで仕上げた録音からどうぞ。

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

(2)交響曲第8番「グレイト」

 

シューベルトは、「未完成」の後も傑作の交響曲を書きあげています。

それが交響曲第8(9)番ハ長調「ザ・グレイト」です。

 

 

この作品は、作曲はされたものの演奏されず、シューベルトの死後10年以上たって、シューマンが偶然に楽譜を発見、メンデルスゾーンの指揮で初演されたという、すごいエピソードをもっています。

 

小澤征爾さんは、サイトウ・キネン・フェスティバル松本が5周年をむかえた1996年、サイトウ・キネン・オーケストラと録音しています。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

8:フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(Felix Mendelssohn Bartholdy1809-1847)

 

早熟の天才

 

「結婚行進曲」で有名なフェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(Felix Mendelssohn Bartholdy1809-1847)も、ロマン派を代表する作曲家のひとり。

祖父が有名な哲学者、父親は銀行家という、とても恵まれた環境で育ちました。

 

メンデルスゾーンはいわゆる早熟の天才。

10代はじめには、文豪ゲーテが絶賛するほどの神童になっていました。

 

現在も世界中で演奏される「弦楽八重奏曲」や「真夏の夜の夢」序曲は、16歳のころの作品。

バッハの「マタイ受難曲」を復活初演し、忘れ去られていたバッハの再評価を世に問うたのも、若干20歳のときでした。

 

音の一流画家

 

メンデルスゾーンの作品は、旋律線が優美で、親しみやすい傑作が多いです。

また、細かな音符がたわむれる、妖精を描写するような音楽も得意でした。

そうしたものは「真夏の夜の夢」や「弦楽八重奏曲」の“ スケルツォ ”で聴くことができます。

 

さらに、絵画の腕前も一流だったメンデルスゾーン。

音楽においても「フィンガルの洞窟」、交響曲第4番「イタリア」、交響曲第3番「スコットランド」といった、聴き手に情景を思い起こさせるような傑作が多いのも特徴です。

 

 

再評価の途中

 

メンデルスゾーンは、さまざまなジャンルに多くの傑作を残している大作曲家ですが、やや小さな作曲家のような扱いを受けることがあります。

これは、彼がユダヤ人であり、とりわけ、ナチス・ドイツの時代に演奏が禁止されるなどの歴史を経験したためです。

これほどの大作曲家であるのに、数十年前まで、限られた作品の楽譜しか出版されていない状況でした。

メンデルスゾーンは、現在も、その再評価が進んでいる途中の大作曲家です。

 

小澤征爾さんで聴くメンデルスゾーン

 

ヴァイオリン協奏曲 ホ短調

 

冒頭の旋律は、だれもがどこかで耳にしたことのあるメロディーのはずです。

この「ヴァイオリン協奏曲 ホ短調」は、メンデルスゾーンの旋律の美しさがはっきりとわかる1曲。

 

ウクライナ出身の大ヴァイオリニスト、アイザック・スターン(Isaac Stern、1920-2001)が、小澤征爾さん&ボストン交響楽団と共演した録音でどうぞ。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

結婚行進曲~「真夏の夜の夢」

 

メンデルスゾーンの作品のなかで、もっとも知られているのは、やはりこの「結婚行進曲」でしょう。

シェイクスピアの戯曲「真夏の夜の夢」につけられた劇付随音楽のなかの1曲。

➡【オーケストラ入門】メンデルスゾーン:劇音楽『真夏の夜の夢』~小さな試聴室

 

「真夏の夜の夢」は、メンデルスゾーンの美点が凝縮されたような傑作で、妖精が舞うような“ スケルツォ ”、ロマン派の真骨頂のような“ 夜想曲 ”など、聴きどころ満載の作品です。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

この作品は、劇付随音楽なので「語り」がつけられることが多いです。

小澤征爾さんの日本版CDは、吉永小百合さんのナレーションがつく豪華版になっています。

 

 

9:ロベルト・シューマン(Robert Schumann、1810-1856)

 

知れば知るほど存在が大きくなる作曲家

 

ドイツ・ロマン派の大きな柱であるロベルト・シューマン(Robert Schumann、1810-1856)の作品というと、「トロイメライ」という小さなピアノ曲がいちばん有名かもしれません。

でも、実は、クラシック音楽に詳しくなればなるほど、その存在感がどんどん大きくなっていくのが、このシューマンという作曲家です。

 

リズムや和声の大胆な工夫、文学的詩情をたたえた音楽は、ブラームスを中心に、非常に大きな影響を音楽史に与えました。

ロシアの大作曲家チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky, 1840-1893)は、「19世紀後半は“ シューマンの時代 ”と呼ばれるようになるだろう」とまで称賛しています。

 

審美眼のたしかさ

 

シューマンは、大作曲家のなかでも、まれにみるほどの審美眼の持ち主でした。

 

ショパンのことを「諸君、脱帽したまえ。ここに天才がいる!」と世に紹介したのもシューマン。

訪ねてきた若きブラームスの才能をしっかりと認め、世に知らしめたのもシューマン。

当時あまり理解されていなかったベルリオーズを絶賛しつづけたのもシューマン。

そして、以前ご紹介したとおり、シューベルトの見落とされていた遺作「グレイト」を発見したのもシューマンでした。

 

愛妻クララ

 

シューマンの人生と音楽にとって、インスピレーションの源泉ともなっていたのが、大ピアニストでもあった愛妻クララ・シューマン(Clara Schumann, 1819-1896)。

ふたりの恋愛は、音楽史のなかでも特に有名なもので、いまや音楽史を離れて、子ども向けの伝記まで発売されているほどです。

 

シューマンのクララへの愛は、そのときどきによって、ピアノ曲、歌曲、交響曲など、さまざまな形式であふれだし、たくさんの傑作が生まれました。

 

後年、精神疾患のためにシューマンはライン川へ身を投げ、それから約2年後、46歳の若さで亡くなってしまいますが、子どもが大好きだったというシューマンらしく、ふたりのあいだには8人もの子どもが生まれています。

 

小澤征爾さんで聴くシューマン

 

ピアノ協奏曲イ短調

 

シューマンが愛妻クララのために作曲した「幻想曲」を第1楽章に、全3楽章まで拡大された傑作が、このロマンティックな「ピアノ協奏曲イ短調」です。

冒頭の主題は、クララの名前を音列にしたものになっています。

 

1965年、まだ30代の小澤征爾さんが、アメリカのピアニスト、レナ-ド・ペナリオ(Leonard Pennario, 1924-2008)と共演した録音を。

オーケストラは、イギリスの名門ロンドン交響楽団

小澤征爾さんとロンドン交響楽団のレコーディングというのは、珍しい顔合わせだと思います。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

ただ、意外なことに、小澤征爾さんの指揮によるシューマンの「交響曲」の録音はないようです。

 

 

10:エクトル・ベルリオーズ(Hector Berlioz、1803-1869)

 

フランスに現れた奇才

 

ドイツやオーストリアの作曲家をずっとご紹介してきましたが、フランスにおいては、メンデルスゾーンやシューマン、ショパンより少しだけ先輩の、奇才エクトル・ベルリオーズ(Hector Berlioz、1803-1869)が登場。

独自の革新的な音楽を展開しました。

 

当初、医学の道をこころざしてパリにでてきたというベルリオーズ。

解剖学を学んでいるうちに限界を感じ、音楽の道へ舵を切りました。

 

破天荒な代表作

 

それからわずか8年後、自身の失恋体験をもとにした「幻想交響曲 op14」を書きあげます。

恋に破れた芸術家が自殺のためにアヘンを飲むものの、死にきれず、悪夢をみるという内容で、夢のなかでは恋人を殺してギロチン台に送られ、最後には魔女の夜会にまねかれ、狂乱のなかで幕切れをむかえる、という破天荒な音楽。

 

➡【交響曲100の物語】ベルリオーズ:幻想交響曲Op14~ある芸術家の生涯のエピソード

 

この作品は彼の代表作となり、以降も、革新的な作風で音楽史におおきな影響をあたえました。

 

ロマン派の作曲家らしく、「ロメオとジュリエット」、「イタリアのハロルド」、「ファウストの劫罰」など、文学的な題材をもとにした大規模なオーケストラ曲に名曲を多く残しました。

 

➡【交響曲100】ベルリオーズ:劇的交響曲《ロメオとジュリエット》~その親しみ方

➡【交響曲100】ベルリオーズ:交響曲《イタリアのハロルド》Op16

 

小澤征爾さんで聴くベルリオーズ

 

幻想交響曲

 

小澤征爾さんはベルリオーズを得意としていて、録音も映像もいろいろと残されています。

ここでは、ベルリオーズの代表作であり、小澤征爾さんも複数回レコーディングした「幻想交響曲」から、第4楽章「断頭台への行進」をどうぞ。

 

「奇蹟のニューヨーク・ライヴ」と銘打たれた、2011年、小澤征爾さんが病いから復帰しての公演。

サイトウ・キネン・オーケストラとカーネギーホールでおこなったライヴ録音です。

 

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

 

 

 

オンライン配信の聴き方

 

♪このブログではオンライン配信の音源も積極的にご紹介しています。

現状、Apple Music アップル・ミュージックがいちばんおすすめのサブスクです。

【2024年】クラシック音楽サブスクはApple Music Classicalがいちばんお薦め

 

Amazon Musicアマゾン・ミュージックも配信されている音源の量が多く、お薦めできます。

Amazonでクラシック音楽のサブスクを~スマホは音の図書館

 

お薦めのクラシックコンサート
コンサートに行こう!お薦め演奏会

 

♪実際に聴きに行ったコンサートの感想・レビュー
➡「コンサートレビュー♫私の音楽日記

 

クラシック音楽にまつわるTシャツ&トートバッグを制作&販売中
Tシャツトリニティというサイトで公開中(クリックでリンク先へ飛べます)

 

 

小澤征爾さんで出会う大作曲家50人(第1回)ヴィヴァルディからモーツァルト前のページ

小澤征爾さんで出会う大作曲家50人(第3回)パガニーニからショパン次のページ

ピックアップ記事

  1. クラシック音楽をサブスク(月額定額)で楽しむ方法~音楽好きが実際に使ってみました…

関連記事

PR

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

おすすめnote

カテゴリー&検索

月別アーカイブ

最近の記事

  1. エッセイ&特集、らじお

    わたしのラジオ日記【2023年4月号】~NHK「らじるらじる」で出会ったクラシッ…
  2. シリーズ〈交響曲100の物語〉

    【初心者向け:交響曲100の物語】モーツァルト:交響曲第36番ハ長調K.425『…
  3. わたしの試聴日記

    わたしの試聴日記【室内楽&器楽曲】~クラシック音楽のサブスク、ラジオ、CDで出会…
  4. コンサートレビュー♫私の音楽日記

    やっぱり凄い、ジョナサン・ノットと東京交響楽団~壮絶を極めたショスタコーヴィチの…
  5. シリーズ〈オーケストラ入門〉

    名曲アルバムを出さない指揮者が残した「名曲アルバム」~最初に聴くクラシック音楽
PAGE TOP