コンサートレビュー♫私の音楽日記

小林研一郎(指揮)プラハ交響楽団 スメタナ「わが祖国」全曲~2024年ニューイヤーコンサート

※当サイトはアフィリエイトを利用しています。

 

2024年は、スメタナ(Bedřich Smetana、1824-1884)の生誕200年の記念年。

せっかくなので、スメタナの代表作である連作交響詩「わが祖国」が演奏されるコンサートを、2024年最初のコンサートにえらんで聴いてきました。

 

指揮は小林研一郎さん、オーケストラはプラハ交響楽団

期待していたものとはまったく違うものが聴こえてきた公演でしたが、いろいろと感じたこともあったので、徒然につづっていきます。

小林研一郎(指揮)プラハ交響楽団

 

当日のプログラム

 

2024年1月11日(木)19:00@サントリーホール

スメタナ:
連作交響詩「わが祖国」全曲

小林研一郎(指揮)
プラハ交響楽団

 

びっくりしたチューニング

 

プラハ交響楽団は、むかし、チェコの往年の名指揮者スメターチェク(Václav Smetáček, 1906-1986)が率いていたので、録音では接したことがありましたが、生演奏を聴くのは今回がはじめて。

 

コンサートが始まってみて、まず驚いたのが、演奏前のチューニング。

心配になるくらい短時間。

他楽団にくらべたら、“ いちおう ”やっておこうというくらいに見える短さ。

最近は、入念にチューニングをする楽団が多いので、その大雑把さにまずはびっくりしてしまいました。

 

良く言えば「おおらか」な楽団

 

そのチューニングに代表されるように、演奏そのものも、よく言えば「おおらか」。

指揮の小林研一郎さんも、最近は、あまり強力にオーケストラをひっぱることがないので、全体に緊張感を欠いた、おおざっぱな演奏とも言えるものになりました。

 

第1曲「ヴィシェフラド(高い城)」の前半など、不明瞭なコバケンさんの棒に、オーケストラも手探り状態。

音楽がながれず、とても母国の音楽をやっているオーケストラとは思えないような出来。

 

第2曲「モルダウ」の後半、激流を描くくだりの音楽では、荒々しいというより、金属的な響きの、力ずくの粗雑なフォルテが聴かれて、これも驚きました。

 

緊張感の欠如は、とりわけ後半の第5曲「ターボル」で目立って、停滞の音楽になってしまいました。

つい居眠りをしてしまうお客さんが何人も視界に入りましたが、無理もないと思いました。

 

 

木々の音、土の音

 

そんな具合で、祖国の音楽を高らかに奏でるような名演奏を期待していたわたしは、ずいぶん期待を裏切られた気持ちだったのですが、いっぽうで、それでも、休憩時間に「もう後半を聴かずに帰ろう」という気分にならなかったのも事実です。

 

それは、指揮者もオーケストラも、まったく奇をてらうことなく、素直にスメタナを演奏していたことと、そこに加えて、オーケストラが時折聴かせる“ 音 ”の魅力も大きかったと思います。

 

プラハ交響楽団は、チェコ・フィルやプラハ放送交響楽団とならんで「チェコの三大オーケストラ」とされているそうです。

まだプラハ放送交響楽団は聴いたことがなく、チェコ・フィルとの比較になりますが、圧倒的にチェコ・フィルのほうが上手です。

 

また、アンサンブルの精度などの面で言えば、東京交響楽団のほうが段違いで優れていると言って間違いないと思います。

プラハ交響楽団を聴きながら、「日本の楽団は、本当に上手になった」と実感してしまいました。

 

ただ、そんなプラハ交響楽団が、時折、気まぐれのように聴かせる“ 音 ”の魅力は、やはり東欧の音楽大国チェコの豊かな文化を物語っていました。

“ 木々の音 ”、“ 土の音 ”

 

くやしいですが、こうしたものは本場ヨーロッパの専売特許といってもよいもので、日本に限らず、アメリカの最高度に磨かれた楽団でも出せない“ 香り ”のようなものです。

 

この楽団で目立って上手なのは「ホルン」でしたが、ほかの管楽器も、とっても豊かな響きをつむぐ瞬間がそれぞれにありました

木管のオーボエ、それから、フルートなどは、耳をひかれる音がいろいろなところで聴かれました。

 

そうした美点は弦楽器にも同様で、ヴァイオリンはやや響きが薄いきらいがあったものの、どの弦楽セクションも、ある瞬間には、とっても深くて、コクのある、じっと耳を澄まして聴かずにはいられないような音を出すときがありました。

第4曲「ボヘミアの森と草原から」では、突然、それまでほとんど聴かれなかったような繊細さで、美しい弦のフガートがはじまったりして。

あれは本当にうつくしい瞬間でした。

 

 

美しい宝石の“ 原石 ”のような楽団

 

そうした瞬間が連続すれば、結果はまったく違うものになるのでしょうが、そうはいかず、気まぐれにとっても美しい瞬間が出てくるという感じでした。

第2曲「モルダウ」の月夜の情景のところなども美しい響きが立ち上ったのですが、いかんせん、それが持続しないのが残念でした。

 

ほかの指揮者とのコンビではちがうのかもしれませんが、この公演を聴く限りでは、この楽団は、チェコ・フィルなどより、もっともっと“ ローカル ”な存在の楽団であって、こうした海外ツアーのようなものに引っ張り出してきて聴くよりも、地元で、肩ひじ張らず、リラックスした日常のなかでこそ、耳をかたむけ、聴かれるべき楽団なのかもしれないと、そんな気もしました。

 

もちろん、例えば、ユベール・スダーンのような優れたオーケストラ・トレーナーと組んだりすれば、もっともっと大きな花を開かせる可能性も持った楽団であるのも間違いないと思います。

磨けばまちがいなく光る、美しい宝石の“ 原石 ”のような楽団だとも感じました。

 

ただ、難しいところで、磨いたがゆえに、かえってその輝きを失う宝石もあるわけで、この楽団は今のままで良いというようにも思われて、難しいところです。

 

 

小林研一郎さんの指揮の美点

 

小林研一郎さんの指揮については、きっと年齢的な肉体の制限もあって、最近は指揮が不明瞭なところも多く、それゆえに、オーケストラに預ける面が多くなり、この公演でも、リードするというより、自発性を引きだそうというスタンスを強く感じました。

 

オーケストラが、彼ら自体でひとつにかっちりとまとまって「型」ができてしまっている楽団の方が、今のコバケンさんには指揮しやすいのではないかと思います。

そうした点では、今回のプラハ交響楽団は従順で、指揮をよくよく見るところがあって、かえって難しさがあったように感じました。

 

ただ、こうして不満な点がたくさんあるにしても、やっぱり小林研一郎さんの指揮というのは、ほかの指揮者に代えがたいところがあるというのも再確認しました。

 

小林研一郎さんの美点は、その音楽に「情緒がある」ところでしょう。

こういう、“ 情 ”のある音楽をやるひとは、最近、非常に少なくなりました。

 

その点が、わたしがたくさんの不満を感じつつも、定期的に聴きに行ってしまう理由かもしれません。

 

浪花節のような、独特な音楽観を持つ指揮者なので、いわば、もう「一代の芸」のようなところがあって、現役で活躍されているうちに、得意のレパートリーはひと通り体験しておきたいと思っています。

 

このブログでも、小林研一郎さんの指揮する公演を比較的多めにご紹介しているのは、そうした希少性、現代の音楽家たちの行き過ぎたアカデミズムへの安全弁のようなものを感じるからです。

末永くご活躍いただきたい指揮者です。

 

↓小林研一郎さんの公演のなかからお薦めのものをピックアップして紹介しているページです。

 

笑顔のステージマナー

 

プラハ交響楽団は、演奏もおおらかでしたが、楽団員の雰囲気もおおらかで、客席にむかってあんなに笑顔をふりまきながら入場してきた楽団員が多かったのは、以前、イタリアのローマ・サンタチェチーリア管弦楽団を聴いたとき以来でした。

 

途中休憩の時間にステージのすみに集まって記念写真を撮っていたり、その親しみやすい雰囲気でこの楽団を好きになった聴衆も多かったのではないかと思います。

とても好感のもてるオーケストラです。

あまり、過度な期待をせずに聴きに行くべきオーケストラなのかもしれません。

 

そんなわけで、楽しみにしていた「わが祖国」全曲を堪能するというところには全く至らなかったのですが、楽団の魅力はいろいろと感じた公演でした。

 

とはいえ、今年はせっかくのスメタナ生誕200年。

「わが祖国」はまた何か別の演奏会を聴きに行こうと思います。

 

オンラインで配信中のコバケン「わが祖国」

 

コバケンさんはスメタナの「わが祖国」について、複数のレコーディングがあります。

オンライン配信で聴きくらべて、お好みの演奏を探してみるのも一興かと思います。

 

♪1997年、チェコ・フィルとの全曲演奏はアップル・ミュージックApple Musicで配信中

 

♪1998年、名古屋フィルとの前半3曲の演奏はさまざまな配信先でたのしめます

( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)

 

♪2009年の東京都交響楽団との全曲演奏はアマゾン・ミュージックAmazon Musicが配信中

 

♪2013年、読売日本交響楽団との全曲演奏はアマゾン・ミュージックAmazon Musicが配信中

 

♪このブログではオンライン配信の音源も積極的にご紹介しています。

オンライン配信の聴き方については、「クラシック音楽をオンライン(サブスク定額制)で楽しむ~音楽好きが実際に使ってみました~」のページでご紹介しています。

AppleMusicでクラシック音楽のサブスクを~スマホは音の図書館

Amazonでクラシック音楽のサブスクを~スマホは音の図書館

 

♪お薦めのクラシックコンサートを「コンサートに行こう!お薦め演奏会」のページでご紹介しています。

判断基準はあくまで主観。これまでに実際に聴いた体験などを参考に選んでいます。

 

♪実際に聴きに行ったコンサートのなかから、特に印象深かったものについては、「コンサートレビュー♫私の音楽日記」でレビューをつづっています。コンサート選びの参考になればうれしいです。

 

♪クラシック音楽にまつわるTシャツ&トートバッグをTシャツトリニティというサイト(クリックでリンク先へ飛べます)で販売中です。

 

 

ウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートの指揮者たち~小さな試聴室前のページ

ヴァン・カイック弦楽四重奏団 Quatuor Van Kuijk ~お薦めの現役アーティストたち次のページ

ピックアップ記事

  1. クラシック音楽をサブスク(月額定額)で楽しむ方法~音楽好きが実際に使ってみました…

関連記事

PR

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

おすすめnote

カテゴリー&検索

月別アーカイブ

最近の記事

  1. シリーズ〈交響曲100の物語〉

    【初心者向け:交響曲100の物語】モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551『…
  2. コンサートレビュー♫私の音楽日記

    朴葵姫(パク・キュヒ)ギター・リサイタル「BACH」~美しい音色、脱帽のプログラ…
  3. わたしの試聴日記

    わたしの試聴日記【室内楽&器楽曲】~クラシック音楽のサブスク、ラジオ、CDで出会…
  4. コンサートに行こう!お薦め演奏会

    初めてのベートーヴェン「第九」コンサート~しっかりめの準備や予習・解説
  5. シリーズ〈交響曲100の物語〉

    【初心者向け:交響曲100の物語】モーツァルト:交響曲第40番ト短調K.550~…
PAGE TOP