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ブラームスからの励まし
1869年にベルリンのジムロック社が出版したブラームスの『ハンガリー舞曲集』は大ヒットとなりました。当然これを受けて、出版社ではそれに続くものを出したいと考えました。そこで、ブラームスから新しく紹介されていたチェコの新進作曲家ドヴォルザークに似たような舞曲集を依頼することになります。1878年、ドヴォルザーク37歳のころのことです。
ドヴォルザークはまだ大活躍する前で、1875年に行われたオーストリア帝国の奨学金審査を通り、さらには先輩作曲家ブラームスに才能を見出されていたころでした。ブラームスはハンガリー舞曲集の大ヒットの体験から、まだ奨学金と多少の作曲収入で何とか生計を立てていたドヴォルザークに対して、この舞曲集を一生懸命書いて収入を得るように励ましています。
その期待に応えて、ドヴォルザークは『スラヴ舞曲集』第1集Op46を、ブラームスの『ハンガリー舞曲集』とおなじくピアノ連弾曲として書き上げます。これは出版されると大ヒットとなって、すぐにドヴォルザーク自身によってオーケストラ用の編曲もされています。
第1集の10倍の報酬
その後、出版社はやはりブラームスのときと同様に続編の作曲を打診しますが、ドヴォルザークは名声が高まり、交響曲などの他の作品に専心していたこと、そして第1集の出来の良さがひとつの壁にもなって、なかなかそれに応じず、ようやく8年ほどして1886年に第2集が書かれました。このときには、出版社のジムロックが第1集の10倍の報酬をドヴォルザークに支払ったという逸話が残っています。まさにドヴォルザークのサクセス・ストーリーです。
聴きどころ
第1集が8曲、第2集も8曲、合計16曲の舞曲集。特に全曲通して聴くことを前提としていないので、好きなものを抜粋で楽しむのもいいと思います。
とびぬけて有名なのは第2集の「第2番」、これは通し番号的に「第10番」と呼ぶときも多いです。
そのほか、コンサートのアンコールでよく演奏されるのは、第1集では華麗な「第1番」と情熱的な「第8番」、第2集ではティンパニで終わる「第1番」と熱狂的な「第7番」です。総じて、第1集のほうが人なつっこい音楽が多くて、口ずさみやすい旋律も多いです。
第2集はもっと音楽の陰影が濃くなっていて、内省的な側面が強くなっています。そのせいか、この曲を得意とする指揮者は、コンサートでは第2集をプログラミングする人が多いです。
私のお気に入り
ヴァーツラフ・ターリヒ指揮チェコ・フィルハーモニー管弦楽団。1950年の古い録音ですが、この曲が作曲者の理想のままに実現されたよう。ターリヒはチェコ出身の大指揮者で、若いころにはベルリン・フィルのコンサート・マスターをしていたという信じられない経歴を持っている音楽家です。当時のベルリン・フィルはこちらも伝説的な大指揮者アルトゥール・ニキシュの時代で、その影響を受けて指揮者に転向、大家となりました。同業者にきびしかったカラヤンも敬愛し、ロシアの巨匠ムラヴィンスキーは、ターリヒの素晴らしい演奏を聴いてドヴォルザークを自分のレパートリーから外してしまいました。( YouTubeで第1集も第2集も聴けます)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮バンベルク交響楽団の演奏は、ハンガリー舞曲集のときのイッセルシュテット指揮北ドイツ放送交響楽団のように、すべての曲の魅力をひとつひとつ目いっぱい描き出しています。どれを聴いても楽しくて、心を奪われる演奏の連続です。( Apple Music↓・Amazon Music・Spotify・Line Music などで聴けます)
ハンガリーの名指揮者アンタル・ドラティはこの曲を得意にしていたのか、チェコ出身の指揮者ではないのに何度もこの曲集を録音しています。しかも、そのどれもが素敵な演奏で私は大好きです。音がとってもきれいですっきりとしているロイヤル・フィルとの録音( Apple Music・Amazon Music・Spotify ・LineMusicなどで聴けます)も好きですが、私がよく手に取るのはミネアポリス交響楽団と録音したアルバム。この録音は何といっても最後の第2集第8曲がほんとうに美しい演奏。これを聴いてスラブ舞曲集が心から好きになった思い出のアルバム。ノスタルジックで郷愁あふれる音、聴いていて涙が出そうになる音楽。( Apple Music↓・Amazon Music・Spotify ・LineMusicなどで聴けます)
ズデニェク・コシュラー指揮チェコ・フィルの演奏は、昔から名演奏の誉れの高い演奏。それなのに、なぜかCDがほとんど発売されず、オークションなどで高値で見かける程度。今回記事を書きながら、オンライン配信で見つけたときには、「やっと聴ける!」と嬉しくなりました。聴いてみると、じつに素朴で小気味よい演奏。“ 原曲 ”を聴いているような気がしました。本当は、こういう自然なスケール感の音楽なのかもしれないと感じさせるご当地の演奏。( Apple Music↓・Amazon Music・Spotify・Line Music などで聴けます)
アンドレ・プレヴィン指揮ウィーン・フィルはしっとりとした演奏。あんまり飛んだり跳ねたりした演奏が聴きたくないときに聴きたくなる、落ち着いた風情が印象的なアルバム。この時期のこのコンビは、こうした柔らかな、しなやかな演奏が多くて、オルフの『カルミナ・ブラーナ』なんかもとっても抒情的で素敵でした。( Apple Music↓・Amazon Music・Spotify・Line Music などで聴けます)
ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団は、知情意すべてのバランスがとられた演奏。稀に冷たさを感じさせるときもあるこのコンビ、でも、ここでは豊かな音楽が聴かれて好きなアルバムです。目の覚めるようなアンサンブル、熱狂、そして、しなやかな歌。( Apple Music↓・Amazon Music・Spotify などで聴けます)