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井上道義(指揮)新日本フィルハーモニー交響楽団
最後の「レニングラード」
指揮ではなく、共演。
ひょっとしたら、そんな境地で指揮台に立たれていたのかもしれません。
2024年末での引退を表明している指揮者の井上道義さん。
私はこの日の公演が、実演にふれる最後の機会。
12/30の読売日本交響楽団との正真正銘の引退公演を聴きに行くか迷ったものの、井上道義さんの公演をそこまで熱心に聴き続けてきたわけではない私が、万が一、本当のファンの方たちの席を奪うことになったら嫌だと思って、そちらは遠慮しました。
ただ、井上道義さんといえば、やはりショスタコーヴィチ(Dmitri Shostakovich, 1906-1975)。
実演で井上道義さんの指揮するショスタコーヴィチを聴いたことがない私は、この新日本フィルとの公演を最後のコンサートに選びました。
当日のプログラム
2024/11/16(土)
14:00@すみだトリフォニーホール
ショスタコーヴィチ:交響曲第7番ハ長調「レニングラード」
井上道義(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
円満な響き
ホールのオルガン両脇に、ホルンやトランペットといった金管楽器群がバンダで配置された布陣。
その壮観なオーケストラ配置をみると、ものすごい演奏が始まりそうな印象でしたが、実際には、意外なくらいおさえた表情で「レニングラード」交響曲は開始されました。
そこには、たとえば、昔、巨匠トスカニーニが取りつかれたように指揮した「レニングラード」の熱量や、多くの指揮者たちが聴かせてきた強い訴えかけのようなものは、あまり聴き取れません。
♪ショスタコーヴィチ:
交響曲第7番「レニングラード」
アルトゥーロ・トスカニーニ(指揮)
NBC交響楽団
( Apple Music ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
「人間の主題」と呼ばれる冒頭の旋律を、より人間的な温かさでもって表現しようとしている表れだったのかもしれませんが、それ以降の箇所を聴いてみても、井上道義さんはオーケストラをリードするというより、オーケストラの自発性を尊重し、まるで親が成長した我が子を見守っているかのような指揮に見えました。
その姿は、ちょっとノスタルジックでさえ、あったかもしれません。
ゴジラのような
オーケストラの自由度を高め、かなり任せたような指揮ぶりだったこともあり、音楽の音量があがってきて、全体のコントロールが必要な場面になると井上さんのコントロールも強まって、つまりは、大きな音量のときに音楽的な濃度も高まる、というような印象を受けました。
なので、私がこの公演で特に強く印象を受けたのは、たとえば、第1楽章の「戦争の主題」が小太鼓のリズムにのって「ボレロ」のように大音量になっていくような場面。
こうしたところになると、井上道義さんはゴジラのように両手のかぎ爪をたてて、オーケストラを鷲づかみするかのよう。
大きく、ゆったりとした、戯画的な指揮ぶりでカタストロフを描きだします。
さらに、第4楽章の終結部。
これもたいへん印象に残りました。
大音量で、輝かしく、壮麗に演奏されたのに、この箇所を「到達点」や「勝利」としては描かなかった含蓄のふかさ。
史実として、対ナチスにおけるロシア側の勝利を知っている時代の人間からすると、「レニングラード」交響曲は勝利の音楽として聴いてしまいがちですが、実際には、ショスタコーヴィチが作曲していた当時はまだ戦争中。
いわば、これは平和への希求、戦争が終結することへの願望が込められた響き。
この井上道義さんの描いた終結部には、確かに、そうしたものへの憧れ、“ 現在進行形 ”の願いが響いていました。
一期一会のもの
私はどうしても、この交響曲に、もっと切実なもの、張り詰めたものを感じてしまうので、井上道義さんが今回やった「レニングラード」は、とくに弱音部での表現が円満すぎるように感じて、かなり意外なショスタコーヴィチ体験になりました。
もっと言えば、総じてあまりに微温的なので、音楽の展開がよくわからないように感じられる節もありました。
♪ショスタコーヴィチ:
交響曲第7番「レニングラード」
井上道義(指揮)
大阪フィルハーモニー交響楽団
( Apple Music ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
※2024年11月現在、Apple Music でのみ配信中のようです。
井上道義さんは、すでに2015年に大阪フィルと、この「レニングラード」を録音済みで、この演奏を聴いても、やはり冒頭の「人間の主題」はあたたかみをもって表現されていて、今回の新日本フィルとの演奏を思い起こさせてくれるものです。
ただ、それ以降の音楽については、この大阪フィルとの演奏では、張り詰めた表情も随所に聴こえてきます。
なので、この大阪フィルとの演奏のほうが、私には、解釈としてはしっくりくる感じがします。
今回の演奏は、ショスタコーヴィチの「レニングラード」をつきつめたというよりは、やはり、井上道義さんと特に関係の深かった新日本フィルとの最後の共演、どこか、演奏全体をノスタルジーのようなものが包んでいたところに、ユニークな聴きどころがあったと感じます。
その意味では、この演奏は一期一会。
今、このときだから聴ける「レニングラード」。
私の最後の井上道義さん体験は、とてもユニークなショスタコーヴィチとなりました。
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