小さな音楽処方箋。「疲れた一日のおわりに聴きたい」クラシック音楽、前回に引き続き第2弾です。
今回も、曲目だけでなく、演奏者にもこだわってご紹介していきます。
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
まず題名そのものが美しいですが、由来には諸説あって、ルーヴル美術館で見たベラスケスの絵画『マルガリータ王女』からインスピレーションを得たのではないかとも言われていますが、作曲したフランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875-1937)本人は“ Pavane pour une infante défunte ”という発音が面白いからこうした題名をつけただけと述べています。
このロマンティックな小品は、1899年、ラヴェル20代前半の、まだパリ音楽院の学生だったころのピアノ作品。
1910年にラヴェル自身によってオーケストラ編曲もされています。ラヴェル最初期の傑作のひとつ。
後年、自動車事故などで脳にひどい障害をおってしまったラヴェル。あるとき、この曲を聴いて「美しい音楽。これは誰が書いたの?」と尋ねたという、悲しいエピソードも残されています。
では、そのピアノ版をドイツの名ピアニスト、ワルター・ギーゼキング(1895-1956)の演奏で。
楽譜を徹底的に研究・暗譜してから初めてその曲をピアノで弾くというのが彼のやり方で、練習らしい練習はしたことがないという、伝説のピアニストです。
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せっかくなのでオーケストラ版も。
今回はすっきりしたテンポのシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のものを選びました。リハーサル嫌いで有名な巨匠ミュンシュが、気持ち速めのテンポで、いかにもさりげなく始めています。ところが、旋律がくりかえされるごとにだんだんと音楽がしっとりとしてくるあたりが聴かせ上手。最後には実に潤いのある音楽へと昇華していきます。
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ホープ:“間奏曲”~『モーメンタム組曲』
これは秘曲です。
まずラジオでも流れたのも耳にしたことがありませんし、CDなどもほぼ見かけません。
でも、これはとびきり美しい音楽。これを聴いていただくと、このブログを見たかいがあったと思っていただけるはずです。
ほとんど知られていない音楽ですが、どうしても聴いてほしい1曲。
『モーメンタム組曲』は3つの楽章でできている弦楽合奏のための組曲。ここでご紹介するのは、その第2楽章“Intermezzo”「間奏曲」。わずか4分の音楽で、おわってしまうのが悲しいくらい美しい音楽。
作曲者のピーター・ホープ氏は、現在90歳でイギリスにてご健在です。どうぞ、ますますのご健勝を。
デイビッド・ロイド=ジョーンズ指揮ノーザン・シンフォニア・オブ・イングランドのすばらしい演奏で。
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フィンジ:『エクローグ』
ホープ氏のイギリスの弦楽合奏曲をお届けしたので、そのながれで、こちらもイギリスの弦楽が主体で、そこに静かにピアノが加わった作品。ジェラルド・フィンジ作曲の『エクローグ』。
以前、「曇り空の下で聴きたい音楽~ジェラルド・フィンジの世界を聴こう」という特集記事でもご紹介しました。
彼の音楽は、雨上がりのような爽やかさと優しさがあって、心の中に、静かに音が降ってくるような音楽。
まったく特別な空間を与えてくれる、まったく特別な10分間の音楽。
ウィリアム・ボートン指揮イギリス弦楽オーケストラ、ピアノ独奏マーティン・ジョーンズの演奏で。
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ショパン:子守歌 変ニ長調
おしまいに、1844年、ポーランドの作曲家フレデリック・ショパン(1810?-1849)の早すぎる晩年期の作品。
華麗な技巧がちりばめられる一方で、全体はやさしい静けさに支配されている、ショパンの最高傑作のひとつです。
今回はこれをイギリスのピアニスト、ソロモンの録音でご紹介します。
ソロモン(1902-1988)は、とっても高潔なピアノ演奏をする人。歌曲の伴奏者として著名なピアニスト、ジェラルド・ムーアが自分の理想とするピアニストとしてソロモンの名前をあげていました。
ソロモンは、脳梗塞のために1950年代半ばに引退を余儀なくされてしまいました。
ショパンの「子守歌」には名録音がたくさんありますが、私がいちばん好きな演奏はこのソロモンの古い録音です。
私がこの曲に聴きたいものがすべてある演奏。
言葉を失うような、ひたすら美しい音楽、優しい音。
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というわけで、「疲れた一日のおわりに聴きたいクラシック音楽4選」というテーマでお届けしました。
どれか一曲でも心にとどく音楽があったらうれしいです。
すこしでも、心がやすらぎますように。