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SNSやネット上はあまりにネガティブな話題でいっぱいなので、せめて自分のブログでは、ネガティブな内容のことを書かないように意識しているのですが、この公演については、「おすすめ演奏会」のページでご紹介してしまった経緯もあるので、つづっておきます。
言葉に困るのですが、これほど「第九」で退屈したことはあまり経験がないというか…、首をかしげるばかりの公演でした。
ファビオ・ルイージ指揮NHK交響楽団「第九」演奏会
N響の新しい指揮者ファビオ・ルイージの実演を聴くのは、今回が初めてでした。
ラジオで聴いた、就任披露公演の素晴らしいヴェルディ:レクイエムの印象が強かったのと、どの公演もプログラミングが名曲を上手に配したバランスの良いものが多いので、とても期待していた公演でした。
けれども、実演で聴いてみると、いろいろと違っていました。
当日のプログラム
2024年12月23日(月)
19:00@サントリーホール
J. S. バッハ:
トッカータとフーガ ヘ長調 BWV 540
オルガン独奏:中田恵子
ベートーヴェン:
交響曲第9番ニ短調「合唱つき」
ソプラノ:ヘンリエッテ・ボンデ・ハンセン
メゾソプラノ:藤村実穂子
テノール:ステュアート・スケルトン
バス・バリトン:トマス・トマソン
新国立劇場合唱団
NHK交響楽団
ファビオ・ルイージ(指揮)
猪突猛進
第1楽章が始まってみて、まず、とってもテンポが速いです。
このブログで推しているジョナサン・ノットと東京交響楽団の「第九」も速いですが、ファビオ・ルイージとN響の第九は、もっとずっと速く感じます。
というより、「速過ぎる」と感じます。
指揮棒を持たないルイージは、髪を振り乱して、いかにもイタリア人らしい、情熱的な風貌で指揮を振っているのですが、実際に響いてくる音楽は、ただただ猪突猛進。
陰影も、ニュアンスも、わたしは一切聴き取れませんでした。
あらゆる楽句が、ただ、エピソードとして過ぎ去っていくだけに聴こえました。
よく「日本でいちばんうまい楽団はNHK交響楽団」だと言われますが、実際、1年ぶりにN響を聴いて、なるほど、と思います。
仮に、彼らの音をすべてシャットアウトして、その動きだけを見たとしても、その一体感は、見た目だけでわかると思います。
弦楽器奏者たちを見ていると、きれいに、一斉に、同じように音を出します。
それゆえに、ひとりひとりの奏者が「分をわきまえて」、みずからに許された領域を、的確に、決してはみ出すことなく演奏している姿は、完全に統率のとられた、タテ型社会を見ている心地がしました。
オーケストラというのは、本質的に「民主的」なものであると思っている私には、何か違和感が拭えない光景です。
そんななかで、トップサイドに座った郷古さんなどは、それでも、そのしがらみのなかで目一杯に音楽的であろうと苦闘しているのもわかって、いずれ、そうした方向性が楽団の殻を打ち破っていく日が訪れたら、その日こそ、N響の新しい時代の幕開けになるはずです。
猪突猛進のルイージの指揮に、分をわきまえたN響が高度のアンサンブルで応える光景は、さすがと言えばさすがなのかもしれませんが、わたしは「音楽」が聴きたい。
第1楽章も、第2楽章も、ただ時間が過ぎていくだけに感じられました。
第3楽章になって、冒頭、やっと「音楽」といえるようなものが表れてほっとしたのですが、残念なことに、あっという間に元のペースに戻ってしまいました。
気の毒な声楽陣
そして、第4楽章になると、陰影のニュアンスはさらに減って、さながら、もう「軍隊の行進」でした。
合唱は素晴らしいと感じましたが、以前、2021年のジョナサン・ノットと東京交響楽団の公演でも感銘を受けた「新国立劇場合唱団」でした。
➡ジョナサン・ノットと東京交響楽団の「第九」2021、そしてスイス・ロマンドとの「第九」
ただ、この素晴らしい合唱も、猪突猛進のタクトの下では、だんだんと、ひたすらに吠えるしかないという様相になっていきます。
そして、さらに気の毒なのは、2階P席の、合唱団の前に配置された4人の独唱陣です。
猛烈に進んでいくオーケストラと猛々しい合唱団に挟まれて、もはや為す術はありません。
世界的なメゾソプラノ、藤村実穂子さんの歌唱を聴くのも、今回の第九の楽しみのひとつだったのですが、これでは、もうどうにもならないという様子でした。
演奏終了後、通常であれば1階のステージに降りて、オーケストラや指揮者たちといっしょに拍手を受けるであろう独唱陣が、2階席から引き揚げたあと姿を見せなかったのは、もしかしたら、そうしたせいかもしれません。(オーケストラが引き上げたあとの、指揮者カーテンコールではもしかしたら登場があったのかもしれません。私は帰路についてしまったのでわかりません。)
コバケンの第九の真反対に位置するもの
こんな第九は初めてで、いったいブログにどう書いたら読者のみなさんにわかりやすいかと考えたのですが、そう、まさに「コバケンとその仲間たちオーケストラ」の“ 史上最高の第九に挑む ”の真逆に位置するもの、と言ったら伝わりやすいかもしれないと思います。
➡あれ?フルート奏者の譜面台に楽譜がない…あ、指揮者が指揮台から落ちる【史上最高の第九に挑む2022レポート】
たしかにN響の第九は完成された商品として間違いはないかもしれませんが、私の耳には、プロとアマチュアが混在する「コバケンとその仲間たちオーケストラ」の第九のほうが、よほど血の通った、人間らしい、音楽的な演奏だったと感じます。
それに、ジョナサン・ノットと東京交響楽団の「第九」についても、ここ数年の出来が初回ほどではないので批判的なレビューになってしまっていましたが、今回のルイージ&N響の第九を聴いていると、ノット&東響の出来の悪い「第九」のほうが、いかに音楽的かと思い知らされました。
いつかファビオ・ルイージ氏に会う機会にめぐまれたら、この第九はいったいどういうことですか?とお聞きしてみます。
忙しい年末に、何とも困った「第九」を聴かされて帰ってきたわけですが、このブログ記事を投稿するのがちょうどクリスマス当日になりました。
クリスマスは愛と寛容の日。
ゆえに、私はファビオ・ルイージとN響を赦します。
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➡【2024年】クラシック音楽サブスクはApple Music Classicalがいちばんお薦め
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