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リッカルド・ムーティ(指揮)東京春祭2024 ヴェルディ「アッティラ」
会場選択のミスマッチ
ひさびさに、途中で帰ってしまった公演になりました。
今年後半、もっとも期待していたコンサートのひとつ。
リッカルド・ムーティ(Riccardo Muti, 1941 – )指揮する東京春祭オーケストラによる、ヴェルディの歌劇「アッティラ」の演奏会形式上演。
私が聴いたのは、ムーティが指揮した1日目、9/14(土)19:00~の公演。
池袋にある「東京音楽大学 100周年記念ホール」という、初めて行く会場でした。
本当は2日目のオーチャードホール公演に行きたかったのですが、都合がつかず。
池袋の会場は、調べてみると座席数が約800席と少ないことが不安だったのですが、実際、演奏がはじまってみると、その予想が当たってしまいました。
独唱、合唱団、オーケストラが放つ音量は、すぐにホール内で飽和してしまいます。
トゥッティにかぎらず、独唱であってもソプラノ歌手などが声をはりあげると、耳がビリビリします。
素晴らしいソプラノで、それをわかって抑制的に歌っていましたが、それだけに、もっと自然に歌わせてあげたかったです。
そうした会場のダイナミックレンジの狭さゆえに、演奏会形式とはいえ、オペラが本来持つ立体的な空間への志向が、結果的には平板なものに押し込められ、巨人が小部屋におしこまれているような居心地の悪さを感じました。
デッドな音響
また、音が飽和してしまうのはあくまで狭さのせいのようで、音響そのものはむしろデッドなくらいに感じられました。
ですので、近年のムーティが大切にしている“ 弱音 ”は、弦であれ、管であれ、弱音であればあるほど「やせて」聴こえてきてしまいます。
「アッティラ」の象徴的な場面のひとつである日の出の情景では、その直前の静けさをムーティは繊細に描きだそうと苦心していましたが、効果が上がっていませんでした。
もしムーティが若いころのように、猛々しい勢いで、いかにも「アッティラ」のイメージ通りの、男性的な音楽をやったのなら、それでも聴き通せたかもしれません。
でも、近年のムーティは、そうではありません。
テンポもぐっと落ち着き、やわらかで、和声的な音楽づくりを基調としていて、ヴェルディにおいても、“ 弱音 ”をとても大切にあつかいます。
実際、この日、ムーティがやろうとしていたであろう「アッティラ」は、従来の男性的で叙事的な勢いに溢れたアッティラではなくて、詩的で、抒情性を随所に感じさせる、広がりのある「アッティラ」であるように感じました。
そのムーティのアプローチと、会場とのミスマッチは、いかんともしがたく、まるで水と油。
それくらい、現在のムーティがやろうとしているヴェルディは、繊細さを極めてきているということになるのかもしれません。
その違和感と、すぐに飽和してしまう響きの圧迫感から、前半だけを聴いて私はぐったりと疲れてしまいました。
♪ヴェルディ:歌劇「アッティラ」
ムーティ指揮スカラ座(1989年録音)
( Apple Music↑ ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
高い授業料
途中の休憩時間は30分。
とりあえず、いちど耳をリセットさせようと、ホールの建物から出てみます。
「これは、後半も聴くべきだろうか…」
2万円以上のお金を払って半分だけ聴いて帰るなんて、自分のことながら愚かしいと思いましたが、といって、後半に前半を超える何かが起こるようにはどうしても思えません。
「…自分に正直でいるための授業料だと思おう」
というわけで、敬愛するリッカルド・ムーティの公演なのに、後半は聴かず、、まだまだ生ぬるい夜風を感じながら、そのまま会場をあとにしました。
まったく、自分のことながら「最後まで聴いて帰ればいいのに」と思いましたが、でも、耐えられない何かがありました。
それでも、
最近にかぎっても、圧倒的な「仮面舞踏会」、そして、ひたすらに美しかった「アイーダ」と、ムーティには脱帽の連続でしたので、今回はとにかく残念でした。
ただ、「アッティラ」に叙事性だけでなく、抒情性も見出だしたアプローチを、その片鱗とはいえ体験できたのは収穫でした。
実際、かぎられた瞬間ではあったものの、これまで「アッティラ」に感じたことのない、詩的な広がり、抒情的な美しさを感じられた時間もあって、それは、今現在、ほかのどの指揮者からも体験できないであろう、貴重なものだったと感じています。
➡■ムーティ82歳、世界でもっとも美しい「アイーダ」が上野に響く~東京春音楽祭2024
➡■指揮界の頂点に立つ81歳の巨匠が描いた至高のオペラ~ヴェルディ:「仮面舞踏会」
もっと真剣に会場を選んでほしい
とはいえ、チケットは2万円超えの公演です。
これだけのお金をとって、わざわざあの音響のホールに聴衆を集めるというのは、率直に不誠実だったと感じています。
都内にかぎっても、もっと普通の音響の会場が山のようにあるというのに…
東京音大や春祭の事務局には、何らかの経営的メリットがあったのかもしれません。
でも、聴衆にとって、リハーサルを重ねてきた音楽家たちにとって、そして、何よりムーティの新しい「アッティラ」像にとっては、どこにメリットがあったのでしょうか?
ムーティはもう80歳を超えています。
一回一回の公演が、日本の音楽ファンにとって貴重な機会であることは間違いありません。
現在のムーティの芸術にとっての最良の音楽空間を準備することを、もっともっと事務局には心がけていただきたいです。
もっと真剣に、音楽的な良心をもって、可能な限り「利他的に」、会場を選んでください。
コンサートがハズレたときの対処法
この先は余談です。
さて、こうした、いわばハズレのコンサートにあたってしまったとき、自分はどう対処したらいいのか。
以前、誰のコンサートだったか、散々な出来のコンサートがありました。
すると、一緒にいった友人が「この気分を上書きするために、ちょっと背伸びして、千疋屋でパフェを食べてみませんか?」と提案してくれました。
ハーゲンダッツも人生でまだ3回しか口にしていない、ぜいたくな食事と縁遠い私はちょっと迷いましたが、でも、年に一度あるかないかの機会だとも思って、何千円もするパフェを、私はそのとき初めて口にしました。
彼の言う通りでした。
食べものは裏切らないというか、なるほど、みんなコンサートよりも食事に熱心なはずだと妙に納得しました。
今回は、近所のスーパーに立ち寄って、以前見かけて、まだ買ったことがなかった「バナナチップス」を買って帰りました。
ふだんはお菓子コーナーにある100円くらいの袋いりのものを買っていますが、これは、透明なプラスチックの箱に入った、ちょっと上品なやつです。
税込み290円。
家に帰って、バナナチップスを口にほうりながら、「もしかしたら、美味しいご飯屋さんのほうが、世の音楽家たちよりもずっと確かな仕事をしているんだろうか、」なんて思ったり。
好き放題に略奪をおこなった暴君アッティラ。
「アッティラ」に2万円を略奪された私は、予想どおり美味しかった290円のバナナチップスに、おおいに慰められました。
オンライン配信の聴き方
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➡【2024年】クラシック音楽サブスクはApple Music Classicalがいちばんお薦め
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