コンサートレビュー♫私の音楽日記

初めて聴く「千葉交響楽団」ニューイヤーコンサート2023~ポルカ演奏が絶品~

 

千葉県で唯一のプロフェッショナル・オーケストラであるという千葉交響楽団を、今回、はじめて聴いてきました。

 

結論から言います。

指揮者の山下一史さん&千葉交響楽団のコンビによる「ポルカ」は、絶品です。

 

これほどのポルカを演奏できるコンビは、日本で果たして、ほかにあるかどうか。

2016年に改称して、まだまだこれからのオーケストラですが、今後の飛躍がおおいに期待される存在だと感じました。

 

ただ、コンサートそのものの出来栄えは、いろいろと「惜しい」感じがしました。

 

この先、そうした惜しい点が軌道修正されたら、この楽団のニューイヤーコンサートは、日本でも指折りのニューイヤーコンサートになっていくと確信しています。

そうした期待を勝手に込めて、もろもろのことを綴っていきたいと思います。

 

丁寧なアンサンブル

 

ステージ上の楽団を見渡すと、コントラバス4台という、比較的小ぶりな編成のオーケストラ。

パンフレットに「5弦コントラバス購入のためのクラウド・ファンディング達成の御礼」という記事が載っていたので、だんだんと人数や編成を拡大している途中の、まさに発展途上のオーケストラなんだと思います。

 

私は、この楽団の演奏をまったく聴いたことがなかったので、いったい、どういう演奏になるのか、期待と同時に不安も感じつつ、1曲目のオッフェンバック:喜歌劇「美しいエレーヌ」序曲に耳を傾けました。

 

始まってすぐ、その丁寧なフレージング、清潔な音づくりに感心してしまいました。

とくに弦楽器に、非常になめらかなカンタービレがあって、オッフェンバックのしなやかな旋律線がとてもよく歌われていきました。

このしなやかさは特筆されるべき特徴です。

 

まだまだアンサンブルを整えている途上にあるようで、安全運転過ぎるように感じられる面もありましたが、コーダに入ると、意外なくらい、ぐっと熱量があがったり、うれしい驚きもありました。

1曲目からとても愉しい気分になる、素晴らしい幕開けとなりました。

 

 

千葉交響楽団の「ポルカ」は絶品

 

さらに驚かされたのが、2曲目のヘルメスベルガーⅡ世:ポルカ・フランセーズ「大好きなひと」

ポルカにはいろいろ種類があって、例えば、テンポの速い“ ポルカ・シュネル ”が面白いというなら、何となく、勢いでどうにかなるものですが、この楽団の凄いところは、テンポが遅い“ ポルカ・フランセーズ ”が絶品ということ。

 

まずテンポが実に絶妙。

決して急がず、けれども、まったく停滞もせず。

もう「これ以外ない」というくらい、どんぴしゃりのテンポが刻まれていきます。

 

さらには、その上で繰り広げられる、音楽の歌い口の豊かさ。

素朴さとニュアンスの豊かさが、ほどよいバランスで共存していて、ポルカ作品のもつ本来の味わいが、実に自然に、そして、豊かに歌われていきます。

この演奏には、本当にびっくりしました。

 

たまたま、このヘルメスベルガー作品が得意なのかと思ったのですが、後半に演奏されたヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・フランセーズ「小さい風車」も唖然とするくらい素晴らしかったので、間違いありません。

山下一史さんがポルカ・フランセーズを得意としているのか、いずれにせよ、このコンビのポルカ・フランセーズは一聴の価値があります。

 

テンポの速いポルカ・シュネルも素晴らしいものがありましたが、やはり、ここに強調して書いておきたいのは、ポルカ・フランセーズの素晴らしさです。

 

 

プログラム

 

遅くなりましたが、ここで、プログラム全体をご紹介します。

いかにもニューイヤーコンサートらしい、シュトラウス・ファミリー作品を主体とした曲目になっています。

オッフェンバック
喜歌劇「美しいエレーヌ」序曲
ヘルメスベルガー
ポルカ・フランセーズ「大好きな人」
ヨーゼフ・シュトラウス
ポルカ・シュネル「花束」
プッチーニ
歌劇「蝶々夫人」~“ある晴れた日に”
グノー
歌劇「ファウスト」~“ヌビア人の踊り”と“宝石の歌”
ヨーゼフ・シュトラウス
ワルツ「ディナミーデン」

(休憩)

レハール
歌劇「ルクセンブルク伯爵」~ワルツと間奏曲
喜歌劇「メリー・ウィドウ」~“ヴィリアの歌”
ヨーゼフ・シュトラウス
ポルカ「小さい風車」
ポルカ・シュネル「休暇旅行で」
カールマン
喜歌劇「チャールダーシュの女王」~“ハイヤ!山こそ我が故郷”
ヨハン・シュトラウスII
ワルツ「美しく青きドナウ」

 

指揮は、この楽団の音楽監督をつとめている山下一史さん。

山下一史さんは、ここのところ、愛知室内オーケストラの音楽監督や大阪交響楽団の常任指揮者も務め、しかも、いずれの楽団も躍進が感じられる活躍ぶりです。

 

今回、私が千葉交響楽団を聴いてみようと思ったのも、指揮が山下一史さんだったからです。

また、このコンサートでは、ソプラノの小林沙羅さんが出演して、プッチーニ「蝶々夫人」、レハール「メリーウィドウ」、カールマン「チャールダーシュの女王」の3曲を歌いました。

 

プログラミングの問題

 

3曲目のヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・シュネル「花束」までは、本当に魅了されて、千葉交響楽団のニューイヤーコンサートはもっともっと音楽ファンが押し寄せて来るべき、お薦めのニューイヤーコンサートなんじゃないかと、気分が高揚したくらいでした。

 

けれども、それから先でいろいろと課題が見えてきました。

 

それが、何といっても、プログラミングの問題です。

私はこのコンサートの曲目を事前によく見ていなかったので、曲目解説もマイク片手に行っていた指揮者の山下一史さんが、4曲目にプッチーニの「蝶々夫人」の“ ある晴れた日に ”をやると紹介したときには、少々おどろきました。

ここまで、千葉交響楽団が派手な演奏を繰り広げていたならまだしも、丁寧な歌い口のオッフェンバック、ヘルメスベルガーとヨーゼフ・シュトラウスの素朴で絶妙なポルカ演奏と来て、どうして、ここでプッチーニなんだろうと。

 

そして、実際、このプッチーニで、音楽の流れがばっさりと切られてしまったように感じました。

おそらく、歌手の方のレパートリーなどを考えての結果だと思うのですが、ワルツやポルカのコンサートを中断しながら、オペラ・アリアのコンサートが挟み込まれてくるような「ちぐはぐなコンサート」へ、だんだんと変わっていってしまいました。

 

オッフェンバック
喜歌劇「美しいエレーヌ」序曲
ヘルメスベルガー
ポルカ・フランセーズ「大好きな人」
ヨーゼフ・シュトラウス
ポルカ・シュネル「花束」
プッチーニ
歌劇「蝶々夫人」~“ある晴れた日に”
グノー
歌劇「ファウスト」~“ヌビア人の踊り”と“宝石の歌”
ヨーゼフ・シュトラウス
ワルツ「ディナミーデン」

(休憩)

レハール
歌劇「ルクセンブルク伯爵」~ワルツと間奏曲
喜歌劇「メリー・ウィドウ」~“ヴィリアの歌”
ヨーゼフ・シュトラウス
ポルカ「小さい風車」
ポルカ・シュネル「休暇旅行で」
カールマン
喜歌劇「チャールダーシュの女王」~“ハイヤ!山こそ我が故郷”
ヨハン・シュトラウスII
ワルツ「美しく青きドナウ」

 

色を変えた部分が、本来であればオペラ・アリア・コンサートなどとして独立しているべき部分で、声楽が入る曲は、せめて「メリーウィドウ」くらいにして、あとは黒字の部分だけでコンサートを構成していたら、もっとずっとまとまりの良い、お薦めのニューイヤーコンサートになっていたのにと思います。

前半の最後には、ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「ディナミーデン」の素晴らしい演奏もあったり、聴きどころがいくつもあったのに、実に「惜しい…」というか、残念な気持ちになりました。

 

メインディッシュはどれ?

 

そうして、このプログラム全体を見渡した時に、やはり思うことは、「メインディッシュはどれ?」ということです。

 

前半であれば、おそらく「ディナミーデン」、後半であれば「美しく青きドナウ」がメインでしょう。

でも、「ディナミーデン」の前には、割って入った印象のあるプッチーニからグノーの流れが、そして、後半の「美しく青きドナウ」の前には、「ドナウ」よりずっと強烈で派手なカールマンのナンバーが置かれてしまっています。

このプログラミングでは、いったい何を聴かせたかったのか、それがわからなくなっています。

 

冒頭に演奏された、素晴らしいオッフェンバックのコーダのように、ここが「頂点」だという、はっきりとしたクライマックスがなければ、コンサートというのはなかなか楽しめません。

特に、こうした小品をあつめた曲数の多いコンサートでは、なおのこと、繊細なプログラミングが求められます。

 

山下一史さんは、愛知室内オーケストラでは実に機知に富んだプログラミングを披露されているだけに、残念に思いました。

音楽が込み合っているというか、プログラムに脈略が感じられず、おもちゃ箱をひっくり返したように雑然と感じられてしまいました。

 

 

さらに混迷していくアンコール

 

ただ、それどころではなく、さらに面喰ったのが、アンコールです。

 

千葉ロッテマリーンズの衣装にお色直しした山下一史さんが、「今日はゲストが来ています!」と紹介して登場したのが、千葉ロッテマリーンズのマスコットであるマーくんの着ぐるみとチアガールのおふたり。

ここで、千葉ロッテマリーンズの「We Love Marines」という球団歌が始まりました。

 

なるほど、「地域密着」ということでしょう。

でも、ついさっきまで演奏されていた、あの「美しく青きドナウ」の余韻はどうしたらいいのでしょう。

 

さらには、千葉県のマスコットキャラクター、チーバくんの着ぐるみが燕尾服姿で登場。

アンコール2曲目「ラデツキー行進曲」が始まりましたが、マーくんが指揮台にあがったり、チーバくんが指揮台にあがったり。

もう、あっという間に、何かの「イベント」に一変してしまいました。

 

純クラシック・ファンの私は、完全にアウェイな気持ちで取り残されてしまいました。

手拍子が促され、会場中に手拍子が鳴り響いていましたが、私は、とてもそんな気分になれません。

場違いなところに来てしまったような居心地の悪さ、居たたまれない気持ちで、ただただステージをながめていました。

 

でも、「場違い」といっても、たしかクラシック・コンサートだったはずで。

そもそも、このコンサートは、純クラシック・ファンはターゲットではなかったということでしょうか。

 

誰に、何を聴かせたいのか。

やはり、そこがよくわからないコンサートに感じられました。

 

 

軌道修正も必要では

 

最後に山下一史さんから、千葉交響楽団が近年コンサート数も増えて、楽団として波に乗ってきていること、そして、ホールの改修工事などで活動拠点が変わることも紹介されて、「これからの2年間でオーケストラとしての未来が決まっていく」旨のお話しがありました。

実際、コンサート数が増えているというのも納得の演奏内容でしたし、今回、初めてその演奏にふれて「応援したい」と素直に感じさせられたのも事実です。

 

ただ、あの混迷するアンコールに象徴されるように、いったい、楽団としてどこに向かおうとしているのか。

 

また、このコンサートをいったい誰に薦めればいいのか、とも考えてしまいます。

あの絶品のポルカをひとりでも多くのクラシック・ファンに聴いてほしいけれど、あのアンコールがあると思うと、純クラシック・ファンにこのコンサートは薦められません。

では、千葉ロッテマリーンズのファンに薦めればいいかというと、野球ファンならコンサート会場ではなく球場へ行くでしょう。

そうなると、「クラシックも嫌いではない千葉ロッテマリーンズのファン」という、限られたひとのためのコンサートということになります。

 

楽団を波の乗せるために、いろいろなポピュリズム活動も必要だったのかもしれませんし、観客がいっぱいだった会場をみても、その成果は感じられました。

ただ、山下一史さんのおっしゃる通りの道を行くなら、もう、軌道修正をしていい時期に来ているように思います。

真っ向勝負に出ていい時期でしょう。

 

ニューイヤーコンサートにしても、オーケストラのみで十分に勝負できる演奏内容です。

声楽を入れるにしても、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのように、極めて限られた曲数にしぼって、オーケストラを前面に出したプログラミングにしたほうがいいです。

 

まして、クラシックのオーケストラとして一級の仕事をしようとするのであれば、もう、マスコットキャラクターを登場させる必要もありませんし、野球の応援歌も必要ありません。

野球の応援歌を見下しているのではなくて、同列に並べられてしまうと、ヨーゼフ・シュトラウスのノスタルジーや絶品のポルカの鄙びた余韻などは、あっという間に吹き飛ばされてしまうことです。

 

ただ、あくまで、ここに書いていることは、純クラシック・ファンの視点からの感想です。

もちろん、そうではなくて、地域密着型のイベントオーケストラの立ち位置を目指すのであれば、この路線で正しいのだと思います。

 

でも、純クラシック・ファンの私からすると、あれほどのポルカやワルツを聴いてしまって、せっかくなら、それだけを、心ゆくまでゆったりと楽しめたら、何て幸せなことだろうと思わずにはいられません。

ステージには、ほんとうにきれいに花が飾られていて、その趣味のよさも期待を抱かせるものだっただけに、何かとても残念に思われました。

 

 

今後の千葉交響楽団の予定

 

ブログ執筆時の2023年1月15日時点では、楽団の公式ホームページに、まだ2023年度の演奏会予定がアップされていませんが、パンフレットにチラシが挟まっていましたので、そのなかから、私が気になったコンサートをピックアップしてご案内させていただきます。

5月27日(土)14:00@市川市文化会館
J・C・バッハ:シンフォニア変ロ長調op18-2
モーツァルト:ホルン協奏曲第3番変ホ長調k447
(Hr,大森啓史 楽団ホルン奏者)
ベルリオーズ:幻想交響曲

10月28日(土)14:00@千葉市民会館
ラヴェル:組曲「クープランの墓」
ジョリヴェ:打楽器とオーケストラのための協奏曲
(perc,斎藤綾乃 楽団perc奏者)
ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調

2014年1月13日(土)14:00@市川市文化会館
ニューイヤーコンサート2024(S,中畑有美子)
※軌道修正されれば、ほんとうにマーク付きで推薦したいコンサートですが、現状のままであれば、純クラシック・ファンにはお薦めしにくいです

2024年2月17日(土)14:00@君津市民文化ホール
【オール・モーツァルト・プログラム】
歌劇「後宮からの誘拐」序曲
ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」
(Vn,堀正文 元N響コンサートマスター)
交響曲第41番ハ長調「ジュピター」

 

最後のモーツァルト・プログラムがいちばんお薦めではないかと予想しています。

この楽団のモーツァルトは、きっと、とても凛とした、格調のある音楽になるような気がします。

 

千葉交響楽団、演奏そのものは魅力的だったので、また機会を見つけて聴きに行きたいと思っていますが、ほんとうに惜しいニューイヤーコンサートでした。

宝物をみつけたような気分だったので、ちょっと悔しいくらいです。

千葉交響楽団のみなさん、応援しています。

 

お薦めのコンサートについては、「コンサートに行こう!お薦め演奏会」のページでいろいろとご紹介しています。

 

 

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