今回は“ピアノの詩人”ショパンの名曲を3曲。
演奏者にもしっかりこだわって、是非聴いてみてほしい3人のピアニストでご紹介します。
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ノクターン変イ長調 Op32-2(グレゴリー・ソコロフ)
別に海外へ行かなくても、たいていの世界的音楽家を直接体験することが現代の日本では可能です。
コロナ禍で今は例外ですが。
でも、なかには日本へまったく、もしくは、なかなか来ない演奏家もいます。
指揮者でいえば、イギリスの名指揮者ジョン・エリオット・ガーディナー、もう20年ほど来日していないのではないでしょうか。
そして、ピアニストではここでご紹介するロシア出身のピアニスト、グレゴリー・ソコロフがその代表格でしょう。
私がブログでご紹介するものは、なるべく公式のもの、著作権の問題を含んでいないであろうものに限定しています。
YouTubeにはそれを無視すればたくさんの動画があるのですが、しっかりと選ぶと意外と限定されてしまいます。
そのなかで、このソコロフのショパンを見つけたときは素直にうれしかったです!
ソコロフにしかできないショパン
この曲をすでに知っている人ほど、新鮮に感じるはずです。
少しつやを消したような響き、それでいて、どこまでも丸みをおびた柔らかな美しい音。
そして、それを支える、左手の深い響き。
旋律が華麗になるのを嫌うかのように、ややゆっくりとしたテンポで一歩ずつ進んでいく右手。
無骨とさえ感じさせるギリギリのところで流れていく音楽。
それでいて、ダイナミクスの振幅がとても大きく、曲の中間部を中央に大きなクレッシェンドとデクレッシェンドで、全体でひとつの大きなアーチを描いてみせています。
中間部のテンポをぐっとおさえたことで、曲の後半のデクレッシェンドがこれ以上ないほどに際だっています。
フォルテッシモで始まった再現部の主題はいつの間にかだんだんと静けさに支配されはじめ、最後にはそっとささやくようなピアニッシモのなかに消えていきます。
夢見るような弱音。
これはもう、世界で彼にしかできないショパンといっていいのではないでしょうか。
是非、YouTubeで公開されている動画で体験してみてください。
演奏されているのは、ショパンのワルツ変イ長調。
この曲はショパンのピアノ曲をもとにしたバレエ音楽『レ・シルフィード』のなかでも使われています。
このショパンをふくむ2019/20のツアーはアルバム化(CD&DVD)されています。
ポロネーズ第6番変イ長調『英雄ポロネーズ』Op53(マルタ・アルゲリッチ)
マルタ・アルゲリッチはアルゼンチン出身、現在のピアノ界の女王といっておそらく異論を唱える人はほとんどいないであろう大ピアニストです。
演奏は豪快にして繊細。世界で一番チケットがとりにくいピアニストとも言われたりしますが、日本は恵まれていて、大分県の別府市では「別府アルゲリッチ音楽祭」というフェスティバルが毎春開催されています。
2021年は中止が決まったようですが、コロナが収まれば再会できますというアルゲリッチの心優しいメッセージが公式HPで公開されています。
圧倒的な印象、アルゲリッチとの出会い
私が初めてアルゲリッチの名前を知ったのはCD屋さんでもらったレコード会社の非売品CD。
音楽の歴史を、名曲のさわりとアナウンスで紹介していく内容のもので、クラシックの知識に飢えていた当時小学6年生の私には宝物でした。
その中で、ショパンの英雄ポロネーズが紹介され、その演奏がここにご紹介するアルゲリッチの1965年の録音でした。
すごい迫力で、一度聴いてすぐにアルゲリッチの名前も覚えてしまいました。
しばらくは、この演奏以外の英雄ポロネーズは聴けなかったくらいお気に入りの演奏になりました。
アルゲリッチ、20代半ばの若さ溢れる名演奏を聴いてみてください。
( AppleMusic、Amazon Music、LineMusic、Spotify↓などで聴くことができます。CDも出ています。)
バラード第1番ト短調Op23(ウラディーミル・ホロヴィッツ)
演奏時間およそ10分とはいえ、内容から見ても大作です。
しばらく前は、ほんとうにクラシックを好きで聴いている人でなければ知らない作品だったと思いますが、フィギアスケートやアニメなど様々な分野で使われてから、クラシックを普段聴かない人にも知られるようになったショパンの傑作です。
この曲はショパンが20代前半に書いた代表作のひとつ。
「諸君、脱帽したまえ!ここに天才がいる」と、ショパンの天才を広く紹介する有名な記事を書いた作曲家シューマン(2人は同い年!)は、このバラード第1番がショパンの作品のなかで一番好きだと述べてます。
伝説のピアニスト、12年ぶり伝説のコンサート
ここでは自信をもって、ウラディーミル・ホロヴィッツの名演奏をご紹介します。
ホロヴィッツはロシア出身、20世紀の大ピアニストのなかの大ピアニスト。
いろいろな事情でしばしばキャリアを中断することのあった人で、ここで紹介するものは12年ぶりにコンサート活動を再開したときのライヴ音源です。
カーネギーホールで行われたそのコンサートは、「ホロヴィッツ・ヒストリック・リターン」として有名で、そのメインの曲としてショパンのバラード第1番が演奏されています。
およそピアノという楽器ができることをすべてやっているかのような、圧巻の名演奏です。
あるときは激情にかられたようにドラマティックに、あるときは煌めき、そしてあるときはささやくように。
どんなに豪快にピアノが鳴っているときでも、一瞬たりとも繊細さは失われない、その緊張感。
これをひとりの人間がステージ上で孤独に実現するということを考えると、彼が心身のバランスをくずし度々キャリアを中断したことも十分にうなずけます。
一度聴いたら忘れられない、究極の名演奏のひとつです。
( AppleMusic 、 Amazon Music、Spotifyは↑、LineMusic などで聴くことができます)
というわけで、今回は3つのショパン、3人のショパンをご紹介しました。
アルゲリッチとソコロフのふたりについてはまだ生演奏で聴ける機会もあると思うので、機会がみつかったら是非コンサートへ足を運んでみてください。
ソコロフ、いつか再び日本へ来てくれるとうれしいのですが。