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第1、第2楽章を聴いていて、本当に素晴らしい指揮者だと聴き惚れました。
でも、第3楽章になって、とんでもない、このひとは“ 凄い ”指揮者なんだと気づきました。
ドイツの名匠ローター・ツァグロゼク、御年82歳。
コロナ禍、さらに、ご本人の体調不良によるキャンセルもあって、6年ぶりの読売交響楽団への登場となりました。
2025年2月7日(金)19:00@サントリーホール、読売日本交響楽団の第645回定期演奏会のレビューをつづります。
目次(押すとジャンプします)
ローター・ツァグロゼク Lothar Zagrosek(指揮)
読売日本交響楽団
ブルックナー交響曲第5番
祝祭のひびき
私がはじめて彼の存在を知ったのは、彼がN響を指揮してベートーヴェンの5番をやったのをテレビで観たとき。
いつか聴きに行こうと思っているあいだに、長い月日が流れてしまいました。
今回は、ブルックナーの交響曲第5番変ロ長調という大曲がプログラムされました。
第1楽章冒頭のピチカートから、ホールは、豊かな響きで満たされました。
それはまさに“ 祝祭 ”、あるいは、“ 祝福 ”というべき響き。
この人は、その指揮ぶりからもうかがえるように、音楽に自然な躍動をあたえます。
きっと若いころは、即物主義的な、ザッハリッヒカイトな音楽を作っていたのではないでしょうか。
オーケストラを豊かに鳴らすものの、その音は決して重くなく、それゆえに、各声部の動きがくっきりと浮かびあがります。
そして、さらに82年という年輪と豊かなキャリアの成せる業なのか、音楽に自然な広がりとゆとりがあって、様々なニュアンスが豊かに描き出されていきます。
冒頭に書いた通り、第1、第2楽章だけでも、十分に心満たされましたが、心底驚かされたのは、第3楽章でした。
木々の響き、森の歌
第3楽章スケルツォ。
推進力のある、アグレッシブな音楽として、いつも耳に届いてくる音楽。
もちろん、ツァグロゼクの演奏もそうした性格で始まりましたが、間もなく、ほんの気持ちだけゆったりとテンポになり、そこから引き出されたのは、目から鱗が落ちるほど豊穣な音楽でした。
風に揺れる田畑の風景。
大地に根差し、地に足をつけて暮らす、人間らしい人間たちの歌、そして、踊り。
動物たちが踊り、憩い、木々が奏でる、森の歌。
素朴ななかの、豊かな響き。
ブルックナーは方言丸出しの田舎人だったと伝記でよく目にしますが、まさに、ドイツの原風景を吹き抜ける音の数々。
この楽章が、これほどあたたかな生命感をもって、ベートーヴェンの田園の精神に通じるような、自然の賛歌として響いてきたのは初めてのことでした。
というより、本来の「ドイツ音楽」というのは、こういう温かな、より素朴で、人間的な質感を持っていたのではないか。
そうなると、この楽章どころか、もっと様々な音楽について見直さなければならないのではないか。
科学技術の進歩、AIの急激な進化で、何もかもが変革され、やがて人間のほうがロボットに同化してしまいそうな現代にあって、すっかりと見失っていたものに気づかされる、それほどの発見と驚きがありました。
チェリビダッケの「ブルックナーはいまだ初演されていない」という、含蓄ある言葉を思い起こします。
第3楽章は、リピートも多く、下手をすると推進力を失いかねない音楽で、それゆえに、アグレッシブな演奏が多くなるわけですが、ツァグロゼクは信じがたいほどの、まるで奇跡のような音楽を描き出しました。
ほかの楽章ならまだしも、それを第3楽章でやってのけた。
脱帽です。
これは大袈裟ではなく、こちらの音楽の聴き方を変えられるほどの、生涯忘れられない体験になりました。
終楽章、実直なスケール感
第4楽章も非常に豊かな音楽であふれ、かつ、終楽章としての高揚感もあわせもち、最後の最後まで、この作品の世界に浸ることができました。
ブルックナーはどの楽章であれ、移行句のない、休止符だけでの楽想の転換が多い作曲家ですが、それを自然に、まったく無理なく、音楽的に処理していく手腕の確かさは、彼の長く、ゆたかなキャリアを物語っていました。
たいていの演奏で迷路に迷い込み、音楽が一瞬弛緩してしまう終楽章後半のフーガの難所も、ニュアンス豊かに、じつに音楽的な処理がなされ、音楽は一貫した緊張と発展を維持していました。
これは本当に凄いことです。
そして、この交響曲は、最後の最後にたいへん壮麗なコーダがあって、そこがこの交響曲の到達点であり、結論であり、この作品の大きな大きな魅力になっていると感じていますが、ツァグロゼクは、声高に主張することなく、やはり自然なスケール感でもって、広がりのあるクライマックスを描きました。
もし彼が、もっともっとオーケストラを豪快に鳴らしきって、巨大で、圧倒的なクライマックスを造形するひとであったなら、彼の名声は今とは比較にならないくらい大きなものになったのではないかと容易に想像できますが、誰も彼もが大輪の花を咲かせる必要もありません。
その指揮と同様、きっと実直で、素朴なひとなのでしょう。
そして、ブルックナーの音楽には、そういう一面もまた、真実としてあるわけで、作品のひとつのあるべき姿として、立派なコーダとなっていました。
素晴らしかった読売日本交響楽団
そう、読売交響楽団のすばらしい演奏についても書いておかなければいけません。
開演前、ステージからフルートの素晴らしい音が響いてきた時点で耳をひかれましたが、弦楽器群の柔らかく流麗な響き、ブルックナーに欠かせない金管の輝きなど、オーケストラの好調ぶりを強く印象づけられました。
なかでも、まるで往年の巨匠オットー・クレンペラーのように、ツァグロゼクが重視した“ 木管楽器 ”。
その響きの豊かさは特筆されるもので、この日の演奏を決定づけていたと言えるかもしれません。
どちらかというと、私のなかでは暗い響きが印象的だったオーケストラでしたが、今回の公演では、むしろやわらかな響きが印象的で、この楽団のパレットの広さを教えられました。
本当にここ10年ほどで、日本のオーケストラは見違えるほど素晴らしくなりました。
ローター・ツァグロゼク賛
ローター・ツァグロゼク、たいへんな名指揮者です。
素晴らしい指揮者だと思っていましたが、これほどの方だとは思っていませんでした。
今回の来日で組まれたもう一方のプログラム、シューマンとモーツァルトの演奏会も、無理をおしてでも聴きに行くべきだったと悔やんでいます。
ツァグロゼク、次はいつ日本に来てくださるでしょう。
御年82歳。
終楽章の途中で咳込まれたときには、客席でちょっと心配になりました。
今後も末永いご活躍をお祈りしたい、本物の指揮者です。
今回の公演では、舞台上にマイクが吊り下げられていたので、もしかしたらレコーディングがされていたかもしれません。
ツァグロゼクは、その実力に比して必ずしもレコーディングに恵まれている指揮者とは言えないので、この素晴らしい公演の記録が残されているとしたら、彼にとっても素晴らしいことだと思います。
彼と読売日本交響楽団は、ブルックナー交響曲第7番の録音がすでにリリースされているので、これに続いて第5番の登場もあるか、心待ちにしています。
もし出たら、必ず買います。
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