シリーズ〈小澤征爾さんで音楽史〉

小澤征爾さんで出会う大作曲家50人(第3回)パガニーニからショパン

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日本のクラシック音楽をけん引した「世界のオザワ」こと、指揮者の小澤征爾(おざわ・せいじ、1935-2024)さん。

このシリーズでは、小澤征爾さんの録音で50人の作曲家にふれながら、クラシック音楽の歴史を旅します。

 

この機会に「クラシック音楽を聴いてみよう」という方向け、クラシック入門シリーズです。

シリーズ一覧はこちらのページで確認できます。

 

11:ニコロ・パガニーニ(Niccolò Paganini, 1782-1840)

音楽史にあたえた衝撃

 

18世紀後半、イタリアに、ヴァイオリンの超絶技巧の名手ニコロ・パガニーニ(Niccolò Paganini, 1782-1840)が登場します。

 

彼の超絶技巧があたえたショックは、とても大きなもので、その名声は、ヨーロッパ全土を駆け巡ります。

そのヴァイオリンを耳にしようと、シューベルト(Franz Peter Schubert, 1797-1828)は家財道具を売り払い、演奏会に出かけています。

法律の道と音楽の道で迷っていたシューマン(Robert Schumann、1810-1856)は、パガニーニのヴァイオリンを聴いて、音楽家になることを決めました。

そして、リスト(Franz Liszt, 1811-1886)は、パガニーニの超絶技巧をピアノで実現しようと猛練習をして、自身も大ヴィルトゥオーゾになりました。

 

作曲家としても名作を残し、特に「24のカプリース」は、後世、ブラームス(Johannes Brahms、1833-1897)やラフマニノフ(Sergei Rachmaninov, 1873-1943)がその旋律をもとに「変奏曲」を書くなど、おおきなインスピレーションを与えました。

 

しかし、パガニーニのあまりの巧さに、やがて「悪魔に魂を売ったにちがいない」という噂が、まことしやかに広まってしまいます。

パガニーニは生まれつき病弱で、57歳で亡くなります。

死後、悪魔にむすびついた噂が原因で、教会から埋葬をことわられ、お墓の場所が落ち着くまでに35年以上もかかりました。

 

小澤征爾さんで聴くパガニーニ

 

常動曲

 

小澤征爾さんが録音した、おそらく唯一のパガニーニ作品が「常動曲 op11」です。

文字通り、細かな音符で常に動きつづける、パガニーニらしい音楽です。

 

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この作品は、そこまでポピュラーな曲目ではないのですが、サイトウ・キネン・オーケストラの原点である「齊藤秀雄メモリアルコンサート1984」でも演奏されているので、何かしら、小澤征爾さんの師である齊藤秀雄さんにゆかりのある曲なのかもしれません。

 

 

 

12:フランツ・リスト(Franz Liszt, 1811-1886)

“ 鍵盤の魔術師 ”

 

「ラ・カンパネラ」などのピアノ曲で知られるフランツ・リスト(Franz Liszt, 1811-1886)

20歳になる年に、ヴァイオリンの鬼才パガニーニ(Niccolò Paganini, 1782-1840)の演奏を聴き、その超絶技巧をピアノに応用しようと猛練習に励み、大ピアニストになりました。

 

初見で弾けなかったのは、1歳年上のショパン(Frédéric François Chopin、1810-1849)が作曲した「12の練習曲 Op10」だけだったと言われます。

それも数週間後には見事に弾きこなしてしまったそうで、驚いたショパンは、この作品をリストに献呈しました。

 

 

「交響詩」の創始者

 

リストは作曲においても、新時代を切り開きます。

ベルリオーズが得意とした標題音楽を「交響詩」という新しいジャンルに昇華させました。

 

また、リストの作品は、その超絶技巧ゆえに和音は多彩で複雑になり、そこから生まれた新しい響きは、特に、2歳下のワーグナー(Richard Wagner, 1813-1883)に多大な影響をあたえています。

 

レッスン料は無料

 

リストについて、さらに感心してしまうのが、数多くの弟子を育てたものの、レッスン料をいっさい取らなかったということです。

芸術家が自身の演奏活動以外からお金を稼ぐことをよしとせず、無料で指導をしていました。

しかも、教師としてたいへん優秀で、生徒の個性を引き出すこと指導をおこなっていたと伝えられています。

 

小澤征爾さんで聴くリスト

 

ピアノ協奏曲第1番

 

小澤征爾さんが、ポーランド出身のクリスチャン・ツィメルマンと共演した、リストの「ピアノ協奏曲第1番」をご紹介します。

冒頭から、ダイナミックなピアニズムがさく裂する、まさにリストならではの作品です。

 

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13:リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner, 1813-1883)

 

ドイツ音楽史の大物

 

19世紀のドイツ音楽史に、ひときわ大きな存在としてそびえる一人が、リヒャルト・ワーグナー(Richard Wagner, 1813-1883)です。

長大なオペラ作品を数多く生み出し、また、革新的な和声で新しい表現を切り開き、音楽史に大きな影響と衝撃を与えました。

 

オペラの台本も自身で書きあげるなど、オペラを音楽だけでなく、演劇、美術、文学と融合させた“ 総合芸術 ”である「楽劇」へと拡大。

代表作のひとつである「ニーベルングの指輪」は、上演に4晩かかる連作の楽劇で、合計すると上演時間は15時間にも及びます。

 

彼は、音楽的にも、そして、人間的にも、その強烈すぎる個性で、多くの敵と多くの信奉者を生みました。

ワーグナーの音楽に心酔する人々は、当時も今も「ワグネリアン」と呼ばれています。

 

聖地バイロイト

 

1876年、ワーグナー63歳の年に、彼の理想を実現するための「バイロイト祝祭劇場」が完成します。

現在でも、ここはワグネリアンにとっての聖地。

 

毎年7月から8月にかけて行われる「バイロイト音楽祭」では、ワーグナーの歌劇、楽劇ばかりが上演され、世界中からワグネリアンが集まります。

たいへんな人気で、世界で最もチケットが手に入りにくい公演のひとつです。

 

ポニョ

 

二度目のアカデミー賞で話題の宮崎駿監督。

彼のアニメ映画「崖の上のポニョ」には、「ニーベルングの指輪」のストーリーが取り込まれています。

なぜポニョが来ると世界は水浸しになるのか~クラシック音楽好きが見る『崖の上のポニョ』

 

小澤征爾さんで聴くワーグナー

 

ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲

 

小澤征爾さんには、名門ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と1989年に録音した「ワーグナー・アルバム」があります。

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そのなかから、堂々たる音楽が広がる、楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲を。

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14:ヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms、1833-1897)

 

ベートーヴェン、シューマンの後継者

 

19世紀のドイツにおいて、革新的なワーグナー(Richard Wagner, 1813-1883)と天下を二分したのが、より古典的な作風のヨハネス・ブラームス(Johannes Brahms、1833-1897)でした。

 

特に、彼が残した4つの「交響曲」は、今も、最も頻繁に世界中のコンサートで演奏されつづけているもののひとつ。

ベートーヴェンの9つの交響曲につづく存在として、そびえ立っています。

交響曲のほかにも、協奏曲、室内楽曲、ピアノ曲、声楽曲など、オペラ以外の様々なジャンルに傑作を残しました。

 

驚くのが、そのどれもが、高い完成度と音楽的な充実を誇っていることです。

それもそのはず、完璧主義的なブラームスは、後世に残すべきではないと自身で判断した作品はどんどん破棄したと伝えられています。

弦楽四重奏曲は4曲残されていますが、研究者によると、このほかに、破棄されたものが20曲はあっただろうということです。

 

ドイツ三大B

 

ブラームスの音楽は、どこか“ 秋 ”を感じさせるものが多く、憂愁をおび、憂いに満ちた表情をもっています。

いっぽうで、ベートーヴェンに強い憧れと敬意をもっていた彼らしく、力強さと確固たる構成感もあわせもっています。

 

ドイツ音楽の伝統を真正面から受け継いだブラームス(Brahms)は、バッハ(Bach)ベートーヴェン(Beethoven)とならべられ「ドイツ3大B」と称えられています。

 

小澤征爾さんで聴くブラームス

 

ハンガリー舞曲集

 

小澤征爾さんは、非常にブラームスを得意としていて、非常に多くの録音が残っています。

まずは、ブラームスの作品で、もっとも耳馴染みがあると思われる「ハンガリー舞曲集」から第5番を。

 

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第5番に親しんだら、是非、第1番や第10番にも進んでみてください。

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交響曲第1番ハ短調

 

小澤征爾さんがもっとも大切にしていたレパートリーだと思われるのが、ブラームスの交響曲第1番ハ短調です。

作曲におよそ20年が費やされたと伝わる、ブラームス渾身の名作です。

 

サイトウ・キネン・オーケストラとは1992年の第1回サイトウ・キネン・フェスティバルでも取り上げましたし、複数のレコーディングが残っています。

ここでは、サイトウ・キネン・オーケストラとの1回目の録音である1990年、ドイツでレコーディングされたものをご紹介します。

 

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15:ヨハン・シュトラウスⅡ世(Johann Strauss II、1825-1899)

 

ワルツ王

 

子どもには優しかったものの、大人に対しては気難しく、なかなか心をひらかなかったと伝わるブラームス

そんなブラームスが、例外的に親しく交流していたのが、“ ワルツ王 ”と呼ばれるヨハン・シュトラウスⅡ世(Johann Strauss II、1825-1899)です。

 

とりわけ「美しく青きドナウ」はオーストリア第2の国歌とまで言われる名曲。

ブラームスは「残念なことだ、この旋律はブラームスの作品ではない」とまで書き残しています。

 

シュトラウス・ファミリー

 

19世紀、音楽の都ウィーンで流行した三拍子のダンス音楽が「ウィンナ・ワルツ」。

その「ワルツの父」とされるのが、ヨハン・シュトラウスⅠ世(1804-1849)

そして、その息子が「ワルツ王」ヨハン・シュトラウスⅡ世(1825-1899)です。

 

父ヨハン・シュトラウスⅠ世が亡くなると、父の仕事もまとめて引き受け、ヨハン・シュトラウスⅡ世は大忙しとなります。

そこで、さらに兄弟たちに助けをもとめ、次男のヨーゼフ・シュトラウス(1827-1870)、末弟のエドゥアルド・シュトラウス(1835-1916)も音楽の世界に飛び込み、「シュトラウス・ファミリー」による、ワルツの黄金時代がきずかれることになりました。

ヨーゼフ・シュトラウスの作品を年代順に~路面清掃車も発案した作曲家【オーケストラ入門】

 

小澤征爾さんで聴くヨハン・シュトラウスⅡ世

 

美しく青きドナウ

 

オーストリアでは、毎年の元旦に、名門ウィーン・フィルがシュトラウス・ファミリーの作品をあつめた「ニューイヤーコンサート」を開催し、その模様は全世界へテレビ中継されます。

ウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートの指揮者たち~小さな試聴室

 

小澤征爾さんは、2002年にそのニューイヤーコンサートに、日本人としては初めて出演しました。

ここでは、そのときの「美しく青きドナウ」をお届けします。

 

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番外:フレデリック・フランソワ・ショパン(Frédéric François Chopin、1810-1849)

ピアノの詩人

 

誰もが知る作曲家のひとりでありながら、音楽史の面でいうと当然変異的な存在なのが、フレデリック・フランソワ・ショパン(Frédéric François Chopin、1810-1849)です。

ほとんどピアノ曲しか書かなかったという特異性はもちろん、音楽史的な系譜がいまひとつはっきりとしない、前にも後にも同じ系統の作曲家が見当たらない、めずらしい作曲家です。

 

ポーランドに生まれた彼は、ピアノのヴィルトゥオーゾとしてフランスのパリにやってきます。

この地でピアニストとしても作曲家としても成功しますが、生まれつき病弱だったこともあり、公開でおこなったリサイタルは生涯でたった30回程度。

ショパンがピアノを弾いたのは、ほとんどがサロンでの演奏でした。

 

「諸君、脱帽したまえ、ここに天才がいる」とショパンをたたえた同い年のシューマン(Robert Schumann、1810-1856)は、ショパンの音楽は花畑のなかに大砲が潜んでいると評しています。

繊細な抒情性、情熱、そして、祖国ポーランドへの愛国心が反映されているような激情的な側面とを、見事にとらえた言葉です。

 

小菅優さんで聴くショパン

 

ショパンを「番外」としてここに扱ったのは、小澤征爾さんの録音のなかにショパン作品が見当たらないからです。

コンサートではピアノ協奏曲などを指揮していたので、これもたまたま、ということになるでしょう。

 

ここでは、小澤征爾さんとしばしば共演していたピアニスト、小菅優さんの演奏でショパンの「12の練習曲 op.10」から第3番“ 分かれの曲 ”をご紹介しておきます。

 

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