※当サイトはアフィリエイトを利用しています。
2026/09/20
週刊MASSE 9月2号
寅さんと「冬の旅」
映画の終盤、とらやの茶の間にみんなが集まってどんちゃん騒ぎの宴会がはじまっています。
祝いの席です。
やがて、周囲に歌うよう促されたひとりの男声が「それでは、私が学生時代によく歌った歌を。シューベルトの冬の旅から」。
「待ってました!」「ほらよっと!ほらよっと!」、宴会の勢いでタコ社長は合いの手を入れます。
そして始まるシューベルトの「菩提樹」。
「泉に〜添いて〜♪茂る~菩提樹~♪」
呆気にとられる、とらやの面々。
おいちゃんは「こら大したもんだよ」と姿勢を正します。
やがて、自分の恋がやぶれたことを知ったばかりの寅さんがやってきて、「あれ 何ていう歌?」と。
「シューベルトの冬の旅んなかの“菩提樹”」と教えられ、「⋯冬の旅か」としみじみ呟く寅さん。
その歌声を背に、寅さんはひとり中庭へ出て、夜風に吹かれます。
シューベルトの「冬の旅」は、恋破れた若者が旅に出て、幸せな過去を思い出しつつも、何の救いもなく、絶望とともに冬のなかをさまよう歌曲集。
学のない寅さんが、おそらく初めて聴くであろう「冬の旅」にしぜんと耳をうばわれる。
選曲の妙に、映画を観ていてうなってしまいました。
これは映画「男はつらいよ」のシリーズ第20作『男はつらいよ 寅次郎頑張れ!』のなかの一場面。
寅さんに「冬の旅」を聴かせるという、この素晴らしいアイデアは監督の山田洋次さんのものなのか、あるいは、音楽をずっと担当した山本直純さんのものなのか。
いずれにしても、よくぞ寅さんに「冬の旅」を聴かせてくれたと思います。
( Apple Music ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
ただ、シューベルトの「冬の旅」はほんとうに絶望的な歌曲集。
さすがに救いがなさすぎると思ったのでしょうか。
映画の幕切れ、旅先の寅さんは以前に出会った旅芸人の一座と再会します。
そのときには宣伝カーのスピーカーから「カルメン」の“ 闘牛士 ”のメロディが流れています。
映画では歌詞は入っていませんが、この明るく勇壮な旋律にのって歌われるのは「闘牛士よ、恋がお前を待っている!」という歌詞。
こっちは、きっと寅さんへのエールでしょう。
やるなぁ、山田洋次さん(それとも、山本直純さん?)。
( Apple Music ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
わたしは寅さんのシリーズが大好きなので、この作品も何度か観たはずなんですが、こうした音楽面での仕掛け、隠し味があることには今回まで気づきませんでした。
もちろん、私の勝手な深読みということもあるかもしれませんが、でも、この読みに関してはかなり当たっている気がします。
この映画では、このほか、冒頭の夢のシーンで、ハイドンの弦楽四重奏曲「ひばり」が演奏されたりします。
べつにそうした名曲を意識して見ることを意図された作品ではないのでしょうが、クラシック音楽ファンには格別うれしい作品のひとつになっています。
青木尚佳さんのトリオ公演
10月上旬に、ミュンヘン・フィル初の女性コンサートマスターをつとめている青木尚佳さんの弦楽三重奏の公演があります。
2023年のこのトリオの公演を実際に聴きましたが、非常に正攻法の、誠実な音楽家たちによるアンサンブルです。
➡2023年公演のレビュー「ドイツの名門オーケストラが初の女性コンサートマスターとして迎えた日本人ヴァイオリニスト」
他ではなかなか聴けない、上質の室内楽公演になるはずです。
今回はベートーヴェンの弦楽三重奏曲にはじまり、御年100歳のルーマニアの現代作曲家クルターグの作品をはさんで、メインディッシュにバッハ:ゴールドベルク変奏曲(シトコヴェツキーによる弦楽三重奏版)が選ばれています。
青木尚佳さんの美音で聴く「ゴールドベルク変奏曲」は、“ 室内楽のよろこび ”をはっきりと感じさせてくれるかもしれません。
各地で6公演が予定されていて、まだ購入可能な公演もあります。
お薦めです。
ヴァン・カイック弦楽四重奏団も再来日します
フランスを拠点とする、比較的若い弦楽四重奏団、ヴァン・カイック弦楽四重奏団が再来日します。
2024年に実演を聴きましたが、現代のカルテットらしい踏み込みの鋭さはもちろんですが、それ以上に、彼らが作品に対して、あくまで謙虚で献身的だったことが思い出されます。
私はそうした、作曲家やその作品への謙虚さを失っていない音楽家を敬愛します。
➡ヴァン・カイック弦楽四重奏団 日本公演2024~大成を予感させるフランスの新しいカルテット
今回は各地で3公演がおこなわれるようで、こちらも10月上旬。
富士静岡交響楽団が東京で公演
11/30(月)19:00@東京オペラシティで、高関健(指揮)富士静岡交響楽団の東京公演がおこなわれるようです。
演目は、ブルックナーの交響曲第5番。
このところ、いわゆる地方オーケストラと言われる楽団の隆盛がめざましいように感じています。
まだ実演は聴いていないのですが、この楽団もその典型の一つだと思っています。
勢いを感じる楽団の注目公演です。
イモジェン・クーパーのモーツァルト
NHK-FM「ベストオブクラシック」の先週の特集は「モーツァルトのピアノ協奏曲を聴く」というもの。
最終日の回では、イギリスのピアニスト、イモジェン・クーパーの弾くモーツァルトのピアノ協奏曲第27番が紹介されました。
今年77歳のクーパー、まもなく引退することが発表されていて、今はフェアウェル・ツアーの最中のようです。
数年前に来日公演が予定されていたのですが、日本には来たものの、公演前日に転倒、骨折されて公演はすべてキャンセル。
それ以降、再来日のアナウンスがないので、もしかしたら、このまま来日はないのかもしれません。
さびしいことです。
私が彼女の存在を知ったのは、テレビでN響とモーツァルトのピアノ協奏曲を弾いていたのを観たとき。
とても素晴らしいモーツァルトで、いつか実演を聴きたいと思っているのですが、いまのところ叶わぬ夢になっています。
クーパーはシューベルト弾きとして有名なピアニストですが、私にとっては、まず何よりモーツァルト弾き。
このラジオでの第27番でも、あくまで自然体の、ピアノの豊かな響きをいかした、美しさと優しさがいっぱいのモーツァルトが紡がれていました。
こういうモーツァルトは今や、なかなか耳にできないものになりつつあります。
らじるらじるのアプリで、1週間は聴き逃し配信があります。
彼女はずっと以前、弾き振りでモーツァルトの協奏曲集をいくつか録音していて、そちらもまたお薦めです。
ここでは、わたしが大好きな第23番と第9番「ジュノム」のアルバムをご紹介しておきます。
( Apple Music ・ Amazon Music ・ Spotify ・ Line Music などで聴けます)
MASSE(まっせ)
クラシック音楽を長く聴き続けています。コンサートにも足を運び、良かった演奏も、期待外れだった演奏も、自分の耳で聴いて感じたことを大切に書いています。「自分なら本当に聴きたいか」を基準におすすめ公演やレビューを発信しています。クラシック音楽ブログArtoneMagアートーンマグは2021年5月スタート、2023年4月に月間86,000pv到達。感想など「お問い合わせ」ページから送ってください。










