エッセイ&特集、らじお

わたしが聴いた小澤征爾~「世界のオザワ」は本当にすごかったのか

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この写真はタングルウッドにあるSeiji Ozawa Hall、セイジ・オザワ・ホール

 

わたしのブログでは、「お薦めコンサート情報」というページをもうけて、毎月のおすすめのコンサートを紹介していますが、そのサムネイル画像として、2024年はこちらを使用させてもらっています。

2022年はウォルト・ディズニー・ホール、2023年はロイヤル・アルバート・ホールの写真を使用しましたが、今年はなぜか、この小澤征爾さんの名前を冠したホールの写真に強くひかれて、これを使うことに決めました。

2024年2月、小澤征爾さんの訃報にふれて、今年がそういう年になったことに不思議なものを感じます。

小澤征爾さんは本当に凄かったのか

 

わたしが小澤征爾さんの生演奏を聴くことができたのは、2009年新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮してのコンサートの1回だけです。

たった1回だけですが、私にとっては大切な思い出です。

今回は、その思い出をつづって、小澤征爾さんをしのびたいと思います。

 

世界のオザワ

 

プログラムは、前半がブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調(Vnソロ:崔文洙)、後半がプロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット」第2組曲、アンコールが「ロメオとジュリエット」から“ ティボルトの死 ”というものでした。

先に書いた通り、小澤征爾さんの実演にふれたのはこの1回だけでしたが、この1回で、私なりに、小澤征爾さんがどうして「世界のオザワ」とまでの称賛を得ているのかは、はっきりとわかりました。

 

「小澤征爾って、ほんとうに凄いの?」と聞かれるたびに、私はいつも「ほんとうに凄いよ」と断言しています。

 

では、何がすごいのか。

まず、オーケストラの響きのバランス、その見事さです。

オーケストラの各楽器が常に芯のある響きをしっかりと保ち、しかも、弱音であれ、最強音であれ、まったくバランスが崩れません

 

よく、理想的なドイツのオーケストラの音を、低音を底辺とした「ピラミッド型」で表現したりしますが、まさしくお手本のような、立派なピラミッドが構築されます。

ハーモニーは絶えずブレンドされていて、どこをどう切り取っても、文字通り“ 交響楽 ”的に、立体的に響いてきました。

 

あの公演の前には、マリス・ヤンソンス指揮のバイエルン放送交響楽団のコンサートや、エサ=ペッカ・サロネン指揮のロサンジェルス・フィルハーモニックのコンサートを聴いていたのですが、驚いたことに、オーケストラの音のバランス、響きの濃密さは、小澤征爾さんの指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団が群を抜いていました

 

その見事な音のフォルムを聴きながら、「果たして、小澤征爾さんは何日のリハーサルでこれを実現しているのだろう…」と、信じられない思いでした。

耳がずば抜けて良い指揮者なのだと、実演ではっきりと教えられました。

 

 

プロコフィエフでの巧みさと強引さ

 

後半のプロコフィエフでは、その立体的な響きの見事さに加えて、音楽運びの巧さも体験できました。

 

小澤征爾さんは、印象通り、実演においても“ 明朗快活 ”な音楽を作られる方でした。

音楽の深淵をのぞき込むようなデモーニッシュな洞察などとは無縁で、解釈は非常にオーソドックス。

つまり、こちらの想像をこえるような新しい視点が開かれることはありませんでしたが、いっぽうで、音楽が弛緩することを巧みに避ける嗅覚が優れていて、音楽の“ 集中 ”が途切れることは一瞬もありませんでした。

 

さらに驚かされたのが、「ロメオとジュリエット」の終曲“ ジュリエットの墓の前のロメオ ”。

 

小澤征爾さんは、第2組曲のさまざまな音楽を、持ち前の明るい色調でえがいてきたので、この切迫した終曲に入った瞬間は、あまりに唐突な気がしました。

ところが、そう感じたのもつかの間、小澤征爾さんはすさまじい集中力でもって、オーケストラも会場も、何もかもをその切迫した世界のなかに引き込んでしまいました

あの引力、あの強引さ。

 

それはまさに超一流の芸であって、あれができる人は、世界のほんの一握りの音楽家だけでしょう。

小澤征爾さんの突出した才能の一端を垣間見た思いがしました。

 

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もろもろの思い出

 

小澤征爾さんは、あの公演から少しして体調を崩され、演奏会の数もおおきく減りました。

結果的に、あの一回が、私にとって貴重な“ 小澤征爾 ”体験となりました。

 

でも、あの一回で、小澤征爾さんが単にパイオニアとして凄いだけでなく、「指揮者」として疑いようもなく凄いということがわかりました。

できることなら、ボストン交響楽団やサイトウ・キネン・オーケストラとの演奏会も聴いてみたかったです。

 

 

わたしの知る年配のご婦人は、ずっと昔、まだ青年だった小澤征爾さんが日比谷の野外音楽堂で、ジーンズ姿でオーケストラを指揮するコンサートを聴いたことがあるそうです。

その颯爽たる指揮姿は、まったく「新しい時代のひと」という印象で、「とにかく、かっこよかった」と懐かしんでらっしゃいました。

 

 

わたし自身の思い出でいうと、もうひとつ。

小澤征爾さん指揮する新日本フィルハーモニー交響楽団の公演、ソリストがチェロの巨匠ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1927-2007)という豪華さで、ドヴォルザークのチェロ協奏曲とR・シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」という夢のような曲目。

この公演の「最前列」のチケットを手に入れていたのですが、演奏会当日の朝にインフルエンザを発症して高熱でダウン、聴きにいけなかったという思い出があります。

これは未だに悔やんでも悔やみきれない思い出です。

 

♪ドヴォルザーク:チェロ協奏曲(ロストロポーヴィチ&小澤征爾、ボストン交響楽団)

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実演でこその凄さと録音でも伝わるもの

 

そうして実演で接してみて感じたのは、つくづく、小澤征爾さんという指揮者の凄さは、生演奏でなければわかりづらいということでした。

録音だけで接したひとと、実演に触れたひととでは、おそらくかなり評価が違ってくるのではないかと思います。

例えば、小澤征爾さんの最大の特徴である音の立体的なフォルムなどは、録音で聴きとることは至難の業です。

 

これからはもっぱら録音を通して、小澤征爾さんの音楽に触れるしかないわけですが、もちろん、録音を通してつたわる魅力もあります。

その音楽運びの自然さや、たくみに処理された高度のアンサンブルなどは、録音にも、はっきりと刻印されています。

 

レスピーギの「リュートのための古風な舞曲とアリア」は、そうした小澤征爾さんの面目躍如たる録音だと思います。

これは、私にとって手放せない録音のひとつ。

第2組曲の終曲「ベルガマスカ」に聴く、躍動と色彩は、何度聴いても胸がおどる演奏です。

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それと、とりわけ弦楽器を歌わせるときに聴かれる、とっても清潔感のある、抒情的な音楽の表情などは、録音でも十分に感じられる小澤征爾さんの魅力です。

 

その点、実演でプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」を実演で聴けたのは、ほんとうに幸運でした。

このボストン交響楽団との録音は、あの日の美しい音楽を思い出させてくれます。

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そして、場外ホームランのようなスケールを誇る、ウィーン・フィルとのR・シュトラウス「アルプス交響曲」

当時、FMラジオで放送されたものをカセットテープに録音して、何度も聴きました。

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映像をとおして触れる小澤征爾さんはさらに魅力的で、サイトウ・キネン・オーケストラとの共演を中心に、多くの映像が残っているのも幸いなことです。

1992年のブラームスの交響曲第1番はとりわけ印象的で、そのときにNHKで放送された「小澤征爾・ザ・リハーサル」というドキュメントは、小澤征爾さんの振り違えのシーンもあったり、見どころ満載のものでした。

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そして、こちらは別の記事でご紹介したこともありますが、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮しての「ヴァルトビューネ・コンサート1993」

チャイコフスキーの「1812年」など、小澤征爾さんの数ある演奏のなかでも出色の出来栄えだったのではないでしょうか。

現在廃盤ですが、そのうち再発売されると思うので、是非、視聴していただきたいコンサートです。

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小澤征爾さんには膨大な量のレコーディングがあって、まだ触れていないものが私にはたくさんあります。

サブスク・サービスが本格化した昨今なので、あとで聴こうと思っていたレコーディングの数々に、今こそ、ふれていきたいと思います。

お薦めのものを見つけて、また、別稿でご紹介していけたらと思います。

 

というわけで、今回は、小澤征爾さんの思い出をつづりました。

 

おしまいにもうひとつ。

小澤征爾さんの著書で「ボクの音楽武者修行」というものがあります。

24歳の小澤征爾さんが、スクーターで海を渡って、ひとりヨーロッパへ出ていく自伝的エッセイで、青春の日々が率直な文章でつづられています。

小澤征爾さんの魅力を教えられた、忘れられない1冊です。

これから小澤征爾さんに触れてみようという方にも、お薦めの1冊だと思います。

 

 

オンライン配信の聴き方

 

♪このブログではオンライン配信の音源も積極的にご紹介しています。

オンライン配信の聴き方については、「クラシック音楽をオンライン(サブスク定額制)で楽しむ~音楽好きが実際に使ってみました~」のページでご紹介しています。

 

現状、Apple Music アップル・ミュージックがいちばんおすすめのサブスクになっています。

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お薦めのクラシックコンサートを「コンサートに行こう!お薦め演奏会」のページでご紹介しています。

判断基準はあくまで主観。これまでに実際に聴いた体験などを参考に選んでいます。

 

♪実際に聴きに行ったコンサートのなかから、特に印象深かったものについては、「コンサートレビュー♫私の音楽日記」でレビューをつづっています。コンサート選びの参考になればうれしいです。

 

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