「クラシック初心者向け」にブログを書くつもりが、気づいてみるとコアな内容が目立つようになっていました。
というわけで、もっと気軽に聴ける「名曲アルバム」の類いを、シリーズでご紹介していきたいと思います。
今回がその第1回。
テーマは「アダージョ・カラヤン」です。
カラヤンのこと
アルバムのタイトルになっているカラヤンは、モーツァルトとおなじオーストリアのザルツブルク出身の指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan, 1908-1989)のことです。
20世紀後半を代表する指揮者で、その広範囲におよぶ活躍ぶりから「帝王」と呼ばれていました。
それだけの名声を誇っただけに、クラシック好きのあいだには「アンチ・カラヤン」の方が今も昔もたくさんいて、私が高校でお世話になった吹奏楽部の顧問の先生もそうでした。
私自身はカラヤンが大好きで尊敬していますので、顧問の先生といろいろ討論するのが、とてもたのしかった思い出があります。
カラヤンは機械類に関心が強く、レコーディングをとても重視した最初期の音楽家になりました。
そして、世界の頂点にいたのですから当たり前といえば当たり前なのでしょうが、たいへん勤勉だったそうです。
日本を代表する指揮者の朝比奈隆(1908-2001)さんは、一時期ドイツで生活していたときに、偶然カラヤンと同じアパートに住んでいたそうで、カラヤンは夜遅くまで仕事をして帰ってくるのに、翌朝、朝比奈隆さんが目を覚ますころには、既にカラヤンの部屋からはピアノの音がしていたそうです。
「たいへんな勉強家だった」とインタビューで話されているのを聞いたことがあります。
アダージョ・カラヤン
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ヘルベルト・フォン・カラヤン(Herbert von Karajan, 1908-1989)が残した大量のレコーディングのなかから、ゆっくりとした曲調のものを選び出したオムニバス盤です。
1995年にリリースされて、スペインを中心とするヨーロッパ、そして日本でも異例の大ヒットをとばしたアルバムです。
カラヤン本人は1989年に亡くなっているので、このアルバムはカラヤン本人の意思とは関係なく、レコーディング会社が企画・リリースしたものです。
それだけに、ヒットはしたものの、今ふりかえれば、仕事人だったカラヤンが丹精込めて仕上げた録音から、勝手に切り売りがされたとも言えるわけで、その点は少し申し訳ない気持ちもするアルバムです。
収録曲一覧
1:マーラー:交響曲 第5番 嬰ハ短調~第4楽章: アダージェット
2:🔰パッヘルベル:カノンとジーグ( ♫ 鑑賞ガイド )
3:🔰マスネ:歌劇《タイス》~瞑想曲
4:ブラームス:交響曲 第3番 ヘ長調~第2楽章: アンダンテ
5:ヴィヴァルディ:シンフォニア ロ短調 RV169《聖なる墓に》~第1楽章: アダージョ・モルト
6:グリーグ:《ペール・ギュント》 第1組曲~第2曲: オーセの死
7:モーツァルト:ディヴェルティメント 第15番 変ロ長調 K.287~第4楽章: アダージョ
8:アルビノーニ:弦楽とオルガンのためのアダージョ ト短調
9:ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 作品92~第2楽章: アレグレット
10:🔰バッハ:管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068~G線上のアリア
11:シベリウス:悲しきワルツ
🔰=おそらく、クラシックに詳しくない方でも耳にしたことがあるはずの楽曲
アルバムは、マーラーの交響曲第5番の第4楽章アダージェットに始まります。
この曲は、19世紀から20世紀初頭にかけて活躍した指揮者にして作曲家のグスタフ・マーラー(1860-1911)の作曲。
マーラーという人は、非常に厭世的な世界観をもっていて、簡単に言ってしまえば屈折した曲が多いのですが、この曲は、とっても美しい、ロマンティックな楽章です。
これはマーラーが奥さんとなるアルマ・シントラーと出会ったころに書かれたせいで、マーラー自身、この楽章はアルマへの愛の音楽だと手紙に残しています。
学生カラヤンのエピソード
クラシックのアルバムとして異例のベストセラーになった「アダージョ・カラヤン」ですが、私は今回、この記事を書くために初めて耳にしました。
実は、クラシック・マニアほど聴いていないアルバムなんじゃないかと思います。
カラヤンはオーケストラの指揮だけでなく、オペラの指揮者としても超一流で、特に“ 歌う ”という点において、オーケストラから、美しいレガート、非常になめらかな旋律線を引きだすことのできた指揮者でした。
このアルバムのようにメロディーが美しい作品を連続で聴いていると、その歌いまわしの美しさがはっきりと感じられます。
人によっては「メロディーがきれいなだけの曲」「通俗的」と批判するような名曲も含まれているわけですが、そうした楽曲でさえ真剣勝負で、緊張感に満ちた、非常に高い精度の演奏が展開されているところに頭がさがります。
こうした姿勢はカラヤンがまだ学生だったころのエピソードに由来するのかもしれません。
あるとき、イタリアの大指揮者アルトゥーロ・トスカニーニ(1867-1957)がウィーンにやってきて、たしかドニゼッティのオペラだったかを上演したときのエピソードです。
学生カラヤンは音楽を学んでいる仲間たちと集まってピアノを囲んで、上演予定のオペラをみんなで予習したんだそうです。
彼らが不思議に思っていたのは、どうしてあれほどの大指揮者がヴェルディでもワーグナーでもなく、ドニゼッティをわざわざ指揮しに来るのか、という点だったそうです。
スコアをみんなで予習した結果導き出されたのは、「やはり、わざわざ巨匠がとりあげるべき作品ではなく、これは低俗なオペラだ」という結論。
ところが、そうして、実際トスカニーニが指揮するドニゼッティのオペラを劇場に聴きに行ってみたところ、あまりの素晴らしさに全員が打ちのめされて帰ってきたんだそうです。
そのことについて「世の中には低俗な音楽などなく、低俗に演奏されるから低俗になってしまうのだと教えられた」と、晩年のカラヤンは振り返っていました。
まさに彼の言葉のとおりで、「タイス」の瞑想曲などをこれほど精緻に、そして、高貴に演奏しているものは、ほかにあまり聴いた覚えありません。
伝説的コンサートマスター、ミシェル・シュヴァルベの丹精込めたソロも聴きどころです。
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このアルバムの次に聴くべきアルバム
このアルバムのさらに先へ行こうと思った方は、「オペラ間奏曲集 Opera Intermezzi」をどうぞ。
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1.ヴェルディ: 歌劇《椿姫》 第3幕への前奏曲
2.マスカーニ: 歌劇《カヴァレリア・ルスティカーナ》 間奏曲
3.プッチーニ: 歌劇《修道女アンジェリカ》 間奏曲
4.レオンカヴァッロ: 歌劇《道化師》 間奏曲
5.ムソルグスキー[リムスキー=コルサコフ編]: 歌劇《ホヴァーンシチナ》 第4幕への間奏曲
6.プッチーニ: 歌劇《マノン・レスコー》 第3幕への間奏曲
7.フランツ・シュミット: 歌劇《ノートル・ダム》 間奏曲
8.マスネ: 歌劇《タイース》 瞑想曲(第3幕への間奏曲)
9.ジョルダーノ: 歌劇《フェドーラ》 第2幕への間奏曲
10.チレア: 歌劇《アドリアーナ・ルクヴルール》 第2幕への間奏曲
11.マスカーニ: 歌劇《友人フリッツ》 間奏曲
題名通り、オペラのなかで演奏される「間奏曲」の名曲をあつめたもので、こちらはカラヤンが正式にリリースしたアルバムです。
全編が聴きどころですが、どれか1曲となれば、まず2曲目のマスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲を聴いてみてください。
イタリアの作曲家ピエトロ・マスカーニ(Pietro Mascagni, 1863-1945)の代表作で、三角関係に端を発する決闘と殺人をえがいたオペラですが、その血なまぐさいクライマックスの直前に挿入されているのが、この神秘的なまでに美しい間奏曲です。
あるいは、7曲目のオーストリアの作曲家フランツ・シュミット(Franz Schmidt、1874-1939):「ノートルダム」間奏曲は、めったに演奏されませんが、一度聴くと忘れがたい、たいへん美しい和声をもった音楽です。
奥さんのエリエッテ・フォン・カラヤンの言葉によれば、こうした「必ず売れる」であろう名曲アルバムの類いを、年に1枚は録音することがレコード会社との約束だったんだそうです。
いかに帝王カラヤンといえども、無条件ではブルックナーの交響曲全集などは録音できなかったということでしょう。
でも、前述したカラヤンの言葉のとおり、こうした小品集が低俗になることなく、第一級の演奏で残されているところに、彼の音楽家としての良心を感じます。
長い曲が苦手な方にお薦めのアルバム
帝王カラヤンの2枚のアルバムをご紹介しました。
いずれも5分前後の短い楽曲ばかりがあつめられたアルバムで、「長い曲はまだハードルが高い」という方にもお薦めのアルバムです。
帝王カラヤンと名門ベルリン・フィルによる、最上級に美しく、最大級にダイナミックな演奏で、クラシック音楽に親しんでみてください。
♫このブログでは、音源をご紹介するときに、オンライン配信されているものを中心にご紹介しています。オンライン配信でのクラシック音楽の聴き方については、「クラシック音楽をオンライン(サブスク定額制)で楽しむ~音楽好きが実際に使ってみました~」という記事にまとめています。