CD録音レビュー

はじめて買う人のための《四季》ーCD選びで迷ったときに

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クラシックのCDというのは名曲ほど種類もたくさんあって、しかも、「四季」は録音によって、びっくりするくらい印象もちがってきます。

モダンオーケストラによる演奏もあれば、古楽オーケストラによる演奏もあります。

優雅な趣きをたたえた演奏もあれば、ひたすらに刺激的な表現を追い求める演奏もあります。

 

この記事では、そんな「四季」の録音がテーマです。

ファーストチョイスとしてお薦めしたい3つの録音を比較して、その魅力をつづります。

 

ヴィヴァルディ:協奏曲「四季」を聴く

 

ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ミシェル・シュヴァルベ(独奏)

 

いま現在、実演で、こういう「四季」は聴くことができません。

比較的おおきな編成のオーケストラ、現代の楽器を使ってのモダン・アプローチ。

そして、レガートを基調とした、なめらかなフレージング。

どれもこれもが、現代の潮流と逆行しています。

 

それゆえに、“ 過去の ”名盤として脇に追いやられている印象すらあるのですが、これは紛れもなく超一流の演奏。

普遍的な価値をもった、聴かれ続けるべき録音です。

 

ソロを弾いているシュヴァルベの回想によれば、この録音の日は、別の楽曲を録音するはずだったのに、指揮者のカラヤンがスタジオに姿を現すなり「今日は四季をやる!」と突然言い出したそうです。

短いリハーサルを経ての一発録りのようになったようですが、録音を聴く限り、まったくそうは聴こえません。

 

実際に聴こえてくるのは、どこまでも精緻なヴィヴァルディ。

それでいて、劇的な要素も不足せず、といって、どんなにドラマティックな表情の箇所でも微塵の乱れもありません。

そこにあるのは決して機械的な精巧さではなく、あくまで人間の、繊細な手仕事からうまれた最上の織物のような仕上がり。

 

このとき、シュヴァルベはもっとヴァイオリンを目立たせたかったようですが、「全体のなかからヴァイオリンが浮き上がってくるようでなければならない」というカラヤンの意見を受け入れたそうです。

確かにその通りになっていて、シュヴァルベの美しいソロはオーケストラの合奏のなかに見事に溶け合っています。

 

今は古楽奏法といって、ヴィヴァルディが生きていた時代の演奏方法や習慣を重視するスタイルが主流です。

もちろん、カラヤンがそうした潮流の存在を知らなかったはずはありません。

それを知っていて無視している凄みというか、あくまで自身の美学を徹底して追及している姿には、一時代を築く芸術家の姿が垣間見れます。

 

1972年の夏、スイスにある避暑地サンモリッツで生まれた、絶頂期のカラヤン&ベルリン・フィルによる忘れがたい記録です。

 

 

 

 

リ・インコーニティ
アマンディーヌ・ベイエ(独奏)

 

イタリアの太陽をいっぱいに浴びた、清新で、自由快活な演奏と言ったらいいでしょうか。

アマンディーヌ・ベイエは、1974年フランス生まれのバロック・ヴァイオリン奏者。

彼女を中心としたアンサンブルが、2006年に生まれたリ・インコーニティ。

 

飛んだり、跳ねたり。

楽譜にない音もたくさん聴こえてきます。

こういう自由奔放な演奏は、昨今ではあまり珍しくもないのですが、アマンディーヌ・ベイエたちの演奏には抜きんでた「純粋さ」があります。

 

刺激的であろうとしているわけではなくて、無邪気なこどものような純粋さ、何にもしばられていない自由さを大切にしているがゆえの演奏だろうと感じられます。

ヴィヴァルディがこれを聴いたら、びっくりもするでしょう。

でも、次の瞬間には、きっと微笑んでいるにちがいありません。

 

ここには、他の録音からはなかなか聴けない、無垢な音楽のよろこびがあります。

 

 

 

イ・ムヂチ合奏団
ピーナ・カルミレッリ(独奏)

 

イ・ムヂチ合奏団は、1951年、当時18歳のヴァイオリニスト、フェリックス・アーヨ(Félix Ayo、1933 – 2023)が結成したイタリアのアンサンブル。

「四季」を日本でこれほどの人気作品にしたのは、紛れもなく、この合奏団です。

 

そのときどきのリーダーが独奏を務めて、何種類もの名録音を世に送り出しているイ・ムヂチですが、ここで取り上げるのは、ピーナ・カルミレッリ(Pina Carmirelli, 1914-1993)が独奏をつとめたもの。

彼女のヴァイオリンは、イタリアの“ カンタービレ ”の伝統、その最上の例のひとつだと思います。

その輝かしい音色のなかには、一片の憂いもあって、どこか哀切の響きがするところには胸がしめつけられます。

 

上でご紹介したアマンディーヌ・ベイエ&リ・インコーニティとは全く違って、何にも新しいことをしていません。

それなのに、音楽には自然な歌が、そして、新鮮な躍動が心地よくあって、私たちが「四季」に聴きたいものはすべてある、そんな録音になっています。

 

イ・ムヂチがイ・ムヂチらしかった最後の時代と言われるカルミレッリの時代。

この録音からは、アーヨ、ミケルッチといった名手たちから受け継がれた、イ・ムヂチの偉大な伝統、高貴な音の芸術が聴こえてきます。

もっとも「四季」らしい「四季」というのは、こういう演奏を言うのかもしれません。

 

 

 

まとめ

 

カラヤン、ベイエ、カルミレッリの3種類の録音をご紹介しました。

より普遍的な表現を志向しているのは、カラヤンとカルミレッリでしょうか。

 

比較的編成の大きな響きで聴きたい場合はカラヤン盤を、室内楽的な響きで聴きたいときはカルミレッリ盤を聴いてみてください。

 

そして、自由で、新しい「四季」に触れてみたいときはベイエ盤を聴いてみてください。

それぞれが全く違っていますが、どれも間違いなく、ヴィヴァルディ本人が聴いても納得するであろう、素晴らしい「四季」の録音です。

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